11月30日についに発売となったキヤノン「PowerShot G1 X Mark Ⅲ」。製品名からもわかるとおり、本機は「PowerShot G1 X Mark Ⅱ」の後継モデルであり、本格志向ユーザー向けのレンズ一体型カメラ(コンパクトデジカメ)である。その最大の特徴は、キヤノンのコンパクトデジカメでは初となる“APS-Cサイズ”CMOSセンサーを採用した点(有効画素数は約2420万画素)。そして、映像エンジン「DIGIC 7」との連携により、PowerShotシリーズのフラッグシップモデルにふさわしい高画質を実現している。それでいて、外観デザインや大きさ重さは、1.0型センサー採用モデルの「PowerShot G5 X」と大差ない小型軽量設計というから驚きだ。
センサーは大きく、ボディはコンパクトに進化
キヤノンのPowerShot Gシリーズは、2000年に発売された「PowerShot G1」から始まる。このモデルのセンサーは「1/1.8型・有効約334万画素CCD」だった。そのG1の登場から17年。センサーのフォーマットはついにAPS-Cサイズに到達。G1のセンサーと比較すると、大きさ(面積)は約8.7倍、有効画素数は約7.2倍と、その差の大きさに改めて驚かされる。
今回、PowerShot G1 X Mark Ⅲに採用された有効画素数約2420万画素のAPS-CサイズCMOSセンサーは、高い解像感、広いダイナミックレンジ、豊かな階調表現、といった特徴をもっている。また、フォトダイオードの開口率向上や光電変換効率に優れた構造の採用などにより、常用ISO感度は「最高25600」に到達。さらに、デュアルピクセルCMOS AFや最高約9.0コマ/秒の高速連写を実現している。それでいて、ボディサイズは従来モデルからかなりスッキリした印象だ(従来モデルとの比較の詳細はコチラの記事を参照)。
24-72mm相当の新開発キヤノンレンズを搭載
ボディサイズもさることながら、搭載されるズームレンズのコンパクトさにも感心する。24-72mm相当(35mm判換算の画角。実焦点距離は15-45mm)F2.8-5.6の光学3倍ズームレンズ。この仕様だけ見ると平凡だが、APS-Cサイズ用のズームレンズとしては驚くほど小さい。最前部鏡筒の直径はわずか40mmくらいなのだ。このコンパクトサイズで“広角端F2.8”の明るさを実現しているのは立派である。もちろん、描写性能にもこだわった光学設計になっている。両面非球面レンズ3枚と、片面非球面レンズ1枚を採用して、諸収差の発生を抑制。また、インナーフォーカス方式の採用により、高速なAF作動も可能にしている。
ただ、24mm相当の広角端はともかく、72mm相当の望遠端の画角は、物足りなく感じる人も多いだろう。少し言葉は悪いが「標準に毛が生えた程度の中望遠」の画角なのだから。しかし、このカメラには「プログレッシブファインズーム」と呼ばれる、画質劣化の少ない先進のデジタルズーム機能が搭載されている(ズームバーで黄色に表示される部分。画質設定がRAWの場合は使用不可)。この機能を使用すれば、高い解像感を保ったままで「144mm相当」までの望遠撮影が楽しめるのである。
上の作例を見てもらえばわかるとおり、24mm相当の広角端は、標準ズームレンズの広角としては十分ワイドな画角が得られる。だが、72mm相当の望遠端は、一般的な望遠効果を望むのは難しい。遠くの風景や近づけない被写体などで、思い通りの大きさで撮れない……という不満が出てくる。そんなときには前述の「プログレッシブファインズーム」を活用したい。
続いて、ボケ描写について見ていこう。次の作例は“72mm相当の望遠端・開放F5.6”という条件で撮影したもの。正直なところ、ボケ効果を追求するには、画角も開放F値も物足りない値である。だが、APS-Cサイズの大型センサー採用機なので、それなりのボケ効果は得られた。
操作性を犠牲にせず小型化と多機能化を両立
ボディの小型化と多機能化を両立させようとすると、どうしても操作性が犠牲になりがちだ。しかし、このG1 X Mark Ⅲは、その点も考慮した設計・仕様になっている。
まず、上面に露出補正ダイヤルが設置され、前面グリップ上には電子ダイヤルが設置されている。これは1.0型センサー機・G5 Xと同じスタイルである。通常、この手の電子ダイヤルは、グリップ上部や右手側の背面上部に設置されることが多いのだが、G1 X Mark Ⅲの小型ボディだと、その位置に設置するのは少々厳しい。その点、前面グリップ上ならスペース的に無理がないし、操作性も良好である。
液晶モニターは、自在に角度が変えられる「バリアングル液晶」を採用。この方式は、上下チルト式とは違い、カメラを縦に構えた際にも対応できる。だから、画面の縦横に関係なく、地面すれすれからのローアングル撮影や、高い位置から被写体を見下ろして撮るハイアングル撮影が快適に行えるのである。
バリアングル液晶は「タッチパネル」機能も搭載している。画面をタッチしてAF位置が迅速に選択でき(タッチAF)、そのままシャッターを切ることも可能である(タッチシャッター)。また、機能の設定や画像の閲覧なども、タッチ操作で快適に行える。サイズも3.0型と十分な大きさがだが、ボディがコンパクトなぶん、モニター右側のボタン配置が少々窮屈な点がやや惜しい。
風景撮影などで悩ましい小絞り時の解像感が向上
レンズの絞りを過度に込んだ際に発生する「回折現象(※1)」は、画像の解像感を低下させる原因になる。その点、G1 X Mark Ⅲでは、映像エンジン「DIGIC 7」の高速処理性能による光学情報を活用した補正を実現。これにより、回折現象を高度に軽減することが可能になった。風景撮影などでの、画面全体にピントを合わせる(パンフォーカス)撮影で、細部までシャープに描写することが可能になる。
※1. 光や音などが進む際に、障害物に遮られるとその背後に回り込む現象。絞りの背後に回り込んだ光が撮像素子まで届かなくなるために解像力が低下する
“最短撮影距離10cm”を生かして被写体に踏み込む
G1 X Mark Ⅲの最短撮影距離は、広角端は10cm、望遠端は30cm(いずれもレンズ先端からの距離)。その際の撮影範囲を仕様表で確認すると、望遠端のほうがわずかに狭い。つまり、クローズアップ度が高くなる。だが、その差は本当に“わずか”である。筆者個人としては“広角端10cm”のほうを評価したい。広角域で被写体の近くまで接近する“肉薄感”は、望遠域とは違うダイナミックな描写・表現が得られるのである。
【まとめ】驚くほどコンパクトだが仕様や機能は本格志向
キヤノンのコンパクトデジカメ初の“APS-Cサイズ”CMOSセンサーの採用。広角端で10cmまで接近できる、24-72mm相当の高性能な光学3倍ズームレンズを搭載。約236万ドットの高精細な有機EL 内蔵EVF。AF追従で最高約7コマ/秒の高速連写(実写の結果、画質設定がRAW+Lでも、速度が落ちずに15、16カットは撮影できた)。しかも、雨雪やホコリの多い場所でも安心な「防塵・防滴構造」を採用。
こういったハイレベルな仕様や撮影機能を持ちながら、1.0型センサー搭載機と見紛うほどの小型軽量なボディ。PowerShot G1 X Mark Ⅲは、軽快に使える本格派コンパクトデジカメである。