本・書籍
ビジネス
2023/8/6 6:15

なぜ「スーパードライ」は奇跡的なヒットとなったのか? 日本のビール、その波乱万丈の歴史~注目の新書紹介~

こんにちは、書評家の卯月鮎です。夏といえばビールの季節。ビアガーデンも最高ですよね! ……と言っても、私はシロナガスクジラが海水を丸呑みするように、ビールをガブガブやるのはあまり好きではありません。せっかくビールごとに味も違うのに、もう少し味わって飲みなさいよ(笑)と思ってしまいます。美味しいおつまみと一緒にゆっくりビールを味わいたいタイプです。

 

ビール業界を知り尽くしたジャーナリスト

今回紹介する新書は日本のビールは世界一うまい!―酒場で語れる麦酒の話』(永井隆・著/ちくま新書)。著者の永井隆さんは東京タイムス記者を経て、現在フリージャーナリスト。企業、組織と人、最新の技術から教育問題まで幅広く取材・執筆しています。『キリンを作った男』(プレジデント社)、『究極にうまいクラフトビールをつくる』(新潮社)、『サントリー対キリン』(日本経済新聞出版社)などビール業界に関する著書多数。

 

「スーパードライ」、ヒットの秘密

日本の大手ビール会社の変遷をたどっていくいく本書。第1章「日本『麦酒』事始め」は、日本のビール醸造発祥の地・横浜からスタートです。日本初のブルワリーは1869年に横浜・山手に設立された「ジャパン・ヨコハマ・ブルワリー」。ついで、1870年に同じ山手で産声を挙げた「スプリングバレー・ブルワリー」のビールが評判を呼び、日本のビール産業の礎を築いたそうです。

 

その後、内紛で倒産した「スプリングバレー・ブルワリー」の跡地を買い取ったのが、1885年設立の「ジャパン・ブルワリー」。当時の三菱社長・岩崎弥之助も出資したこのブルワリーが、キリンビールの前身なのだとか。

 

そういえば、「スプリングバレー」は現在キリンビールのクラフトビールブランドのネーミングですね。こうした歴史を知っていると、味わいがより深くなる気がします。

 

ビジネスドラマのように当時の現場の空気がひしひしと伝わってくるのが、第4章「ビール市場の転換点」。1987年に発売されて空前の大ヒットとなった「アサヒスーパードライ」。名門ながらも、市場シェア3位と不振に陥っていたアサヒビールの起死回生の一撃。従来のビールづくりとはガラリと路線を変えたその開発コンセプトとは、20代、30代が飽きない辛口のビールだったそうです。肉料理など洋食化が進んでいた80年代の食事にピッタリ合う味だったのです。

 

そして躍進の裏には、アサヒ営業部隊による泥臭い営業があったとか。キリンは豊富な資金により、消費者調査などから「スーパードライ」の大化けを予測していたにもかかわらず、繁栄に慣れていたためそれを黙殺してしまった、と永井さん。

 

アサヒ側だけではなく、いち早くヒットを察知したキリンのリサーチャーや営業マンの視点も入り、当時の熾烈なビール戦争の様子がいきいきと描かれています。

 

なぜ日本のビールはドイツタイプだったのか? ビールにかかる税金が高い理由。長年キリンが市場1位だった裏側……。ビールに関するうんちくも数多く挟まっています。

 

日本のビール市場を牽引する大手4社の動きが時代ごとにまとまっていて、網羅的に日本ビール史の流れをつかめるのが本書のいいところ。第3章以降は、取材から得られたであろう現場の声も挟まって、各メーカーごとの戦略が臨場感をもって伝わってきます。人気ビールの開発秘話も読みどころ。本書をつまみにビールを堪能するのはいかがでしょう。

 

【書籍紹介】

日本のビールは世界一うまい!――酒場で語れる麦酒の話

著:永井隆
発行:筑摩書房

西のアサヒ、東のサッポロと言われた理由とは。キリンはなぜ独立を保てたのか。サントリーはどのようにビール市場に参入したのか。バブル期にドライはなぜ売れたのか。20世紀末の日本を席巻した「ドライ戦争」とは、どのようなものだったのか。そもそもラガーとエールの違いとは。麦芽の割合で何が変わる? 世界一うまいと絶賛される日本のビール。商品開発、市場開拓、価格など、熾烈な競争の背後にある発展史を一望して見えてきた秘訣とは。

楽天koboで詳しく見る
楽天ブックスで詳しく見る
Amazonで詳しく見る

 

【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。