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ラーメン
2018/7/2 18:00

ラーメン界に台風を巻き起こす!煮干しも振り切り方も凄い「凪」――サニーデイ・サービス田中貴とRockなRamen

ラーメン好きなミュージシャンとして知られる、サニーデイ・サービスのベーシスト、田中 貴さん。年間600杯以上を食べ歩く目・鼻・舌をもって、注目するラーメン店の味や店主に「Rock」を見出していくのが、この「Rock なRamen」連載だ。

 

第1回はパワフル女将の「麺家うえだ」(埼玉県・志木)第2回は日本一のド豚骨「無鉄砲」(東京都・江古田)第3回では研ぎ澄まされた一杯を提供する「らぁ麺屋 飯田商店」。これらの強烈なインパクトを放つラーメン店に続く第4回は、新宿を拠点に海外にも展開している「ラーメン 凪」だ。その総本山が「すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店本館」。巨大ターミナル・新宿に残されたディープスポットにあり、24時間営業というスタイル。攻めともいえる破天荒な存在感は確かに“Rock”である。しかし、真のRockは店舗ではなく、凄い店主にあった!

 

【プロフィール】

田中 貴

サニーデイ・サービスのベーシスト。年間600杯以上を食べ歩くラーメン好きとしても知られ、TVや雑誌などでそのマニアぶりを発揮することも多い。バンドとしては今春、配信とアナログでニューアルバム「the CITY」をリリース。また6月13日にはアナログで「FUCK YOU音頭」と「DANCE TO THE POPCORN CITY」を2タイトル同時リリースするなど、精力的に活動している。また個人としては、音楽監修を務めるアニメ「ラーメン大好き小泉さん」のオリジナルサウンドトラック「ラーメン大好き田中さんと細野さん」が発売中!

 

無謀でもとにかくやる。トライ&エラーと前人未踏を繰り返す男

その人物は、田中さんが「大将」と呼ぶ生田智志さん。出身地である福岡の名店でラーメン人生をスタートし、同店の東京進出とともに上京。その後2004年に独立し、ゴールデン街に毎週火曜日だけ営業するラーメン店を間借りで開業する。スペースは4坪8席という、こぢんまりとした空間。当時はルーツの豚骨ラーメンがメインだったが、本格派の味わいや毎週味が替わる創作ラーメンなどの個性で話題となり、100人以上の行列ができるように。

↑いまの「すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店本館」がある路地。眠らない街に負けじと、眠らないラーメン店が気を吐いている

 

やがて行列は150人を超え、営業は週2回に。そうして2006年には渋谷に実店舗を構えることとなり、間借りは卒業。さらに、とあるラーメンコンペで優勝した副賞として立川に出店の権利を得て、一気にふたつの店舗をオープンすることに。念願の渋谷店では、夜はラーメン酒場になるというシステムや、日替わりラーメンを毎日出すという企画性も受け、“凪ブランド”は人気店としての地位を不動のものとしていく。

 

「日替わりは3年以上続けていましたね。昼夜で業態が変わる二毛作営業をしながら、一期一会の創作ラーメンをやり続けるという、そんな店なかなかありませんよ。絶対大変ですから。そもそも始まりからして、こんな狭小物件ばかりの場所でラーメンを作ろうという発想がクレイジー。しかも、あれだけ無謀だったにもかかわらず、創業の地という思い入れだけで、まさかの復活を果たすんです。このゴールデン街に」(田中さん)

↑ラーメンを提供する生田智志店主。取材中も田中さんとのラーメン談義や思い出話は尽きることがない。凪伝説はネタになる内容ばかりで、爆笑の連続だ

 

バタバタしながら少しずつ運営も板についてきた2007年。ある日、間借り営業をしていた「ブレンバスタ」が閉店するという話が舞い込んでくる。そして、ラーメン店の厨房設備的には不利なこの地に凱旋。しかも、またもや生田店主の試みが始まるのであった。

 

「それまでは凪=豚骨でしたが、革命が起こります。いまに続く煮干ラーメンですね。大将が青森で食べた煮干のラーメンに感動し、その味を自分でも作りたいと研究を始めるんです。彼のルーツは豚骨ですが、福岡にはイリコダシのうどん文化もありますから、煮干に興味を持ったんでしょう。で、このころに僕はゴールデン街店に入り浸るようになるんです。家が近かったんで。当時は朝5時までの営業でしたが客足は落ち着いた感じになっていて、深夜はわりとガラガラでした」(田中さん)

 

↑「すごい煮干ラーメン ラーメン」890円。店舗によってメニューは若干異なり、いまの本館にはつけ麺などはない。ただトッピングは充実しており、4枚の熟成ローストチャーシューや味玉がのる「すごい煮干ラーメン 特製」1200円や、「金箔焼海苔」3000円のような謎めいたものも

 

田中さんは夜な夜な訪れ、手持ちぶさたの生田さんと夢を語り合った。否が応にも仲は深まるとともに、田中さん自身の友人関係にも広がりが。生田さんを通して、さまざまなラーメン店主やラーメンマニアとつながりができていく。

