ダイニチ工業は、石油ファンヒーターや加湿器のトップランナーとして知られる新潟のメーカー。実はヒーターや加湿器で培った技術を活かし、コーヒー事業も展開しているのをご存じでしょうか? 2023年、同社は家庭用のコーヒー豆焙煎機を発売して話題になりましたが、今回はそれに続く新製品として「コーヒーメーカー MC-SVD40A」を発表。社長が開発担当者に「無茶ぶりをした」と語ったその製品は、2人のトップバリスタが監修し、まったく違う2つの淹(い)れ方をひとつのマシンで再現したといいます。

方向性がまったく違う抽出モードはいずれも絶品
まったく違う2つの淹れ方とは、「CLASSIC」モードと「NEW WAVE」モードです。発表会の試飲コーナーで、実際にその味わいを確かめてみました。まずは、「CLASSIC」モードから。こちらは「やさしく注ぐことで豆を均一に蒸らし、膨らませる」といった抽出の動きを再現しています。飲んでみると、深煎り豆の甘く香ばしい風味がしっかり引き出され、こっくりしていながらクリアで絶品。

続いては、「NEW WAVE」モードをお試し。こちらは、「回しながら蒸らす」「大流量で強く攪拌(かくはん)する」といった抽出の動きを再現したモード。浅煎り豆による果実味が際立ち、柑橘系の爽やかな香りや、りんごやベリーを思わせる味わい。明るく甘酸っぱい上品なニュアンスです。
試飲すると、改めて「CLASSIC」と「NEW WAVE」がまったく方向性の違う味だというのがわかります。ただ、いずれのモードも雑味が少なく、豆の個性が強く感じられる点で共通しており、確かに、プロのハンドドリップの美味しさをうまく再現していると感じました。

「2つのプロの淹れ方をひとつのマシンで」社長が無茶ぶり
ではなぜ、ひとつのマシンに2人の監修者をつけたのでしょうか? その経緯として、まず、同社の吉井 唯社長は、ハンドドリップの味と既存のコーヒーメーカーの味に大きな差がある点に着目。ハンドドリップの名手を監修につけ、その味を完全に再現できれば「後発メーカーでも勝算がある」と考えたそう。社内で監修者の候補を2人にまで絞り込みましたが、その2人は「味だけではなく、淹れ方もまったく異なっていた」といいます。
「どちらに監修をお願いすべきか検討していましたが、両方とも本当に美味しいので、両方採用したいと思いました。そして、全く異なる2つの淹れ方をひとつのマシンで再現できたら、それは革新的なコーヒーメーカーになるんじゃないか、と考えてしまったんです。そこで、私は開発陣に無茶ぶりをしました」(吉井社長)

その無茶ぶりをされた当事者が、開発担当者の高野優斗さんです。
「社外の方に監修についてもらうという製品がなかったもので、どうやって進めていくんだろう、というのと、お2人の監修をひとつのマシンにまとめなければならない。どうなっていくんだろうな……と非常に不安に思っていました」(高野さん)
無茶ぶりされた当人にとって、「1人に絞ってよ~」というのが本音でしょう。2人の淹れ方を再現するとなると、工数も難易度も2倍以上に跳ね上がるのは明白……担当者としては、たまったものではないですね。

「全然違う!」1人めの監修者との衝撃的な出会い
次に、肝心の2名の監修者について触れていきましょう。ダイニチ工業の開発陣は様々なメディアで情報を集め、数々の有名店に足を運んでコーヒーを吟味のうえ、適任者を探したといいます。そうして白羽の矢が立ったのが、世界中にファンがいる渋谷の名喫茶「茶亭 羽當(ちゃてい はとう)」の天野 大(あまの だい)さん。
天野さんとダイニチ工業との縁は、2022年、同社のコーヒー豆焙煎機の発表会をサポートしたことから始まりました。発表会の試飲コーナーで天野さんが淹れたコーヒーを飲んだダイニチ工業の面々が、「いつものコーヒーと全然違う!」と衝撃を受けたそう。その後、開発陣は改めて天野さんのお店に足を運び、その味に感銘を受けたといいます。
天野さんが得意とするのは、濃厚でありながら雑味がなく飲み飽きない一杯。深煎り豆にマッチした味わいで、日本の喫茶店で長年親しまれてきたスタイルです。この天野さんの味を再現したのが、本機の「CLASSIC」モードなのです。

「何やってる人だろう?」毎月訪れるスーツ集団がダイニチの開発陣だった
もうひとりの監修者は、代々木と東銀座にスペシャルティコーヒースタンド「Brewman Tokyo」を構える小野 光(おの ひかる)さんです。小野さんは、オーストラリアと香港でバリスタとして修業を積み、その後「Japan Brewers Cup 2022」で優勝した経験も持っています。
そんな小野さんのお店に対し、ダイニチ工業の担当者は、定期的に足を運んで味を確かめていたといいます。
「毎月、スーツ姿の方が2~3人で訪れて、2杯ずつ飲んで無言で帰っていく……そんなことが続いていまして、『何をやってる人なんだろうな』とずっと気になっていました(笑)。その後、お店でお話を聞かせてもらって、コーヒーに情熱を持っている方たちだな、と思いました。自分もオファーを受けたら基本的に断らないですし、今回は情熱的な方たちとやりたいな、ということで、プロジェクトに参加させてもらいました」(小野さん)
そんな小野さんが得意とするスタイルは、一般的に「ニューウェーブ」と呼ばれるもの。豆本来の味をしっかりと引き出しつつスッキリとして、奥深い味わいのコーヒーを得意としています。比較的に浅めの焙煎度合いの豆に適した、フルーティーかつ上質な酸味のあるテイストで、モダンなカフェやコーヒースタンドに多いスタイル。この小野さんの味を再現したのが、「NEW WAVE」モードです。

