デジタル
パソコン
2019/8/19 18:00

【ThinkPadクロニクル】弁当箱サイズのサブノートというジャンルを確立した「TihnkPad 235」

1992年の発売以来、多くのユーザーに愛され続けるポータブルコンピューター「ThinkPad」。その25年以上にもわたる長い歴史の中には、永遠に語り継がれる伝説のモデルや、トンデモ機能で黒歴史の1ページを飾ったものまで枚挙に暇がありません。そこで、業界きってのThinkPad好きライター・ナックル末吉氏が、時代を彩ったThinkPadの名機を語る不定期連載として、「ThinkPadクロニクル」をお届けします。

 

「チャンドラ2」の愛称で親しまれたコンパクト機

今回登場するThinkPadも、界隈ではあまりにも有名なモデルです。「チャンドラ2」の愛称で親しまれた「ThinkPad 235」が連載第三回目にして登場。前々回のバタフライキーボードを搭載した「701C」やサブディスプレイを本体に内蔵したモバイルワークステーション「W700DS」のギミックがあまりにもインパクトがありすぎて、次はどれだけ奇抜なモデルが出てくるのかと期待に胸を膨らませている人にとって、今回ご紹介するThinkPad 235はかなり地味な印象を受けるでしょう。

↑IBM ThinkPad 235

 

時は1998年。世の中はWindows 98のリリースに沸き、来るミレニアムも間近に感じていた時代。パソコン業界は、自作PCが流行し秋葉原などの電気街では自作パーツ屋が軒を連ね、多くの自作ユーザーが街にあふれかえっていた時でもありました。一方、ノートPC界隈はというと、初代VAIOノートの505が発売された直後であり、東芝のDynabookなどのライバル機の存在もあり、薄型軽量ノートPC時代の幕開けを感じさせていました。

 

しかし、世の中はまだまだデスクトップPC全盛。自作だけでなく、家電メーカーですらタワー型や一体型のデスクトップPCをラインナップし、ノートはあくまでも出先で使うサブマシンの扱いの色が濃かった時代ともいえます。当時は現在のように携帯電話の通信インフラが整備されておらず、ワイヤレス通信といえば、2GかPHSの低速通信か、公衆電話機のモジュラーにモデムを直結するというモバイル通信事情でした。社内のWi-Fiも整備されおらず、ノートPCとはいえ、主に有線LANのケーブルを挿入して社内LANに接続するという状況。ノートPCの優位性といえば、自分の作業環境やデータを持ち歩けるといった程度で、やはりメインであるデスクトップPCのサブ的な位置づけというのが正しかったように思います。

 

そんな時代背景の中、1998年7月に登場したのが「ThinkPad 235」です。基本的な仕様はというと……。

●CPU:インテル MMX Pentium 233MHz~
●メモリ:32MB
●HDD:3.2GB
●光学ドライブ:
●画面:9.2型TFT液晶(800×600)
●サイズ:W235.2×H33.7×D173.2mm
●重量:約1.25kg
●OS:Microsoft Windows 98
●価格:23万5000円

 

画面サイズや本体サイズをよくご覧頂くとわかると思うのですが、分厚い割りには面積は小さい? まるで昔、流行したお父さんが会社に持っていくアルミ製の弁当箱のようなサイズ。

↑まさに弁当箱のようなサイズ感

 

そうなんです。この235は当時でも珍しいこのサイズ感が最大の特徴なんです。どれくらい小さいかを2019年生まれのX390と比較してみました。X390も現行ラインナップのなかではモバイル機の人気モデルとして十分にコンパクトなのですが、面積だけでいえばThinkPad 235の小ささが圧倒的です。ちなみに重量は、X390が1.18kg、大して235が1.25kgと良い勝負。

↑ThinkPad 235(左)とX390(右)

 

↑ThinkPad 235(上段)とX390(下段)

 

ただし、235はバタフライキーボードのようなギミックは搭載していないため、サイズの小ささはそのままキーピッチに影響を及ぼします。しかし、そこはさすがThinkPadだけあって、打鍵感に妥協する様子はみられません。トラックポイント搭載の7列キーボードは死守しています。キーピッチは狭いものの、打鍵感は往年のThinkPadそのものです。

↑ThinkPad 235のキーボード

 

↑HomeやEndが独立した7列キーボードはキッチリ踏襲

 

↑小さいとはいえ打鍵感はThinkPadのソレ!

 

そして、このサイズ感を実現するにはやはり画面サイズも妥協せざるを得ません。9.2型のSVGA解像度(800×600)は、DOSやUNIXのCUI(文字インターフェース)で使用するならまだしも、Windows 98のGUI(グラフィカルインターフェース)では作業性が微妙に感じましたが、液晶においては高解像度時代の幕開けはまだ先の話なので235ユーザーはこの解像度でも気にしていなかったと思います。

 

多くの人に愛された「チャンドラ2」という呼称

「ThinkPad 235」といってピンとこない人も、「チャンドラ」という愛称なら聞いたことがあるかもしれません。もちろん、ポケモンの名前ではなく、235の元となったノートPCが存在し、そのモデルが「チャンドラ」という名称でした。

 

当時、リコーとIBMが共同で出資した「ライオス・システム」という会社が開発したサブノートPCが「チャンドラ」というモデルで、その後継モデル「チャンドラ2」をIBM版に改良し、ThinkPadのクオリティを担保したモデルが「ThinkPad 235」でした。そこで、IBMのThinkPad 235は正式名称ではないものの「チャンドラ」とか「チャンドラ2」と呼ばれるようになった経緯があります。筆者的にも「チャンドラ」と聞くと、真っ先に235を思い浮かべてしまうくらいです。

↑一説によると「チャンドラ」はインド神話に登場する神の名だとか

 

↑搭載するバッテリーパックは当時のビデオカメラ向けの汎用品でした

 

↑おまけ:同梱の「ロータスノーツ」。懐かしい……

 

そんなサブノートとして究極のサイズ感で人々の記憶に残った名機「ThinkPad 235」ですが、現代ではThinkPadのリアルモバイル「X」シリーズに系譜が受け継がれ、サブではなくメインとしても活躍できる小型ノートPCの地位を確立しています。

↑ThinkPad 235(左)とX390(右)

 

取材協力:レノボ・ジャパン

 

【関連記事】

伝説の“バタフライキーボード”を搭載した「ThinkPad 701C」

ThinkPad最凶のモンスターマシンと呼ばれた「W700DS」