 

↑生田さんが着ているのはオリジナルのシャツで、頭巾にも「nagi セクシーらーめん」という謎のロゴが。一部は店頭で販売しており、タオルは愛媛県今治市にある田中さんの実家「田中産業」が製造を請け負っている

 

↑現在は上板橋に仕込みの拠点を構え、400リットルもの寸胴を構えた凪グループ。しかし本館のオープン当初は、この狭いキッチンでスープを炊いていた

 

↑大きなマイワシがオブジェとしてぶら下がっている。味の骨格となる煮干は20種以上を使用し、一杯あたり60g。首都圏エリアだけで毎月6トン以上の煮干を使用しているとか

 

「いまでこそ煮干ラーメンの店はかなり多いですけど、凪はこれだけ大量に煮干を使うこともあって、ほかにはないパワフルなダシの風味が出ています。あとは自家製麺も独特。中太麺を手もみで縮れさせることで、もちっとした弾力に複雑な食感が加わっており、スープとの絡みも抜群です。『いったん麺』という幅広いちゅるっとした生地が入るのも特徴的。味の濃さや麺の硬さなどを細かくオーダーできるのも、カスタマイズ文化が根強い福岡出身の大将ならではの心意気ですかね」(田中さん)

↑好スパイスとなっているのが、イワシとそのエキスに数10種類の香辛料や調味料を合わせて数日寝かせた「海の辛銀だれ」。飽きさせない工夫のひとつだ。また麺は通常並盛(180g)だが、中盛(220g)や大盛(270g)に無料で増量できるのもうれしい

 

ちなみに、すっかり凪=煮干のイメージだが、豚骨へのリスペクトも消えてはいない。それは「ラーメン凪 豚王 渋谷店」にしっかりと息づいている。新しいことに挑戦する一方で、原点も大切。それが生田さんのアツさでもあるのだ。

 

普通は嫌だという反骨精神。型にはまらない姿勢

「試作を含め、さんざん食べ尽くしたからってのもあるかもしれませんが……」と田中さん。最近の凪では、ラーメンよりもつけ麺のほうがお気に入りとか。ただ「すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店本館」では現在、つけ麺の提供は行っていない。今回は特別に材料を用意して作ってもらった。

↑「すごい煮干つけめん つけめん」870円。本館では提供してないが、近場では「すごい煮干ラーメン凪 新宿ゴールデン街店別館」で味わえる

 

「このつけ麺の大きな特徴は平打ち麺。するするっと食べられる、みずみずしい食感がイイですね~。つけ汁にはサバやイワシの粉末を加えているからか、ラーメンとはダシのニュアンスが違います。いずれにせよ、パンチある煮干の存在感が生きた、独創性のあるつけ麺といえるでしょう」(田中さん)。

 

なお、冒頭で述べた伝説はここでは語りきれない以上に多い。むしろ本館オープン以降から生田さんの情熱は加速度を増していく。それは田中さんをして「新しいもの好きで、思いついたら大興奮。すぐにやらなきゃ気が済まないくせに飽きっぽい、厄介な性格」と言わしめるもの。田中さん自身も少なからず、新店のアイデアで振り回された友人のひとりであるが、それも素晴らしい思い出となっている。

↑ポスターをはがすと、そこにはかつて田中さんが書いた大きなサインが。ほかにもここには「祭りのようにしたい!」という生田さんの思い付きで、一緒に赤い縄を巻き付けた柱の装飾なども現存する

 

「『凪』には風のないところに風を起こすという意味があって、そういう想いで大将も名付けたんでしょう。でも、とにかく落ち着きがなくて、常にワサワサしていて、彼が通り過ぎたあとはすべてかき回されてグッチャグチャになってしまう。風というより、台風とか暴風雨なんですよ。でもそれが大将らしさであり、社名となっている『凪スピリッツ』なんでしょうね。いまでも名刺はなくなるたびに毎回違うデザインにするから1年で10パターン以上とか、笑っちゃいますけど。安住することをよしとせず、新しいことに挑戦し続ける大将。普通は嫌だという反骨精神、型にはまらない姿勢は『Rock』以外のなにものでもありません!」(田中さん)

 

かつて田中さんに語った夢のひとつが海外出店だが、目標よりも早く実現させた生田さん。これは台風のような勢いがあるからこそ、巻きのスピードで叶えられたといえるだろう。なお、今回書ききれなかった伝説という名の面白エピソードは、田中さんのラーメン本「Ra:」に詳しく載っている。ぜひ一読あれ!

 

【店舗情報】

すごい煮干しラーメン凪 新宿ゴールデン街店 本店

・住所:東京都新宿区歌舞伎町1-1-10
・電話番号:03-3205-1925
・営業時間:24時間営業
・定休日:無休
・アクセス:東京メトロ丸ノ内線・副都心線・都営新宿線「新宿三丁目」駅から徒歩3分、JR「新宿」駅東口から徒歩8分

 

撮影/我妻慶一