デジタル
2022/9/16 21:15

【西田宗千佳連載】なぜMetaはVRやメタバースをビジネスで使うPCのようにしたいのか

Vol.118-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはFacebook改めMetaが手がけるVRヘッドセット「Meta Quest 2」。ビジネスツールとして可能性を感じているMetaの思惑にせまる。

↑Meta Quest 2。実売価格5万9400円(128GB)から。Meta社が買収したことにより、それまでのOculus Quest 2から名称を変更したVRヘッドセット。完全ワイヤレスによる操作が可能で、ゲームやフィットネスで展開されるVR空間、さらに昨今注目されているメタバース空間での移動もより自由度を増すデバイスとなっている

 

前回、MetaがVRデバイス「Meta Quest 2」を、VRを使ったゲーム機として販売しつつも、ビジネスで使う「PCの代替」のような存在に育てようとしている……という説明をした。

 

では、なぜ、ビジネスツールとしてのVRデバイスを育てる必要があるのか? そこには2つの理由がある。

 

ひとつは、ビジネスツールは大きなお金が動くからだ。PC市場を見ても、コンシューマ向けよりも企業向けの方が数量・金額ともに多い。企業が働くための道具として買うようになれば、そこにはハードウェアとソフトウェアのサービスに加え、システム構築などのビジネスもついてくる。オフィスにPCが普及して30年が経過し、マイクロソフトなども新しいワークスタイルとして、メタバースの活用を検討している。見ているところは皆同じなのだ。

 

もうひとつの大きな理由は「VRやメタバースを毎日使う理由になる用途が必要」だ、ということがある。

 

VR用HMDを買ったが、それを毎日つけている人はまだ少数派だ。現状HMDを毎日つけているのは、「VRChat」のようなコミュニケーション・サービスにハマってしまった人が大半ではないだろうか。ただ、あのような世界に全員がハマるわけではなく、よりシンプルでわかりやすい用途も必要になる。

 

ゲームはなかなか難しい。毎日ゲームをするような熱心なゲーマーであっても、毎日VRゲームだけをするわけではない。多くの人は、気になるゲームがあるときや、週末にプレイするくらいではないだろうか。ゲームに絡めて「フィットネス」もアピールされているが、これはそもそもニーズ・効果が高いというだけではなく、「フィットネスならば毎日使ってもらえる」という考えがあるからだという。

 

では、仕事の道具ならどうか? PCのようなデバイスになるなら、当然毎日使うことになるだろう。そのことは、Metaを含むメタバース・サービスを展開する企業にとってプラスであり、新しいサービスの種となる。PCも、仕事の一部で使われたり、家庭で年賀状の印刷に使われたりするだけならここまで普及しなかった。インターネットが一般化し、文書作成やコミュニケーション、エンターテインメントの道具として「毎日あたりまえに使う」ものになって、はじめて大きな成功を収めた。

 

現状、メタバースにしろVRにしろ、最大の課題は「毎日使う理由が希薄である」点にある。次の段階にブレイクするには、まずこの課題をクリアする必要があり、そのためにも、ビジネスで毎日使う路線を開拓していくことは、必須であり急務であるとも言える。

 

とはいうものの、いまのMeta Quest 2がすぐにPCの代わりになるか、というとそうではない。現在できるのは「Webアプリをいくつか同時に使う」「良いネット会議システムとして使う」「マルチディスプレイの代わりに使う」くらいのものだ。

 

実は、Metaがそのあたりを見据え、先の世界を考えて作っているのが「Project Cambria」と呼ばれるデバイスである。それがどのようなものになるかは、次回解説する。

 

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