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2023/12/25 20:00

本格焼酎の新トレンドはフレーバー系! さつま白波を生んだ薩摩酒造が次世代焼酎「彩響(あやひびき)」に込めたもの

 近年、果実的なフレーバーを表現した本格焼酎がトレンドであることをご存知でしょうか? 代表銘柄には「DAIYAME」や「ISAINA」などがありますが、今夏、新たに「彩響(あやひびき)」がデビューしました。

 

発売に伴い六本木ヒルズではポップアップイベントが行われましたが、初日には蔵元や俳優の小関裕太さんが登壇したオープニングセレモニーも開催。そこでの模様や代表者インタビューを踏まえたレポートをお届けしつつ、焼酎のトレンドを総括しましょう。

薩摩酒造「彩響」は900mlで、参考小売価格は税込1397円

 

「フレーバー」系とともに焼酎トレンドを解説

まずはトレンドの背景から解説しましょう。焼酎は大きく2つに分けられます。クリアな味でチューハイ(焼酎ハイボール)などのベースとして頻用される「甲類焼酎」(連続式蒸留焼酎)と、原材料の風味が豊かで酒質の個性を楽しむ「本格(乙類)焼酎」(単式蒸留焼酎)。本稿で触れるのは基本的に後者です。

 

焼酎ブームは何度か起きていますが、本格焼酎にフォーカスすると、1970年代後半と2000年代前半に芋焼酎を中心とした人気が過熱。その第一次にあたる、1970年代後半の主役が薩摩酒造の「さつま白波」です。

↑昭和から続くロングセラー焼酎の代表格が「さつま白波」。当時、「焼酎」6:「お湯」4で割る提案のCMもヒットし、いまではすっかり定番として親しまれています

 

薩摩酒造の代表銘柄にはほかにも、1988年にデビューした長期貯蔵麦焼酎「神の河(かんのこ)」などがあります。近年でもバー向けの「The SG Shochu IMO」、焼酎リキュール「SLEEPY」シリーズ、クリエイティブなプロダクト「SS.L(Satsuma Shuzo. Labo)」など挑戦的な酒づくりで有名です。

↑2020年2月、「The SG Shochu」の発売を記念した発表会にて。左の和服姿が、日本を代表するバーテンダーである後閑信吾さん(イニシャルがSG)で、その隣が薩摩酒造の本坊愛一郎代表取締役社長

 

2019年より「さつま白波」でも焼酎の可能性を追求した個性派ライン「MUGEN白波」を展開してきましたが、新たなコンセプトで開発したのが「彩響」なのです。

↑そのコンセプトは、究極の冷涼感。炭酸割り専用といえるほど、キレのあるシャープな酒質となっています

 

2000年代前半の流行以降、焼酎ブームは起きていません。しかし2010年代後半ごろから、若手の蔵人を中心に攻めた銘柄が続々誕生。そのひとつが同社の「SLEEPY」や「SS.L」などであり、なかでも業界全体で多くみられるカテゴリーが「彩響」のように果実味を表現したフレーバータイプです。

 

清酒酵母×低温発酵が“果実味”と“冷涼感”のカギ

オープニングセレモニーでは、薩摩酒造でマーケティング本部取締役部長を務める本坊直也さんが、商品の特徴などを教えてくれました。

↑薩摩酒造の本坊直也マーケティング本部取締役部長。東京の広告代理店で勤務したキャリアをもち、同社ブランディングの中心人物です

 

「開発にあたり、近年のお酒トレンドを分析しました。例えば昨今人気のハイボールやレモンサワーにクラフトビール、これらに共通するのが炭酸の効いたお酒であること。そこには、爽快感やリフレッシュへのニーズがあると考えています。一方で焼酎市場では、フレーバー系と呼ばれる本格焼酎や、果実など多彩な風味が楽しめる韓国焼酎が新たな選択肢に。その背景には、軽快さや飲みやすさへのニーズがあるとも考えています。
これらのニーズから求められる酒質や方向性を踏まえ、最終的に“まだ見ぬ究極の冷涼感を宿した革新的な焼酎を。”というコンセプトにたどり着き、具体化させたのが『彩響』です」(本坊部長)

 

