2019年は、2018年から続くフルサイズミラーレスカメラ市場への新規参入だけでなく、APS-Cサイズカメラやマイクロフォーサーズなども含めて、ミラーレスカメラへのシフトがいよいよ本格化した1年といえるだろう。本稿では、2019年に数多く登場したミラーレスカメラを中心に、その傾向や特徴などを振り返りつつ、2020年のカメラ市場がどういった方向性に進むかを予想してみようと思う。
注目のフルサイズミラーレスカメラ市場にはパナソニックやシグマが新たに参入
まず、フルサイズミラーレスカメラについて見ていこう。
従来はソニーの独壇場だったが、2018年にキヤノンとニコンが参入。さらに、2019年にはパナソニックとシグマもライカLマウント採用機で参入するなど、いまミラーレスカメラのなかでも特に注目度が高まっている分野だ。2019年に登場したフルサイズミラーレスカメラのなかでもソニーα7R Ⅳ、キヤノンEOS RP、パナソニックLUMIX Sシリーズ、シグマfpは象徴的なモデルといえるだろう。
まずソニーα7R Ⅳ(9月6日発売)は、約6100万画素の超高画素機でありながら、約10コマ/秒の高速連写が可能。少なくとも高価格帯の製品については、高画素機であっても連写などのパフォーマンスを犠牲にする必要がなくなってきていることを示した。
次にキヤノンEOS RP(3月14日発売)を見てみると、画素数は約2620万画素で連写速度は約5コマ/秒と性能面で突出した部分はないが、ボディの質量が約485gと軽量。価格も実売で16万円前後(ボディ)と一眼レフも含め、フルサイズ機としては低価格だ。キヤノンとしては2機種目のフルサイズミラーレスカメラで、普及価格帯を狙ってきており、まずは少しでも多く市場シェアを押さえたいという思惑がうかがえる。
実際、カメラ好きのユーザーには、このEOS RPでフルサイズミラーレスデビューしたという人も少なくないと思う。市場シェアという意味では、先行してフルサイズミラーレスを開発してきたソニーのシェアが大きいが、ようやくシェアを取るためのカメラがソニー以外からも出てきたということだろう。
2019年になって新たに市場参入したパナソニックのLUMIX Sシリーズは、ミラーレス=小型・軽量という一般的な概念をあえて避け、レンズなども含めたトータルでのバランスを追求している点でほかのメーカーと大きく異なる。そのうえで有効約2420万画素センサーを採用して高感度特性を高めたS1(3月23日発売)、有効約4730万画素と高画素なS1R(3月23日発売)、CINEMA4K動画撮影などシネマクオリティの動画性能を備えたS1H(9月25日発売)と3タイプを発売。後発ではありながら、同社の本気度を感じるラインナップとなっている。
残るはシグマfp(10月25日発売)だが、このカメラは画素数こそ有効約2460万画素と一般的だが、機械式のシャッターを廃して電子式シャッターのみとし、加飾の少ないボディのデザインはもちろん、ボタンなども必要最小限。そして、ボディサイズは約112.6×69.9×45.3mmというポケットサイズを実現している。
写真だけでなく、動画撮影用のカメラとしても、この小ささは魅力的。電子シャッターのおかげで、高速連写は最高18コマ/秒と十分な速さがあり、4K動画撮影にも対応している。レンズもライカLマウント互換なので、シグマ純正レンズだけでなく、ライカやパナソニックの同マウント仕様のレンズが使えるので、レンズラインナップも比較的多くなっている。
このように、同じフルサイズミラーレスであっても性能重視の高価格帯、お買い得な低価格帯、個性や利便性を重視した中価格帯といったように、メーカー、あるいは機種ごとの戦略が反映されている。
フルサイズ以外の各社ミラーレスカメラの動向
では、フルサイズ以外のミラーレスカメラに目を向けてみると、APS-Cサイズでもフルサイズカメラに近い違いが出てきている。ここで注目したいのは、ソニーα6600と富士フイルムX-Pro3、ニコンZ 50だ。
ソニーα6600(11月1日発売)は、有効約2420万画素機で最高約11コマ/秒の連写が可能。光学式5軸ボディ内手ブレ補正を採用し、瞳AFの動物対応など同社の最新機能を満載する。
富士フイルムX-Pro3(11月28日発売)は、独自の光学式・電子式の切り替えが可能なファインダーやチタン外装を採用した、有効約2610万画素機。「ファインダーを覗いて撮る」というスタイルを突き詰めた、同社APS-Cサイズ機(Xシリーズ)のフラッグシップモデルだ。このソニーと富士フイルムの2機種は、方向性は異なるが、いずれもAPS-Cサイズモデルの可能性を突き詰めたモデルといえ、ミラーレスカメラで先行する2社のユーザーに向けた“サービス”といえるモデルだ。
一方、ニコンZ 50(11月22日発売)は同社が昨年発売したフルサイズミラーレス、Z 6、Z 7と同様のマウントシステムを採用したAPS-Cサイズ機であり、戦略機種といえるモデルだ。同時期にフルサイズミラーレス機を投入したキヤノンがフルサイズのまま価格を下げてきたのに対し(前述のEOS RP)、ニコンはセンサーサイズを下げて普及価格帯を狙ったかたちだ。
