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2019/5/21 19:30

【ThinkPadクロニクル】伝説の“バタフライキーボード”を搭載した「ThinkPad 701C」

1992年の発売以来、多くのユーザーに愛され続けるポータブルコンピューター「ThinkPad」。その25年以上にもわたる長い歴史の中には、永遠に語り継がれる伝説のモデルや、トンデモ機能で黒歴史の1ページを飾ったものまで枚挙に暇がありません。そこで、業界きってのThinkPad好きライター・ナックル末吉氏が、時代を彩ったThinkPadの名機を語る不定期連載として、「ThinkPadクロニクル」をお届けします。

 

これが伝説のバタフライキーボードだ!

本連載の記念すべき第一弾に筆者が選んだモデルは、伝説のギミックを搭載して当時の大人を少年時代に連れ戻すかのような現象を巻き起こした「ThinkPad 701C」です。万が一、この連載が短期間で打ち切りになっても、この機種だけは記事化しておかなければならないという使命感すらあるほどです。それではさっそく見ていきましょう。

(※今回取材したモデルはSTN液晶を搭載した廉価機701CSです)

↑ThinkPad 701CS

 

時は1995年3月。そろそろWindows 95の足音が聞こえてきそうな時期ですが、世の中のパソコンといえば、まだまだDOS時代。そして、そのDOS上で動作するWindows 3.1というGUI(グラフィカルインターフェース)の黎明期でした。そんな当時、IBMから衝撃的なラップトップマシンが我々の前に忽然と姿を現しました。それが「ThinkPad 701C」なのです。どのあたりが衝撃的なのか、まずは動画を観て頂き、すべて悟って頂きましょう。

 

いかがでしょうか!? ThinkPad 701Cは、天板を閉じた状態でコンパクトなフットプリントを保ったまま、ThinkPadらしい打鍵感を損なわないために、フタと連動してキーボードが左右に分割し上下にずれるように展開および収納されるギミックが搭載されました。このギミックは開発コードネームである「バタフライ」から「バタフライキーボード」という名称でガジェット界隈に浸透しました。正式名称は「TrackWrite」とのことですが、まるで蝶の羽がはばたくようです。

↑ギミック感のあるバタフライキーボード

 

展開されたキーボードは、本体の幅よりも左右に広く、19mmのフルピッチを確保しています。もちろん、ThinkPadの象徴ともいえるトラックポイントや7列も忠実に再現され、打鍵感はなんら遜色のないクオリティとなっています。

↑ディスプレイをフルオープンするとキーボードも展開される

 

筆者自身、70C1に直接触れるのは実はこれが初めての経験。しかし、IBM時代のThinkPadを操作及び所有したことがある人ならば、誰しもが懐かしく感じるほどの打鍵感。思わず「あーこれこれ!」と口走ってしまいます。

↑こんな形状をしていてもたわみすら感じない剛性感

 

いま聞いても超弩弓なお値段

このThinkPad 701Cですが、発売当初のスペックをざっと紹介しておくと、

●CPU:インテル DX4/75MHz
●メモリ:8MB(MAX24MB)
●HDD:540MB
●画面:10.4型TFT液晶
●サイズ:W247×H201×D44mm
●重量:約2.0kg
●OS:PC-DOS

CPUはまだPentiumに移行する直前のDX4というのが時代背景を物語っており、コンパクトな本体サイズを目指したわりには、厚みが4.4cmに重量が2.0kgもあるところに時代を感じます。当時は、重量や厚みよりもフットプリント(面積)の狭さが重要視された時代でした。

↑4.4cmmある厚み。X390の約3枚分!

 

そして、最も驚きなのがその価格です。当時の価格はなんと75万円……。新車の軽自動車が買えてしまう額です。しかし、当時のユーザーたちは「高い」とは思いつつも「不思議」とは思いませんでした。なぜなら、それだけThinkPadは高額なプロダクトであり、所有することだけでもステータスを得られる高嶺の花だったからです。特にエンジニアたちは、701Cを出先でパッと開いて、ホストコンピューターに接続する所作自体が、現代でいう「ドヤ」だと当時のペーペーの平社員だった筆者は羨望のまなざしで見ていたものでした。

 

当時のThinkPadシリーズは、ビジネス向けのポータブルコンピューターとして、既に知名度を得ており、その黒々としたボディや高額すぎる価格設定で「お仕事用に企業が買うパソコン」というイメージが筆者にはありました。しかし、この701Cのようにあくまでも実用的なのに意欲的なギミックを搭載するような挑戦的なスタイルがThinkPadの開発者スピリッツにあったことが伺える1台です。その成果が結ばれた形で、ThinkPad 701CはMoMAニューヨーク近代美術館やディ・ノイエ・ザムルング国際デザイン美術館に永久保存されているそうです。もはや美術品!

↑付属する外付けドライブはもちろんフロッピーディスク

 

↑舞台装置のようなギミックが満載

 

取材協力:レノボ・ジャパン