味覚設計で着目したのが、発酵工程において香りを司る酵母。数十種類のサンプルを用いてテストを行ったところ、目指す味わいに合致したのは清酒で頻用される酵母でした。ただ、発酵にあたっては地理的なハードルが立ちはだかったと本坊さんはいいます。

↑六本木でのイベント会場でも、コンセプトやつくりのこだわりが打ち出されていました

 

「清酒酵母の魅力を最大限に引き出すには、低温で発酵させることが欠かせません。しかし南国の鹿児島は温暖であるため、低温で発酵させることはきわめて困難です。とはいえ鹿児島にも冬は訪れますし、なかでも最も寒くなる時季を狙って仕込むことで、狙った香りを実現することができました」(本坊部長)

↑セレモニーでは小関さんが、イベント用の特別グラスで炭酸割りをテイスティング

 

ゲストの俳優・小関裕太さんは、試飲コメントとして「今年の夏で、最も爽やかな体験となりました!」とにっこり。続いて、味わいについても具体的に表現しました。

 

「最初の香りは芋焼酎ならではですが、そこからほのかに青りんごを思わせるフルーティーな香りが後味として広がっていきます。炭酸割りだと、シュワシュワッとした爽快感も加わって幸せな気分に。まさに冷涼な味わいで、これは初めての焼酎体験です」(小関さん)

↑小関さんの発声で乾杯!

 

焼酎=九州地酒のイメージがくつがえった!

セレモニーのあとは、取材陣にも「彩響」を使ったドリンクやペアリングフードなどが提供されました。まずは最もオススメな飲み方だという炭酸割りから、筆者もテイスティングを。

↑比率は、彩響3:炭酸水7がオススメとのこと

 

香りは確かにフルーティーですが、色で例えるなら、暖色の柑橘系ではなく青々しくグリーンな印象。炭酸の刺激でより醸し出されるフレッシュで涼しげな果実味は、確かに青りんごのすがすがしさといえるでしょう。

↑続いて、ミントを加えたモヒートスタイルの「彩響」と、バゲットにトマト、バジル、オリーブオイルをあしらったブルスケッタも

 

モヒートスタイルは、クールなボタニカル感が強まっていっそう爽快に。「お好みでどうぞ」と渡されたシロップを混ぜると、味の立体感が増すとともにカジュアルな様相にも。また、ブルスケッタとのペアリングに関しては、ミントとバジルがともにハーブであるため実に友好的。さらに、ブルスケッタのオリーブオイルや塩味がドリンクの爽やかさを浮き立たせる一方、キリッとした「彩響」のタッチがトマトの甘みを引き立てます。

 

“創造”にワクワクする会社でありたい

本坊社長と部長には個別インタビューも実施し、いくつかの質問を投げかけました。まずは、これまで薩摩酒造が手がけてきた焼酎と「彩響」との一番の違いは? 加えて、清酒酵母についてもより具体的に聞きました。

↑薩摩酒造のトップのおふたりに東京でじっくりインタビューできるとは、またとないチャンス!

 

「具体的な違いはやはり、清酒酵母と低温発酵ですね。特に、最も寒い時季にだけ発酵させる希少性は『彩響』唯一となります。清酒酵母は1801号酵母です。これは清酒酵母のなかでも『カプロン酸エチル』というりんご的な風味を最も放つという知見があり、積極採用したいと思っていました。そのうえでテストしたところ、望み通りの結果が出たことで決まったという流れです」(本坊部長)

 

なお、清酒酵母のヒントとなったのは、2022年発売の「MUGEN白波 THE COOL WAVE」。こちらは1801号酵母ではないものの、清酒酵母を使った芋焼酎となっており、消費者の声でも大好評だったことが「彩響」を商品化するうえでの自信になったと言います。デザイン面もスタイリッシュで攻めた印象に感じますが、「彩響」のコアターゲットは?

