「大衆に迎合したら、ラーメンも音楽もRockではない」(田中 貴)
ラーメンは醤油味のみ。過去に2シーズンほど味噌も提供したが、レギュラーメニューとしてやるほどではないと思い、やめたのだそう。ただ、醤油味でもつけ麺は存在する。麺とスープはラーメンと同じものを使うが、しなやかな冷たい麺の食感や、濃いめに調整されたつけ汁の味わいもまた格別だ。
↑「チャーシューつけめん」(950円)。つけ汁は七味唐辛子や胡椒をほんのり効かせ、キレを強めた醤油味。のどごし抜群の麺もよく絡む。通常の「つけめん」は750円だ
↑チャーシューは、豚のバラとモモの2種類。チャーシューラーメンとつけ麺は、麺が隠れるくらいたっぷりと増量してくれる
「鬼頭店主のこだわりのひとつが、自家製麺の豊かなコシ。冷水でしめることで、その弾力をよりダイレクトに楽しめます。あと、麺に関していえば『固めはオススメしません』的なことが券売機のところに貼ってあるんですよ。丹精込めて打った麺の、最もおいしく感じられるゆで加減は店主が一番知ってるわけです。そのベストな状態で食べてほしいという気持ちでしょう」(田中さん)
製麺に関しては独学だという鬼頭さん。スープに合う食感の麺を探してはみたが、どこにも理想の麺はなかったということだろうか。自ら粉を取り寄せて試行錯誤を繰り返し、細すぎず太すぎない絶妙なバランスの、このストレート麺になったそうだ。
↑麺の湯切りは深く簡単なタイプの「テボザル」ではなく、扱いが難しい平ザルで行う。たっぷりのお湯の中で麺を泳がせることによって茹でムラが出ずダマにもならない、麺にとって最良のゆで方だ
↑客席の下手(しもて)奥には製麺用の部屋がある
↑麺に関する鬼頭店主の主張がこれ。こだわりがあるとはいえ、スープや麺に対する素材のうんちく書きはない。また、某ラーメン誌のコンペで受賞しているが、その証を飾ることもしない
ラーメン店主も千差万別だ。休日には食べ歩いて研鑽を積んだり、仲のよい店主同士で勉強し合ったり、SNSで情報発信したり。若手であればその方が一般的かもしれない。だが鬼頭さんはどれにも当てはまらず、己の信じる道をひたすらに進んでいる。田中さんはそれこそが“Rock”ではないかという。
「自分が出したい確固たる味、そして絶対的な自信があるからでしょう。だからトレンドとか他店の動きとかに流されないんです。音楽における“Rock”も同じ。大衆に迎合して、売れてるからってそっちの方向に寄せたら“Rock”じゃない。それは“Rock調のサウンド”を鳴らしているだけなんです」(田中さん)
↑店名の由来は、鬼頭さんの実家が酒販店「いろはや」を営んでおり、その屋号なのだとか。ラーメンは古巣を飛び越えた独自路線だが、どこかにルーツを重んじる熱いハートも鬼頭さんはもっている
世にあふれる商品やサービスをヒットさせる秘訣は、マーケティングや戦略。ラーメンも多分に漏れない。しかしその結果、街にあふれるラーメン店はどれも、どこかで見たようなものばかりに。そんななか、流行りの味はどこ吹く風と、自分の信じる一杯を提供するのが「らーめん いろはや」なのだ。
↑新潟のエリア誌「Komachi」でラーメン連載をもつ田中さんは、新潟のラーメン事情にも精通。地元民しか知らないようなマニアトークに、寡黙な鬼頭さんも会話が弾む
阿佐ヶ谷に出店した理由を鬼頭さんに聞くと、たまたまだという。東京で、この規模の物件を希望の家賃で探したらこの場所だった。冒頭でも述べたが、23区とはいえ駅からサっと行ける距離ではない。飲食店を繁盛させる条件のひとつに立地のよさがあるといわれるが、その法則を軽く吹き飛ばす絶対的なおいしさがここにはある。
【店舗情報】

らーめん いろはや
・住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北6-13-1
・電話番号:非公開
・営業時間:11:30~14:00、18:00~21:00ごろまで
・定休日:水
・アクセス:JR中央線ほか「阿佐ヶ谷駅」北口徒歩約15分
撮影/三木匡宏
↑「らーめん」700円。醤油ダレに豚メインの清湯と自家製麺を合わせ、チャーシュー、メンマ、なると、海苔をのせる。麺は150gで、大盛り(約250g)が同価格なのも魅力だ ↑鬼頭正美店主。ひとりで厨房に立ち、多くを語らずもくもくとラーメンを作る。その姿は、まさに職人という呼称がぴったりだ ↑スープは豚の背ガラをメインに、鶏ガラを少々。さらに瀬戸内産の白口煮干し、昆布、しいたけなどでうまみの輪郭を整えていく ↑「チャーシューつけめん」(950円)。つけ汁は七味唐辛子や胡椒をほんのり効かせ、キレを強めた醤油味。のどごし抜群の麺もよく絡む。通常の「つけめん」は750円だ ↑チャーシューは、豚のバラとモモの2種類。チャーシューラーメンとつけ麺は、麺が隠れるくらいたっぷりと増量してくれる ↑麺の湯切りは深く簡単なタイプの「テボザル」ではなく、扱いが難しい平ザルで行う。たっぷりのお湯の中で麺を泳がせることによって茹でムラが出ずダマにもならない、麺にとって最良のゆで方だ ↑客席の下手(しもて)奥には製麺用の部屋がある ↑麺に関する鬼頭店主の主張がこれ。こだわりがあるとはいえ、スープや麺に対する素材のうんちく書きはない。また、某ラーメン誌のコンペで受賞しているが、その証を飾ることもしない ↑店名の由来は、鬼頭さんの実家が酒販店「いろはや」を営んでおり、その屋号なのだとか。ラーメンは古巣を飛び越えた独自路線だが、どこかにルーツを重んじる熱いハートも鬼頭さんはもっている ↑新潟のエリア誌「Komachi」でラーメン連載をもつ田中さんは、新潟のラーメン事情にも精通。地元民しか知らないようなマニアトークに、寡黙な鬼頭さんも会話が弾む