ラーメン好きミュージシャンが、一杯の味わいを一曲に例える斬新コラム━━━
サニーデイ・サービス 田中 貴のラーメン狂走曲「珉亭[下北沢]」
下北沢でイマドキのラーメン屋は流行らない。庶民的な商店街、雑貨屋と古着屋が軒を連ね、役者志望、ミュージシャンの卵も多いこの街の人たちが求めるのは、マーケティングや戦略では推し量れない、人間味あふれるラーメン屋なのだ。
田中 貴
1年がかりで制作しているサニーデイ・サービスのニューアルバムは、2020年の発売に向けて最終追い込み中!
ロックンローラーを目指すすべての少年の憧れの場所
下北沢でラーメンといえば、二択である。「珉亭」か「一龍」。ちょっとこってりいきたいなら一龍。さっぱりいくなら珉亭。ザッツオール。
今回紹介する「珉亭」は1964年創業。昔から変わらぬ店構えは、若干くたびれてるようにも見えるが、いやいや、掃除の行き届いた店内は清潔で居心地が良い。古いと汚いは違う。汚くてウマい店など存在しないというのは僕の持論。「最初はみんな掃除から教わるんだ。掃除もできない人間に、ちゃんとした料理など作れない」とは、何人ものベテラン職人さんから聞いた言葉だ。
僕が珉亭に初めて来たのは、上京したばかりの30年前。ブルーハーツのヒロトがバイトしていた店として、ロックンローラーを目指すすべての少年の憧れの場所であった。暖簾には「世界で三番目に旨い」と名文句が掲げられている。創業者である佐藤進一さんが、近所の下宿住まいの若者に言っていた口癖で、「一番はおふくろの味、二番目は親父のスネ、三番目は珉亭のそばの味」ということらしい。親への感謝の気持ちを忘れぬように、そして、いまはウチが安くお腹いっぱいにしてやるから、しっかり食べて夢に向かって進めという先代の心意気を感じる。昔は、ラーメン屋の大将から人生を教わることもあったのだ。
名物は「江戸っ子ラーメン」。当時の札幌ラーメンブームに対抗すべく考案されたメニューで、通常よりもふた回りほど大きな丼で江戸っ子らしい気っ風のよさを演出する。辣白菜と呼ばれる、ピリ辛の白菜の漬物がアクセントだ。キムチのように、魚介の旨みが入らないシンプルな辛味が、なんとも絶妙にマッチング。うん、やっぱりウマい!
今日も誰かが夢を語り今日も誰かがクダを巻く
珉亭に来るなら、是非とも2階の座敷の雰囲気も味わってほしい。数十人は入れる広い座敷には、普段使いの近所のオッちゃん、雑貨屋めぐりの若い娘さん、顔中ピアスだらけのパンクロッカーたちが、分け隔てなくワイワイやっている。小洒落たうんちく満載のラーメン屋なぞ、この街の人は誰も求めていない。珉亭の2階、ここは下北という街の縮図である。
これも味わいたい!
この一杯からはこんな音色が聴こえてきた!
The COMMONS「怒髪天が如く!!!(親愛なる我が友に捧ぐ)」(右)、「BRAiN DREAMS」(左)
何気なくラーメンを食べに来ているようで、先輩たちの影にすがりたくて訪れる。ワシには愛する下北沢があるから、信じたこの街を、このワシはいくだけ。すべては心の決めたままに。
【店舗情報】
珉亭
住所:東京都世田谷区北沢2-8-8
営業時間:11:30〜23:30
定休日:月曜日(祝日の場合翌日)