「できなければ監修は断ろうと…」バリスタが無茶ぶりした回転式ノズル
監修者の2人は東京から新潟へ4~5回足を運び、試飲を繰り返して開発陣にフィードバック。開発陣は改善案を検討する……という日々が続いたそう。開発のなかでハンドドリップの所作を再現すべく、生まれたアイデアのひとつが、モードに応じて使い分けるドリッパーでした。ドリッパーは監修者が愛用しているモデルにならい、穴の大きさや数、リブ(溝)などが同様の設計となっています。

もうひとつの大きなポイントが、難易度が高すぎて開発者が「できれば使いたくなかった」という「回転式ノズル」。こちらは注湯部のパーツが時計回りに回転することで、円を描くように注湯する機構です。

実はこの回転式ノズルは、バリスタの天野さんが提案したものでした。回転式ノズルでコーヒー豆に湯を均一に行き渡らせることで雑味を抑え、香りや甘み、コクといった魅力を引き出したい、と考えたといいます。
「開発担当の方が大変そうだな……とは思っていたのですが、自分がやるからには、一番外せないポイントだったので。それができなければお断わりしようかな、ぐらいの気持ちで無茶ぶりをしましたね」(天野さん)


回転式ノズルは、「NEW WAVE」モードを実現するために、さらなる改良が加えられました。当初、2つだった注湯ノズルの穴を3つに増やすことで、目標とする豆を大きく攪拌する抽出に成功。「安定して穴から湯が出ない」などの課題もあったそうですが、試行錯誤を経て課題を克服し、本機は完成に至ったのです。
【動画】「CLASSIC」モードの回転式ノズルの動き
2つの注湯口からコーヒー豆の中央に少量の湯を落とし、じっくりと蒸らすのが特徴です。
【動画】「CLASSIC」モードの回転式ノズルの動き
3つの注湯口から勢いよく広範囲に湯を注ぎ、豆を攪拌するようにして抽出します。
完成した製品に対して、天野さんは「抽出の技術はプロに近いものができた」と満足感を語り、小野さんは「シンプルな使い方で家庭でも美味しいコーヒーに手が届く時代が来た。楽しみです」と期待感を語ってくれました。
確かに、試飲で飲んだ際のクリアかつ個性際立つ味わいを思うと、監修者が太鼓判を押すのも納得です。2つのまったく違う淹れ方も楽しめますし、様々な豆に対してどのモードが合うのか追求するのも楽しいでしょう。約5万円と価格が手ごろなこともあって、もしかしたら業界の台風の目になるかも……そんな期待を抱かせてくれるモデルでした。

小野さんを監修に迎えてコーヒー豆焙煎機がリニューアル
このほか、2023年に発売された家庭用焙煎機もリニューアルされました。進化した新モデル「コーヒー豆焙煎機 MR-SVF60B」は9月17日に発売されます。

本製品は、コーヒーメーカーで「NEW WAVE」モードを監修した小野 光さんが監修しました。大きなリニューアルポイントは、昇温時間の制御を向上させたこと。従来機はバラつきを抑えるためゆっくりと時間をかけて昇温を行っていましたが、「MR-SVF60B」ではバラつきも抑えながらの素早い昇温を実現。これにより、浅煎りの際の課題だった煎りムラや青臭さを抑え、多様な味わいを引き出すことに成功。中・深煎りも雑味がなくバランスの良い味わいになったといいます。

また、焙煎レベルが従来機の5段階から7段階に増加し、エスプレッソモードが追加されました。個人的に気になったのは、エスプレッソモードです。こちらは単に加熱の温度や時間で焙煎度合いを変えるだけでなく、デベロップメントフェーズ(豆がバチっと弾けるファーストクラックの開始から焙煎終了まで)を伸ばすことで甘みや香ばしさなどを引き出し、エスプレッソがよりおいしく楽しめるようにチューニングしたモードとのことでした。


生ごみ乾燥機で業界初のホルダー型を採用
コーヒー関連以外の新製品も併せて発表されました。まずは11月5日に発売予定の「家庭用生ごみ乾燥機 GD-28A」。家庭用生ゴミ乾燥機としては、業界初のホルダー型を採用し、乾燥前から乾燥後までホルダーにポリ袋を取り付けて処理するため、生ゴミに直接触れることなくゴミが捨てられます。

運転音は通常モードで36dB、一時静音モードで32dBと高い静音性を誇るほか、ほぼA4用紙に収まるコンパクトなサイズ(縦359mm×横216mm×奥行254mm)も特徴です。

背面エアフィルターのホコリがゴッソリ取れる加湿器
ダイニチ工業が得意とするハイブリッド式加湿器の新製品も発表。2025年度モデルでは最上位のLX・LXCタイプに「かんたんフィルタークリーナー」を搭載しました。

「かんたんフィルタークリーナー」は、ほこりがたまりやすい吸気口の背面エアフィルター部分を、左右にスライドするだけで手軽に掃除できる機能。ここにほこりがたまると、空気の通り道をふさいで最大15%もムダな電気代を使ってしまうそうなので、ここをワンタッチで掃除できるのはうれしいところ。

以上、今期のダイニチ工業の自信作を紹介しました。発表会では、吉井社長が「圧倒的な性能とカンタン操作」というキーワードを使っていましたが、いずれも基本性能が高く、シンプルな操作性が光るモデルが揃っています。なかでも斬新さで目を引いたのは、2人のバリスタが監修し、回転式ノズルを搭載した「コーヒーメーカー MC-SVD40A」ですね。発売は12月24日と少々先ですが、コーヒー好きはいまから要チェックです。
