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2024/1/22 21:00

料理人・笠原将弘が“一汁一飯”を説く!おいしく負担なく、調理を楽しくする日常的な和食の真髄とは

和食の基本要素である「ごはん」と「汁物」の組み合わせを表現する、一汁一飯(いちじゅういっぱん)。忙しい日々でも、ほかほかのごはんと汁物があるだけで、ほっと一息つけるもの。ところが、和食は出汁(だし)をとったりと準備が大変そうな上、味つけも繊細でむずかしそう……。そう敷居の高さを感じる人は、少なくないのではないでしょうか。

 

「そもそも和食は、私たち日本人にとって一番身近な料理です。もっと肩の力を抜いて、おおらかな気持ちでつくればそれだけでおいしくなりますよ」

 

そう話すのは、恵比寿で日本料理店「賛否両論」を営む、ご存じ、料理人の笠原将弘さん。2023年10月に上梓したレシピ本『汁とめし』では、“和食屋”として“旨すぎる一汁一飯”を惜しげもなく披露し、すでに4版を重ねるヒットとなっています。

 

お気に入りのレシピから、料理を誰もがおいしく楽しんでつくれる極意まで、笠原さんがこの本に込めたものとは? 聞き手はブックセラピストの元木忍さんです。

 

笠原将弘『和食屋が教える、旨すぎる一汁一飯 汁とめし』(主婦の友社)

冷蔵庫の残り物で作れ、シンプルなのに満足できる___頑張らないでもしみじみとおいしい、笠原流・究極2品献立という提案の書。予約の取れない日本料理店「賛否両論」店主が、いま提案する献立こそ「汁とめし」なのです。食材の組み合わせや作りやすさを極めた、汁物とごはん物の厳選レシピ、計84品を収録。

 

シンプルなのに栄養満点な
“汁とめし”の魅力

元木忍さん(以下、元木):日本料理店の店主であり料理人でもある笠原さんですが、汁とめし、つまりミニマムな一汁一飯の食事について、いつ頃から良さを感じるようになったのですか?

 

笠原将弘さん(以下、笠原):若い頃は、ちょっと凝った料理やいろいろなものが並ぶ食卓がいいなぁ、なんて思うこともありました。ところがだんだん歳を重ねるにつれて、くつろぐ場所である自宅でつくる料理なんだから、使う食材も調理方法もシンプルな方がいい。そう思うようになってきたんです。

 

恵比寿にある日本料理店「賛否両論」店内にて。店主であり料理人の笠原将弘さん。

 

元木:やはり、シンプルで毎日の食卓に取り入れやすいところが一番の魅力でしょうか?

 

笠原:そうですね。汁物なんて普段料理をしない人がつくったとしても、なんとなくあるものを煮て味噌を溶けば、それなりの味になるものです。具がたくさん入っている汁物なら、茶碗一杯分飲むだけでたくさんの栄養もとれます。おかず代わりにも、晩酌をする人ならつまみにもなる。ごはんにしても白飯に好きな具材をのせたら、それだけでちょっとしたごちそうですよ!

 

元木:食材や調理の仕方はシンプルなのに、おいしくて栄養たっぷりな食事。それが汁とめしなんですね。

 

笠原:そうです。忙しい人でも毎日の食事に取り入れやすいと思いますね。

 

ブックセラピストの元木忍さん。

 

あるものですぐにつくれる、
懐かしくておいしいレシピの数々

元木:私も実際に、この本に載っているレシピをいろいろとつくってみたんです。本当に簡単につくれておいしいものばかりですよね。「トマト、にら、しょうが」の味噌汁は冷蔵庫にある食材ですぐできちゃうし、食べてみたら、これがまたとてもおいしかった! 意外と、トマトと味噌って合うんですね。

 

「トマト、にら、しょうが」のレシピでは、だしと辛口の赤味噌がトマトに不思議とマッチします。ニラで緑と栄養をプラス。しょうがのすりおろしを添えて。

 

笠原:そう言ってもらえてよかったです。誰でも気軽につくれるように、冷蔵庫にあるものか近所のスーパーで手に入る食材でちゃちゃっとできるレシピを選んでいるんですよ。

 

元木:レシピを見た瞬間、これならできる! って思えるから、無性につくりたくなって。「たこしば漬け焼きめし」もおいしかった。スーパーで売っていたタコに、たまたま冷蔵庫にあったしば漬けを取り出してつくりました。さっぱりしていて、いくらでも食べられちゃう。

 

「たこしば漬け焼きめし」のレシピは、タコとしば漬けを炒めて塩コショウで味付けするだけ。うま味と酸味のハーモニーが絶妙。

 

笠原:タコとしば漬けをただあえて、おつまみのようにしただけですけど、レシピができたときには「これは絶対おいしい!」という自信はありましたね。タコって炊き込むとけっこう固くなっちゃうので、チャーハンみたいに炒めたほうが失敗もなくて簡単。ちょっとしたことですが、料理人としての経験や勘どころを、レシピに反映しています。

 

元木:笠原さんご自身は、どのレシピがお気に入りですか?