↑「彩響」については、開発の中心メンバーである本坊部長が答えてくれました

 

20~30代の方へ向けたメッセージ性は強く持っています。というのも、焼酎業界としては、若い方の需要が掘り起こせていないという課題意識がありますから。また、男性や独身の方はもちろんのこと、女性やファミリー層にも提案したいですね。モダンでフルーティーな味わいなので、ワインや果実酒が好きな女性の方にも好きになっていただけると思いますし、ご夫婦で一緒に『彩響』を楽しんでいただけたら非常にうれしいです」(本坊部長)

 

近年の焼酎業界では果実味を前面に打ち出したニューフェイスが市場をにぎわせている印象です。そのなかで、「彩響」の独自性とはどんなところにあるのでしょうか?

 

「果実のイメージとしては青りんごを挙げていますが、もう一点強調したいのは冷涼感ですね。これは香り系というカテゴリーとは別の新しい価値であり、差別化であるとも考えています。焼酎業界全体としても、新しい価値の提案であるという面で多少なりの貢献ができれば、とも思いました」(本坊部長)

 

野心的な商品を次々と生み出し続ける薩摩酒造ですが、老舗でありながらもベンチャーマインドが強い会社であると本坊部長は話します。そして、その挑戦心に対して背中を押してくれる存在が、代表の本坊社長なのだとか。

本坊社長。攻めの社風に対する思いを尋ねました

 

「まず、一人ひとりの個性を大切にする会社でありたい。そして、指示待ちではなく自ら考えてほしいという思いが強いですね。そういった積み重ねのなかから自由な発想が湧き、革新的なお酒が生まれると思いますし、生み出してきた自負もあります。
開発に関しても、私があれこれ指示を出したり、途中で何か言ってしまったら面白くないじゃないですか。それよりも、結果やプロセスを評価して、次につなげることが一番いいんじゃないかなって思っています」(本坊社長)

 

そんな同社が新たに掲げたビジョンが、「MAKE a WAVE – 未来に向け挑戦する人たちへ-」。薩摩酒造自身がさらなる波を起こすことで、頑張る人を応援したいという想いがあると本坊社長は言います。

 

「既成概念にとらわれない自由な発想から、新しいモノを創り出すことにワクワクする。そんな会社になりたいなと思いますし、今回の『彩響』も“MAKE a WAVE”を常に意識しながらつくりました。お客様にも様々な意見があっていいのかなと思います。『こんな焼酎あるんだ!』という驚きや、ある意味『焼酎っぽくないね』という感想でもかまいません。そこから焼酎の面白さ、可能性を感じていただけたら嬉しいです」(本坊社長)

 

ウイスキー事業は世界一を目指してまい進

最後は、個人的に気になっているウイスキー事業について聞きました。薩摩酒造のグループ会社である本坊酒造はマルス信州蒸溜所(長野)とマルス津貫蒸溜所(鹿児島)で先駆的にウイスキーをつくっており、また関係会社には熊本の山鹿蒸溜所もあります。こうしたバックボーンがあるなか、薩摩酒造は2023年2月にウイスキー製造拠点「火の神蒸溜所」を地元の枕崎に竣工。この戦略については本坊部長が教えてくれました。

↑「火の神蒸溜所」。薩󠄀摩酒造の本社から近い、鹿児島県枕崎市火之神北町にあります

 

「ジャパニーズウイスキーの定義(日本国内で3年以上貯蔵する)としては、最短で2026年の2月に出荷できますが、ここは慎重に考えています。やはり最初のボトルは非常に重要ですからね。原酒のバリエーションも、仕込みや樽を変えるなど多彩につくりわけていますし。
ですので、2月は難しいかもしれませんが、2026年内にはファーストリリースをしたいという計画で進んでいます。熟成前のニューポットも、販路の構築などが整えば販売したいですね。当社は焼酎メーカーとしては日本で唯一、独自の樽工房と樽貯蔵庫を有し、専属の樽職人が管理と再生を行なっていますし、この知見も生かしつつ、世界一のウイスキーをつくろうと全社一丸になっています」(本坊部長)

↑2023年11月にはグレーンウイスキーの蒸溜が本運転を開始。2024年内にはショップやバーを備えた施設もオープンし、一般見学も開始する予定となっています

 

話を聞けば聞くほど、薩摩酒造のモノづくり精神には斬新さや冒険心を感じました。本稿で取り上げた新作焼酎「彩響」もぜひ飲んでいただきたいですし、ウイスキー事業含め今後の展開にも注目です!