古田新太「究極の自己満でみんなを笑わせたいっていう思いはこれからも変わらない」劇団☆新感線45周年興行『爆烈忠臣蔵』

ink_pen 2025/11/9
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古田新太「究極の自己満でみんなを笑わせたいっていう思いはこれからも変わらない」劇団☆新感線45周年興行『爆烈忠臣蔵』
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松本公演から始まった劇団☆新感線の45周年興行『爆烈忠臣蔵』もいよいよ東京公演を残すのみ。“チャンピオンまつり”と銘打った今作は、長年に渡る劇団の歴史を築いてきた看板俳優たちが揃う、ファン感涙のオールスター公演に。主演を務めるのはもちろん劇団の“顔”である古田新太さん。戦友とも言えるキャスト陣への想い、そして日本の演劇界の荒波を乗り越えてきた劇団の歴史を語ってもらった。

古田新太●ふるた・あらた…1965年12月3日生まれ。兵庫県出身。大阪芸術大学在学中に劇団☆新感線に参加。以後、看板役者として多くの作品に出演。『EIGHT JAM』レギュラー出演中。現在、映画『ベートーヴェン捏造』が公開中。2026年1月にリーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』に出演。

【古田新太さん撮り下ろし写真】

「アイツらバカなことしかしてなかったよなぁ」って感想は最高のご褒美

──劇団☆新感線の45周年興行『爆烈忠臣蔵』がいよいよ東京で開幕。メモリアルな舞台が、笑いを中心とした“ネタもの”であるところがいかにも新感線らしいなと感じます。

 

古田 新感線っていうのは、歌って踊って戦うコントをしながらお客さんを楽しませることが原点としてあるんです。もちろん、「いのうえ歌舞伎」のような外連味あふれるかっこいい舞台もあります。でも、不思議と新感線は今回のようなバカバカしい芝居を大きな劇場でやっても、誰からも怒られない良さがある(笑)。演出のいのうえ(ひでのり)さんや、作家の中島(かずき)さんもこういう作品が大好きだし。だから、劇団員たちもみんな離れないし、気づいたら45年も劇団として続いてるんだろうなと。

 

──また、今作には橋本じゅんさんや羽野晶紀さん、橋本さとしさんなど、久々の劇団員や元劇団員も出演されます。このオールスターともいえる面々が舞台で一堂に会するのは31年ぶりになりますが、感慨深さはありますか?

 

古田 すごく楽しいですよ。全員が揃うのは確かに31年ぶりだけど、じゅんさんは6年前に本公演に出てるし、羽野も8年前、さとしも5年前に出てくれている。なのでいつも観に来てくれるお客さんにしてみれば、もしかしたらそこまで久々という感じじゃないかもしれない(笑)。むしろ、みんなが出てくれてる公演のときに限って、オイラだけ出てなかったり。それもあって、個人的にはものすごく新鮮ですね。

 

──実際にみんなで稽古に臨んだ時はどのようなお気持ちでしたか?

 

古田 うれしかったのが、みんなキャピキャピして楽しそうだったこと。誰一人、「えっ、まだこんなバカみたいな芝居やってんの!?」ってドン引きするようなメンバーがいなかった(笑)。稽古が始まってからも、学生だった頃のノリとほとんど変わってなかったし。というのも、新感線の芝居作りって、いのうえさんの「これ、絶対におもしれぇだろうなぁ」っていう思いつきをいかに形にしていくかなんです。それは40年以上ずっと変わっていない。相変わらずくっだらない下ネタが大好きだし(笑)。そういうところがずっとブレなかったのも、劇団が長く続いてきた秘訣なのかもしれない。

 

──とはいえ、新感線は1988年に東京進出してからも常に快進撃を続け、年々、劇場や公演数の規模が大きくなっていきました。そこに対するプレッシャーなどはなかったのでしょうか?

 

古田 それはなかったです。お客さんを突き放した感じに聞こえるかもしれないけど、昔から“この芝居を楽しんでくれる人たちは遊びに来てね”というスタンスでしたから。本音を言うと、個人的にはもっと露悪的な芝居もやりたいんです。クズのような登場人物しか出てこない舞台とか。だから、そういうのは「ねずみの三銃士」(※生瀬勝久・池田成志・古田新太による演劇ユニット)みたいな感じで別の仲間たちと一緒に作っていくことにして、新感線ではお客さんが観終わったあとに笑ったことしか覚えてないような舞台を目指している。「あ〜、面白かったぁ」「アイツラなんか変な歌を歌ってたし、バカなことしかしてなかったよなぁ」っていう感想をもらえたら、それが最高のご褒美(笑)。その意味では、今回の『爆烈忠臣蔵』は新感線にとって真骨頂だと言えますね。

 

──今作で古田さんが演じるのは、お上の目を盗んで『忠臣蔵』を上演しようと企てる弾兵衛という座長の役。どんな人物になるのかとても楽しみです。

 

古田 弾兵衛は座長であるだけじゃなく、役者でもある。しかも厄介なのが、いつも自分に合った役ばかり演じようとするんです。ようは役者として不器用。これがもし、劇中劇では全然違うタイプの役を演じる男であれば思いっきり芝居を変えればいいだけなんだけど、それができないヤツだから演じ分けが本当に大変で。だって、劇中劇なのにほぼ弾兵衛だから(笑)。誰が見ても「一緒じゃん!」ってツッコみたくなる。ですから、そこはぜひオイラの頑張りを劇場で見てもらいたいです(笑)。