 

笠原:そうですね、タマネギと豆腐と豚肉でつくる「くたくた玉ねぎと豆腐の豚汁」でしょうか。食材としてはシンプルだけど、味のバランスが絶妙で好きです。

 

元木:たしかに豚汁と白飯があったら、それだけで満足ですよね。どのレシピも見慣れた食材でつくれるから安心感もあるし、こどもの頃に家族につくってもらったあの味、みたいにどこか懐かしさも感じました。

 

「くたくた玉ねぎと豆腐の豚汁」。白みそ仕立てにたっぷりの玉ねぎ、豚肉、豆腐入り。30分じっくり煮てうま味を十分に引き出します。

 

小難しく考えないこと。
おおらかな感覚でつくれば、必ずおいしくなる

元木:レシピのほかにも、お米の炊き方やお吸い物のだしの取り方など、丁寧に説明されたページがあって、とても勉強になりました。

 

笠原:ありがとうございます。顆粒だしのような便利なアイテムがある現代に、なぜあえて手間も時間もかかる方法を選ぶの? と思うかもしれませんが、日本人として一度は正しい手順で取っただしの味というものを知っておくのは大事だと思うんです。

 

元木:毎日は無理でも時間があるときにはぜひ、やりたいですね。やっぱりひと手間かけた料理っておいしいから。

 

笠原:そんなに気負わなくてもおいしい料理はできると思いますよ。テレビや雑誌、ネットなどで、見た目は華やかだけど一般家庭でつくるにはちょっと大変そうな料理がたくさん出回ったことで、最近では「料理をすること自体、難しいものだ」と思いこんでしまう傾向があります。でも家庭料理といえば、昔はおじいちゃんもおばあちゃんもみんながやる、なにげないことでしたよね。

 

元木:それこそ、日常の料理ですね。

 

「たとえば4人前をつくりたかったら、うちのおばあちゃんは味噌汁のお椀に水を4杯すくって鍋に入れてましたよ。理にかなっているでしょう?」と笠原さん。

 

笠原:計量スプーンやカップなんて昔はなかっただろうし。何かつくる時も、しょうゆは愛用のおたまに一杯くらい、みたいな感覚でよかったんです。それがいまでは、砂糖は小さじ1杯半で、みりんは何ccまで、しょうゆは薄口だの濃口だのって細かくレシピに書いてあるから、みんな料理が嫌になっちゃったんじゃないですか?(笑)

 

元木:料理は正確に計らなくても、これぐらいかなーって感じでちょうどいいのかもしれませんね(笑)。

 

笠原:そう思います。小難しく考えず、おおらかな気持ちでやれば、おいしくつくれますよ。

 

一般的な金銭感覚を持った人にこそ
おいしい日本食を食べてほしい

元木:きょうは笠原さんが店主を務める「賛否両論」の店内でお話をうかがいましたが、次はプライベートで訪れたいです。それにしても、きちんとした日本料理にもかかわらず、コース料金が思いのほかお手頃な価格で驚きました。

 

笠原:日本料理というと、“高い”イメージがありますよね。でも、そもそも自国の料理なのに、高くて食べに行けないなんておかしな話だと思いませんか? せめて自分の店くらいは一般的な金銭感覚をもった普通の人や若い子でも、おいしい日本食を食べられるような店にしたい。そう思って価格設定しています。

 

元木:その考えは、日本の食文化の発展へつながることだと感じます。日本食を気軽に食べられるってことは、日本食を大事にする人たちの幅を広げることになりますね。今後、チャレンジしていきたいことはありますか?

 

笠原:いつか、昔ながらの定食屋や味噌汁屋、立ち飲み屋なんてやってみたいですね。気軽に一品2〜300円で食べたり呑んだりできる店、最高じゃないですか。

 

元木:気取らないけど味はたしか、というお店ですね。笠原さんのお話で、日本食や和食がぐっと身近な存在になりました。ありがとうございました。

 

Profile

料理人 / 笠原将弘

1972年、東京都生まれ。高校卒業後「正月屋吉兆」で9年間修業したのち、父の死をきっかけに武蔵小山にある実家の焼き鳥店「とり将」を継ぐ。2004年、東京・恵比寿に「賛否両論」をオープンし、予約のとれない人気店として話題になる。2013年には名古屋に直営店をオープン。テレビ番組のレギュラー出演をはじめ、雑誌連載、料理教室など幅広く活躍する。2023年6月にはYouTubeチャンネル『【賛否両論】笠原将弘の料理のほそ道』を開設。流暢な語り口で調理のコツを惜しみなく解説し、チャンネル登録者数は50万人に迫る(※2024年1月5日時点)。
「賛否両論」HP
YouTube

 

ブックセラピスト / 元木 忍

学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブに在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。