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2019/6/27 20:00

【ThinkPadクロニクル】ThinkPad最凶のモンスターマシンと呼ばれた「W700DS」

1992年の発売以来、多くのユーザーに愛され続けるポータブルコンピューター「ThinkPad」。その25年以上にもわたる長い歴史の中には、永遠に語り継がれる伝説のモデルや、トンデモ機能で黒歴史の1ページを飾ったものまで枚挙に暇がありません。そこで、業界きってのThinkPad好きライター・ナックル末吉氏が、時代を彩ったThinkPadの名機を語る不定期連載として、「ThinkPadクロニクル」をお届けします。

 

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記憶に新しいモンスターマシン

ThinkPad事業が2004年にIBMからレノボに移管されてから数年後の2009年、いまでも人々の脳裏に焼き付いて離れない“モンスターマシン”が登場します。

 

それがThinkPadの「W」シリーズ。

↑レノボ時代になってから登場したThinkPadの「W」シリーズ

 

当時、レノボはThinkPadの当時のフラグシップシリーズであるTシリーズの流れを汲むモバイルワークステーションとして、Wシリーズの展開を開始しました。型番の「W」はもちろん「WorkStation」のWです。ワラとか草ではありません。

 

近頃は「ワークステーション」という言葉をあまり聞かなくなりましたが、当時は高性能なコンピューターが異常に高価(数百万円は当たり前)で、よほどの企業でない限り、現代のパソコンのように1人に1台供給されるような代物ではありませんでした。CADや動画など、重い処理を行う場合は、ワークステーションを複数人でシェアリングしながら、そのマシンパワーの恩恵にあずかったものでした。しかし、現代では、個人用パソコンの低価格化と高性能化により、ワークステーションの出番というか、位置づけも曖昧になってきた気がします。

 

ThinkPadのWシリーズが「ワークステーション」たる理由は、CPUとは別に強力なグラフィックスチップを搭載していたことで、そのマシン単体でどんなミッションもこなせるまさに、持ち歩けるワークステーションというコンセプトにありました。その中でも17型のディスプレイを搭載したW700シリーズは、当時はまだ珍しかったインテルCore 2 ExtremeシリーズのクアッドコアCPUやNVIDIA Quadro FXのグラフィックスチップを採用し、モンスター級の処理性能を搭載して鮮烈デビューを飾りました。

 

さらに、W700にはモニターの色を調節する「キャリブレーション」機能や、今では当たり前の機能ですが、手書き入力可能な「デジタイザ」まで搭載し、デザイナーやCAD設計士、カメラマンなどのグラフィック系の仕事に携わるプロ向け用の機材として、モバイルワークステーションの名を欲しいままにしました。

 

ラスボスではなく真のボスが待ち構えていた

ところが、W700がいくら超級マシンであっても、この程度では「モンスター」とまでは言われなかったはず。そうです、このさらに上、いやナナメ上を行く「W700DS」の存在があったのです。

 

そのネーミングから想像できるようにW700DSは、W700をベースにサブディスプレイを内蔵した「DS(デュアルスクリーン)」モデル。なんと、メインディスプレイの横からサブディスプレイがスライドして展開して、マルチディスプレイ環境がノートパソコン1台で実現できてしまうという代物です。

 

まずは、そのサブディスプレイのギミックを動画でご覧下さい。

 

なんと、17型フルHDのメインディスプレイの裏に10.6型のサブディスプレイがスライドインされています。解像度は768×1280の縦長。鋭い人ならお解りになると思いますが、フルHDの17型と比べてもドットピッチが違うため、両画面に表示されるテキストやグラフィックに違和感があるのもW700DSがただ者ではない証です。

↑随分と分厚い天板ですが……

 

↑こんな感じでサブディスプレイがスライドしながら露出してきます

 

↑角度をつけることも可能

 

さて、サブディスプレイを本体に内蔵するなんていう変態ギミックを搭載したW700DSですが、17型+10.6型ディスプレイやテンキーにデジタイザまで搭載しているとなると、その巨躯もThinkPad史上最大級。

↑もう本体だけでA4の書類をたっぷり入れたビジネスバッグと同等の風格があります

 

W700DSのサイズはW410×H52.2×D310mm。重量は約5kg。重さだけで考えれば、2019年生まれであるX390(1.18g)の約4倍。X390の底面サイズ(フットプリント)はほぼA4のコピー用紙と同一と考えると、W700DSの大きさがお解り頂けると思います。

↑X390(左)とW700DS(右)

 

↑X390(上段)とW700DS(下段)

 

↑170ワットのACアダプターは重量が約900gもある規格外のデカさ

 

ThinkPad W700DSのスペックをざっと紹介しましょう。

●CPU:Core 2 Extreme プロセッサー QX9300(2.53GHz)
●メモリ:2GB×2(MAX8GB)
●HDD:200GB×2
●光学ドライブ:DVDスーパーマルチドライブ
●GPU:NVIDIA Quadro FX 3700M
●メインディスプレイ:17型TFT液晶(フルHD)
●サブディスプレイ:10.6型TFT液晶(768×1280)
●サイズ:W410×H52.2×D310mm
●重量:約5.0kg
●OS:Microsft Windows Vista Ultimate
●価格:72万円

 

こんなマシンが約10年前にお目見えしていたことを想像するだけで、背筋が凍りますね。スペックもさることながら価格も超弩弓。当時の筆者は「これを手に入れてこそ真のThinkPaderだ」と意気込みたものの、逆さにふっても鼻血しか出てこず購入できなかった苦い思い出があります。

 

W700DSのコックピットビューからは、テンキーやデジタイザが一望でき、他のThinPadとは一線を画す風格すら感じます。これぞモバイルワークステーションという感じがしますが、とても「モバイル」といわれてもピンとくるようなものではありません。確かに、タワー型やデスクトップ型のワークステーションに比べたら”持ち運べる”のは間違いないのですが……。

↑W700DSのサブディスプレイを展開したコックピットビュー

 

↑テンキー搭載の幅広ではありますが、トラックポイント付きのまぎれもないThinkPadキーボード

 

↑カーソルキー下に配置されたデジタイザ

 

もちろん、これだけ大柄なボディですので拡張性がショボいワケがありません。2枚もディスプレイを搭載しているくせに、他にも画面出力端子が満載されているあたり、W700DSが「最強」ではなく「最凶」と呼ばれる所以がお解り頂けると思います。

↑背面に並んだDisplayPort、VGA、DVI-Dなどのディスプレイコネクタ。まだディスプレイをつなげるのか!

 

さて、このW700DSを含むThinkPadの「W」シリーズの現在はというと、Wの型番こそなくなりましたが「パフォーマンスプロフェッショナルインテリステーション」というコンセプトで、通称「P」シリーズとして、その圧倒的パワーとプロが使う機能性が受け継がれています。

↑「ThinkPad P72」。17.3型4Kディスプレイや6コアXeon、VR対応。直販価格23万1336円~

 

取材協力:レノボ・ジャパン

 

【ギャラリー】(外部配信先からご覧の方は、本サイトで見られます)

 

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