3月29日、富士通クライアントコンピューティング(以下、FCCL)は、13.3インチ有機ELディスプレイを搭載した2in1ノートパソコン「FMV LOOX」を発表しました。富士通のPC・40周年企画の第3弾でもあるこの製品は、13インチのWindowsタブレットとしては世界最薄・最軽量の599g(※)。USB-C接続でほかのWindows PCのファイル共有・直接操作を可能にする「クリエイティブコネクト」などの画期的機能を複数搭載した、インパクトの強いモデルです。
※:13.3型ワイドのWindowsタブレットとして /W-LANモデル タブレット使用時
ラスベガスで毎年開催される電子機器の見本市・CESで「CES Innovation Awards 2022」を受賞。本機の革新性は、国際的に高い評価を受けています。そんな画期的モデルはどのようにして生まれたのか。開発陣に取材しました。
クリエイターのニーズに応えるべく、”世界最先端”が結集
本品の開発コンセプトは、「想像を超える軽さと、創造できる賢さ」です。そのコンセプト通り、599gという軽さ、7.2mmという薄さは、世界最軽量かつ最薄。外出時にPCを持ち運んでいることを忘れさせるような携帯性を実現しています。
「賢さ」の面では、クリエイティブなユーザーからのニーズに応える機構を多く盛り込みました。まず、ペンタブレットのトップメーカー・ワコムの次世代ペン技術「Wacom Linear Pen(ワコム リニアペン)」に対応。描画ポイントが見えやすいとがった形状のペン先、ペンの傾きによる座標ズレ抑制機能などを採用したこのペンは、タブレットでの手書き体験をかつてないレベルに高めています。さらに、手書きのテキストを高精度で文字認識できるメモ用アプリケーション「Wacom Notes」をプリインストールしており、ノートとしての使い勝手も追求しました。
USB-Cケーブル接続でほかのWindows端末と画面をシェアしながら、ファイルを直接操作できる「クリエイティブコネクト」機能は、FCCL製でないPCとも接続できるという点で革新性が高いポイントです。FMV LOOXをペンタブレットとして使い、メインPC上にあるイラストを編集するといった、かつてのタブレットPCではできなかった用途に対応。「軽さ」「賢さ」の両面に世界最先端の技術・機能を詰め込んだ本機は、イラストレーターはもちろん、幅広いクリエイターの相棒として活躍できる一台に仕上がっています。
ボトムアップで作られた「ヒーローになる端末」
本機の開発を統括したFCCLの小中陽介さんによれば「今回の開発は、ボトムアップで行われた」といいます。これは、タブレットPCというジャンルにおいて珍しいことだそうです。
「タブレットPCはすでにたくさんの製品が世に出ているので、ビジネス的に考えると難しい商材です。そのため、通常であれば他社の製品や市場の動向を見ながら、慎重に開発を進めることになります。ですが今回は、『既存の枠にとらわれない、全く新しい製品を作ろう』という声が社内で出てきまして、その熱意を商品化するという形で開発を始めました。その過程では、『ヒーローになる端末を作ろう』という想いから、『ヒーロータブ』という愛称も生まれました」(小中さん)
そんなボトムアップの声が社内で出てきたのが、2021年の1月ごろ。着想から1年強で製品の発表にこぎつけたことになります。1年以上という開発期間について「長い」と思われる読者もいらっしゃるかもしれませんが、エンジニアにとっては厳しいものだったそうです。
「通常、このようなデバイスには、開発だけでも11か月程度の期間を要します。製品の構想ができてからすぐに開発を始める必要があり、スケジュールはハードになりました。FCCLでは、商品化の可否を決める『企画判定会議』、開発サイドで製品のコスト・性能面のバランスを見極める『開発審議会』という2つの会議をクリアしなければ商品化ができないのですが、このうちの開発審議会が大きな難所になりました」(小中さん)
世界最薄・最軽量を叶えたエンジニアの執念
なぜ、開発審議会が難航したのか。それは、「新しいものを作りたい」という同社エンジニアの執念によるものでした。
