「大衆に迎合したら、ラーメンも音楽もRockではない」(田中 貴)
ラーメンは醤油味のみ。過去に2シーズンほど味噌も提供したが、レギュラーメニューとしてやるほどではないと思い、やめたのだそう。ただ、醤油味でもつけ麺は存在する。麺とスープはラーメンと同じものを使うが、しなやかな冷たい麺の食感や、濃いめに調整されたつけ汁の味わいもまた格別だ。
「鬼頭店主のこだわりのひとつが、自家製麺の豊かなコシ。冷水でしめることで、その弾力をよりダイレクトに楽しめます。あと、麺に関していえば『固めはオススメしません』的なことが券売機のところに貼ってあるんですよ。丹精込めて打った麺の、最もおいしく感じられるゆで加減は店主が一番知ってるわけです。そのベストな状態で食べてほしいという気持ちでしょう」(田中さん)
製麺に関しては独学だという鬼頭さん。スープに合う食感の麺を探してはみたが、どこにも理想の麺はなかったということだろうか。自ら粉を取り寄せて試行錯誤を繰り返し、細すぎず太すぎない絶妙なバランスの、このストレート麺になったそうだ。
ラーメン店主も千差万別だ。休日には食べ歩いて研鑽を積んだり、仲のよい店主同士で勉強し合ったり、SNSで情報発信したり。若手であればその方が一般的かもしれない。だが鬼頭さんはどれにも当てはまらず、己の信じる道をひたすらに進んでいる。田中さんはそれこそが“Rock”ではないかという。
「自分が出したい確固たる味、そして絶対的な自信があるからでしょう。だからトレンドとか他店の動きとかに流されないんです。音楽における“Rock”も同じ。大衆に迎合して、売れてるからってそっちの方向に寄せたら“Rock”じゃない。それは“Rock調のサウンド”を鳴らしているだけなんです」(田中さん)
世にあふれる商品やサービスをヒットさせる秘訣は、マーケティングや戦略。ラーメンも多分に漏れない。しかしその結果、街にあふれるラーメン店はどれも、どこかで見たようなものばかりに。そんななか、流行りの味はどこ吹く風と、自分の信じる一杯を提供するのが「らーめん いろはや」なのだ。
阿佐ヶ谷に出店した理由を鬼頭さんに聞くと、たまたまだという。東京で、この規模の物件を希望の家賃で探したらこの場所だった。冒頭でも述べたが、23区とはいえ駅からサっと行ける距離ではない。飲食店を繁盛させる条件のひとつに立地のよさがあるといわれるが、その法則を軽く吹き飛ばす絶対的なおいしさがここにはある。
【店舗情報】
らーめん いろはや
・住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北6-13-1
・電話番号:非公開
・営業時間:11:30~14:00、18:00~21:00ごろまで
・定休日:水
・アクセス:JR中央線ほか「阿佐ヶ谷駅」北口徒歩約15分
撮影/三木匡宏