メタバースとは、自分のアバター(分身)を作って自由に活動できる仮想空間のことだが、いまいちピンとこない人が多いだろう。“メタバース”はフワッとした言葉であり、実態がわかりにくい。どのような世界をメタバースと言うのか。VRやARとは何が異なるのか。普及に向けてどんな要素が必要なのかを明らかにしていく。
※こちらは「GetNavi」 2022年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
メタバースとは何か
私が解説します!
メタバースとは新しい生活圏を作ること
いきなり結論なのだが、メタバースに明確な定義はない。色々な人が多様な観点からメタバースについて述べているが、これが正解という話があるわけでもないのだ。だが、あえて定義をするなら「デジタル空間に人間の新しい生活圏を作ること」と言えるだろうか。
メタバースというと我々は、3DCGで作られた空間に、ヘッドマウントディスプレイを装着して入り込む姿を想像する。それも確かにメタバースのひとつではある。VR技術を使うと、我々の視覚や聴覚を簡単に奪うことができるからだ。自宅のリビングにいたはずなのに広大な砂浜に移動していたり、たくさんの人々と一緒にコンサート会場にいたりという体験をするには、VR技術の活用が不可欠だ。
一方で、もっとシンプルな話もある。メタバースを「人工の生活圏」と定義するのであれば、いまのSNSだって十分に「人工生活圏」なのだ。日常の何割かをそこで過ごし、人々と交流し、ときにはショッピングもする。これが“生活”でなくて何なのだろう?
ただ、さすがにテキストメインのSNSでは新しさに欠けるし、できることの限界も大きい。だが、VR技術を使ってコンピュータのなかに空間を作り、そこを生活の場として活用するのであれば、可能性ははるかに大きくなる。
土地の広さや重力の有無など、現実世界の制約から解き放たれ、自分の姿をはじめ、性別も容姿も違う、別のキャラクターとして時間を過ごすことができるなら、それは「新しい生活の場」と言える。
SNS最大手であるフェイスブック社が「メタ」に社名変更し、メタバース事業への注力を始めたことから、「メタバース」という言葉は一気にブーム化したわけだが、これも新しい生活圏をいち早く作ることが目的だ、と考えると納得しやすい。彼らは、フェイスブックやインスタグラムといったSNSの先にある存在としてのメタバースを重視しているのだ。
重要なのは「相互接続性」だがいまはまだまだ道半ば
一方で、いまの「VR」や「AR」とメタバースの関係はわかりづらくなっている。VRやARにより、我々は“現実とは違う世界”を体験できるが、それだけでメタバースと言えるわけではない。
例えば、メタが提供している「Horizon Workrooms」はVRを使った、非常に実用性の高い会議サービスである。だが、Horizon Workroomsがメタバースか、というとそうではない。あくまでひとつの会議サービスだ。同じように、VRでコミュニケーションを行う「VRChat」もあくまでコミュニケーションのためのサービスに過ぎず、メタバースそのものではない。各種ゲームも同様だ。
なぜメタバースと言えないのか? 理由は、メタバースの「メタ」という言葉の部分にある。メタとは“上位の”という意味を持ち、複数のサービスが相互につながっている様を表している。
ゲームやコンサート、会議室などのサービスがそれぞれバラバラに存在していても、大きな成長は難しい。アバターを共通で使えたり、ゲームからコンサートへシームレスに移行できたりすることで、VRサービスの集まりは、本当の意味での生活圏になっていく。それぞれのサービスがつながれば、着飾るようにアバターのアイテムを集めておいたり、友人を呼んでチャットするためにメタバース内に“家”を持ったりと、各サービスの主たる目的とは異なる要素が出てくる。その部分が出来上がってはじめて、我々はコンピュータの世界に新たな生活空間を持ったと言えるのである。
それを実現するには、どこかが1社サービスを作れば良い、という話ではない。相互接続性や金銭のやり取りなどの仕組みは出来上がっておらず、検討すらこれから始まる段階だ。メタをはじめとして、メタバースに真剣に取り組んでいる企業は、5年先、もしくは10年先に向けた開発を進めている。インターネットの次の段階としてメタバースが生まれるには、まだそのくらいの時間が必要であり、各社の協力体制も必要だ。いまのブームはその一部がようやく見えた段階に過ぎないのである。