「クリエイティブなユーザーに『これなら新しいものを創造できそう』と思わせられるようなデバイスを作ろうとしていたのですが、開発審議会に上がってきた初期の案は、案外”普通”なものでした。既存の枠組みにとらわれないというこだわりが企画の出発点でしたから、もっと軽くしたい、ベゼルを小さくしたい、デザインを洗練させたい……といったふうに、何度も案が跳ね返されたんです。その過程で、当初は7.28mm厚で開発していた本体も、7.20mm厚と、さらに薄型化されました」(小中さん)
本機のコンセプトのひとつである「想像できる軽さ」。それを実現するための構造開発を担当したのが青木伸次さんです。
「小型化にあたっては、ただサイズを小さくするだけでなく、内部の熱をどう逃すのかが課題でした。また熱が一部に集中してしまうと、機械の寿命が短くなってしまうので、熱の均質化も行う必要がありました」(青木さん)
試行錯誤の結果、本機には、ヒートシンク、ヒートパイプ、さらには高い熱伝導率を誇るグラファイトのフィルムが内蔵されました。この3つが組み合わせることで、ファンレスであることをものともしない、高い放熱性、熱の均一化を実現しています。
「クリエイティブに使ってほしい」という想いが結晶した、多彩な機能
FMV LOOXは、独自の機能を複数搭載しています。その際たるものが、外部連携機能「クリエイティブコネクト」(上写真)とワコムの新技術「Wacom Linear Pen」です。これらの機能は、本機が初搭載。Wacom Linear Penに至っては、ワコム製のペンタブレットにすら未だ搭載されていない最新の技術。PCである本機は、世界最新鋭のペンタブレットでもあるのです。
また、スピーカー、キーボードなどにもこだわりが詰まっています。たとえば、ボディの背面に搭載された4つのスピーカーは、本体の小ささを感じさせない力強い音を鳴らします。しっとり、上品に響くその音は、小型スピーカーの音にありがちなシャリシャリ感とは無縁です。
キーの中央が凹んだ形状になっているキーボードは、携帯性は維持しつつも堅牢な作り。叩いてみるとしっかりした反発があり、打鍵感にはいい意味で2in1デバイスらしさがありません。小中さんが「ユーザーが創造性を発揮する前に、疲れてしまってはいけない」と語るように、使用者のクリエイティビティを最大限引き出すための操作性を追求した結果生まれた、オリジナルのキーボードです。
11年ぶりに復活した「LOOX」の名が意味するもの
あらゆるこだわりが詰まった、今回のFMV LOOX。この製品名にも特別な意味があります。LOOXは「Look at “X”-perience」の略。このXは「変化、無限の可能性、体験」といった意味であり、本機が「未来の変革をみすえた革命的なデバイス」であることを表しています。
そして、「LOOX」という名の端末が発売されるのは今回が初めてではありません。実は同社、これまでにも同一の名称を冠した端末を発売しています。とはいえ、LOOXの名に聞きなじみのない読者もいるでしょう。それもそのはず、”新たなLOOX”が世に出るのは、実に11年ぶりのことなのです。
“直近のLOOX”は、2011年に発売された携帯電話「LOOX F-07C」。Windows 7搭載の携帯電話という新規性がウリのF-07Cは、発表当時、大きな注目を集めました。またそれ以前には、背広の内ポケットに入るサイズの超小型PC「LOOX U」も発売しています。LOOXの名は、超小型PCのラインナップで使われてきた名称です。
長らく封印されてきた名称が復活した要因は、本機に対する全幅の自信。そもそもFCCLにとって、LOOXの名称は軽々しく使えるものではありません。LOOXの示すところが「未来の変革をみすえた革命的なデバイス」である以上、それに相応しい製品でない限り、命名できないのです。
「LOOXは、FCCLが『これは革命的だ!』と自負する端末が生まれたときにつける名前なんです。かつてのLOOXも、企画当初からその名で売り出そうと決めていたことはありませんでした。今回も、企画の後半段階になってこの商品名にするという意見が出たことが、名付けのきっかけになっています。この商品名は、”かつてないほどクリエイティブに使えるタブレットができた”という、会社としての自信の証です」(小中さん)
FMV LOOXの発売は、6月中旬と発表されています。その時期までまだ間がありますが、この夏、本機がもたらす革新に期待が高まります。
撮影/高原マサキ(TK.c/1枚目写真と人物)