デジタル
2019/11/7 7:00

【西田宗千佳連載】日本が「ハイエンドスマホの国」だった理由

Vol.84-3

 

ハイエンドスマホの価格は高くなり続けている。サムスンの二つ折りスマホ「Galaxy Fold」(24万円!)の例は極端であるにしろ、iPhoneやPixel、GalaxyにXperiaと、それぞれの製品の「ハイエンドモデル」が10万円を超えることも珍しくない。理由は単純で、それだけ高く最新のパーツをふんだんに使っているからだ。逆にいえば、そうしないと差別化は難しいし、人々もそれだけ「価値を認めている」ということになる。

 

ただし、ハイエンドスマホが売れる理由は「売るための仕組みがある」からであり、単純に「高くても良いものだから」売れているわけではない。前回解説したように、携帯電話事業者はハイエンドモデルを売るために「分割販売」「本体引き取りによる割引」を中心とした施策を用意している。この仕組みはハイエンドスマホを、より負担なく買えるようにするためのものであり、大手携帯電話事業者に特有のもの、といっていい。

 

Apple iPhone 11

 

なぜ大手がこの施策を行うのか? それは、顧客をできる限り長く自社のサービスに引き留めておきたいからだし、魅力的な端末で顧客を引きつけたいからでもある。「あまり通信を使わない」「負担をとにかく安くしたい」顧客向けには低価格な端末も用意するようになっているのだが、やはり大手の場合、できるだけ一人当たりの売り上げを高くしたいので、「高速かつ快適に使える通信」を提供しつつ、そういうサービスに相応しいハイエンド端末を推す……という形になりがちだ。

 

だが実際のところ、多くの人にとっては、ハイエンドスマホは「魅力的だがそこまでの性能が必須なわけではない」製品でもある。言葉は悪いが「割引もあるし、なんとなくそのほうがいいと思うし、買えるなら」くらいの気持ちで購入されてきたのではないか。だが、分離プランによって端末の価格が上がったのは事実で、ハイエンドスマホを割引で安く買うのは難しくなる。となると、「前回はハイエンドスマホを買ったけど、今回は止めておこう」という人が出てくるはずだ。仮に前回スマホを買ったのが3年前だとすると、その当時のハイエンドスマホの性能は、現在のミドルクラススマホより低い可能性が高い。「ハイエンドとはいえないけれど、前のスマホよりは性能が高い」となればそれでもいい、と考える人は多いと思われる。

 

ただし、多くの人はそこまでスマホの性能に詳しいわけではない。そうした人がハイエンドスマホを使っていた場合、買い換えとして「それよりいいスマホ」を求めると、結局ハイエンド機を選んでしまいがちだ。割引などの施策とこうした「なんとなくの選択」が結びついていたのが、これまで日本でハイエンドスマホが売れ続けてきた理由のひとつと言える。

 

とはいえ、この2年ほどで、スマホも「ミドルクラス」が売れるようになってきた。MVNOはミドルクラスが中心だし、大手3社でも、通信プランを安いものに切り換える際、価格が安いミドルクラス以下の製品を選んだ……という人も増えている。そういう人が増えるほど、結局はジワリジワリと「ミドルクラススマホを使う人」が増えていくのである。

 

では、日本のスマホ市場の今後はどうなるのか? ハイエンドスマホは本当に売れなくなるのか? その辺は次回のウェブ版で解説したい。

 

 

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