画素数は有効2088万画素で連写も約11コマ/秒と実用上十分な性能を確保。センサーサイズや画素数を欲張らなかったぶん、基本スペックを下げずに低価格化できているので、入門者からベテランユーザーまでストレスなく撮影が楽しめるはずだ。
このほか、マイクロフォーサーズではオリンパスがOM-D E-M1X(2月22日発売)やE-M5 Mark III(11月22日発売)などを投入。パナソニックもLUMIX G99(5月23日発売)などを発売した。基本的には中・上位機種のブラッシュアップ版といえるものだが、オリンパスの最上位モデルとなるE-M1Xは2基の画像処理エンジン持つ「ダブルTruePic VIII」を採用。約7.5段分の手ブレ補正機能やディープラーニングテクノロジーを活用した「インテリジェント被写体認識AF」を搭載するなど基本性能や機能の高さが光るモデルだ。
ほかの2機種はボリュームゾーンとなる中級機であり、2社ともに力の入った製品となっている。特にパナソニックのLUMIX G99はタイミング的にLUMIX Sシリーズでフルサイズミラーレスカメラに参入したあとのモデルであり、従来からのLUMIXユーザーは今後のマイクロフォーサーズ機の展開に期待の持てる製品となったはずだ。
また、2019年登場のミラーレスカメラで忘れてはいけないのが、富士フイルムのGFX100(6月28日発売)だ。本機は、43.8×32.9mmの大型センサーを採用し、画素数は有効約1憶200万画素を達成。価格は実売で135万円前後と超高価なカメラではあるが、ミラーレスカメラの1つの到達点といえる。
製品数が多いこともあり、新製品に目が行きがちなミラーレスカメラだが、2019年は上位機種を中心にいわゆる“瞳AF”や“動物瞳AF”が普及した年でもある。これらは、人や動物の瞳を検出してその位置にAFでピントを合わせてくれる機能で、顔認識機能でも追い込めなかった人物撮影での微妙なピントのズレを大幅に改善してくれる機能だ。こうした新機能の搭載や開発が活発なのも、このジャンルを盛り上げている1つの要因といえるだろう。
一眼レフはごく一部の製品にとどまる。コンデジは高級コンパクトが主流に
ここまではミラーレスカメラについて見てきたが、もちろん一眼レフやコンパクトデジカメの新製品も登場している。
一眼レフではキヤノンの入門機、EOS Kiss X10(4月25日発売)なども登場したが、注目したいのは同社のEOS 90D(9月20日発売)。久々の中級機の登場ということもあって注目を集めたが、APS-Cサイズセンサー採用ながら約3250万画素と高画素で連写も約10コマ/秒(ファインダー使用時)を達成。
高感度性能も改善され、前モデルであるEOS 80D(2016年3月発売)から大幅に機能が向上。部分的には上位モデルのEOS 7D Mark II(2014年10月発売)をも凌ぎ、多くのキヤノンユーザーを喜ばせた。ただ、一眼レフに関しては、キヤノン以外のメーカーはあまり元気がない印象だ。
コンパクトデジカメでは、低価格モデルとしては、カラビナ状のスポーツファインダーを装備しつつ背面モニターを廃したキヤノンの野心作、 iNSPiC REC(インスピック レック・12月20日発売)などが登場したものの、数としては多くはない。むしろ、比較的大きなセンサーを採用した、いわゆる高級コンパクトと呼ばれるジャンルの製品のほうがメインといえる。そのなかで注目すべきモデルとしては、ソニーのRX100VII(8月30日発売)とリコーのGR III(3月15日発売)がある。
RX100VIIは、1型センサー採用の小型機でありながら、AF/AE追従での最高20コマ/秒連写を達成。しかも、撮影中に画面が暗くならないブラックアウトフリーも実現している。同社のハイエンドミラーレスカメラ、α9並みの連写・AF性能を誇る。
一方のGR IIIは、APS-Cサイズセンサーを搭載しながら、レンズを28mm相当F2.8の単焦点レンズとすることで、スナップ撮影などに最適な小型・軽量ボディを実現した人気機種。本機ではレンズなどが新設計となり、手ブレ補正や高速かつ正確なAFを実現するなど、基本デザインを踏襲しながらも全面的にブラッシュアップが図られている。コンパクトデジカメとしては高額ながら、現在でも高い人気を誇る注目機種だ。
高付加価値化・高価格化が加速
ここまで、2019年に登場したミラーレスカメラや一眼レフ、コンパクトデジカメについて見てきたが、全体の傾向としては、いずれのジャンルも高付加価値化する傾向にある。性能・機能的には申し分のないものが多くなっているが、残念ながら同時に高価格化も進んでいるのが実情だ。
ただ、2019年に限らず最近の傾向として、ファームアップによって機能追加や動作の高速化などが付加されるケースが増えてきている。加えて、高価格帯の製品を中心に製品のライフサイクルも長くなる傾向にあるようだ。そのため初期投資はかさむものの、長い期間使えるカメラが増えているともいえる。
2020年はオリンピックイヤーということもあり、おそらくプロ機などの高価格帯の製品が増えるだろう。一方で、そうしたハイエンド機の開発で培われた先進技術や機能などが普及価格帯の製品にどう落とし込まれていくのかについても期待しながら待ちたいと思う。