 

──(笑)。また、今作には小池栄子さんや早乙女太一さん、向井 理さんという豪華な役者陣が客演しているのも演劇好きにとってはたまらないものがあります。

 

古田 3人とも新感線の舞台の常連ですし、求められているものを瞬時に理解して、形にしてくれる方々ですから本当に心強いです。もちろん、それぞれに自分の芝居へのこだわりがあるし、それをしっかり見せてくれる。その一方で、演出家の意図することを楽しんで体現してくれるんです。そうした役者さんがいると、オイラにとっても、思う存分好き勝手なことができるから、すごく助かりますね(笑)。 

他の劇団にはできないことを新感線はやっている…まぁ、どこもやりたかないだろうけど(笑)

──あらためてこれまでの45年間を振り返っていただきたいのですが、劇団としてのターニングポイントを挙げていただくと、思い出されるのはどの公演になりますか?

 

古田 いくつかあるけど、一つは東京に進出して、青山円形劇場で芝居ができたときかな。決して広い場所ではないし、むしろお客さんの全員の顔が見えるくらいのこぢんまりとした劇場だったんです。もうなくなっちゃいましたけどね。そこはステージがど真ん中にあったから360°の幕落としをしたり、そのなかに戦車がいたりと、劇場の特性をいかしてやりたいことがほぼ実現したんですよね。そのあとは徐々に劇場が大きくなって、池袋のサンシャイン劇場で公演を打てるようになったのもうれしかったです。より大掛かりなセットが組めるようになりましたし、「こんなにデカいステージがあんだから、キングギドラの足を出そうぜ!」とか、バカバカしい演出にさらに磨きがかかっていって(笑)。

 

──リアルタイムでいろんな公演を観劇していましたが、毎回が衝撃的で新鮮でした。

 

古田 新感線が東京に進出した80年代後半や90年代は小劇場ブームだったから、いろんな劇団がいたんです。そのなかでもオイラたちはちょっと異色で、当時の東京の人気劇団の人たちからも、「バカが来た! バカが来た!」ってかわいがってもらえて(笑)。そうやって、次第に口コミで広がって、東京のお客さんも増えていったんです。

 

──演劇人だけじゃなく、多くの一般の方に受け入れられた要因はなんだったと思いますか?

 

古田 あの頃ってポリシーを持って舞台を作ってる演劇人や劇団がたくさんいたんです。でも、新感線は完全にノンポリでやってた。そこが逆にウケたのかもしれない。「アイツら、金がないくせに、やたら小道具や照明に金をかけてしょうもないことをしてるぜ」「でもやってることはおもしろいんだよな」って笑いながら好意的に見てくれていた。つまり、派手なうえに敷居も低かったから、見やすい劇団ではあったんだと思います。

 

──先ほど「小劇場ブーム」というワードが出ましたが、当時は関西から東京に進出する劇団がたくさんいたものの、さみしいことに今も残っているのは数えるほどしかないですよね。

 

古田 関西の劇団だけじゃなく、当時人気のあった東京の劇団も解散しちゃったり。そうしたなかで、“ちゃんとしてなかった”はずの劇団が残ってるんだから不思議。

 

──先ほどの古田さんの言葉を借りるなら、ノンポリという自由さがあったのも大きかったのかもしれません。

 

古田 それはあるでしょうね。劇団☆新感線だって旗揚げ当時は唐十郎さんやつかこうへいさんの流れを汲んだ作品が多かったんです。そうした、しっかりとした流れを汲んでるくせに、やってる内容はめちゃくちゃでしたから(笑)。それもあって、比較されるライバル劇団もなかったんです。唯一、比べられたのはワハハ本舗だけじゃないかな?(笑)

 

──なるほど。確かに!

 

古田 ワハハのほうが立ち上げは少し遅いんだけど、新感線とはほぼ同期なの。だから、仲も良かったですよ。久本(雅美)、吹越(満)、梅垣(義明)あたりとはよく飲んでましたし。

 

──いい意味で、どちらも高尚な演劇のイメージがない劇団です。

 

古田 そんなの一切ない(笑)。今で言えばコンプライアンス無視の2劇団でしたから。ワハハとは劇団同士でも仲が良くて、彼らが大阪公演に来たときはうちの稽古場を使ったりして。ある時、「古田―!」って呼ばれて、なんだろうと思ったら、「クリームシチュー作れる?」って言うもんだから、「コンロもあるし、すぐできるよ」って作ってあげたの。そしたら芝居で使うための偽ゲロとして必要だったってことがあって。「なんだよ、先に言えよ。おいしく作っちゃったよ」って(笑)。

 

──(笑)。そうしためちゃくちゃなことをしながらも、新感線もワハハもどんどんと観客の動員が増え、劇場の規模が大きくなっていく快進撃をリアルタイムで追いかけていくのが、いち演劇ファンとしても楽しかったです。いまだったら問題になりそうな演出も、当時は賛否が出る頃には公演自体が終わっていたりして、いわゆる“やり逃げ”みたいなことができましたよね。

 

古田 今はもう演劇の世界も上品になっちゃったから。過激でハチャメチャな芝居を作っていた最後の劇団が河原雅彦の「HIGHLEG JESUS」だったかもしれない(※2002年解散)。そんななか、いまだにコンプラぎりぎりで、ガキのような下ネタをやって喜んでる新感線みたいな劇団が残っているというのは、ある意味で貴重なのかもしれない。

 

──しかも、45周年の記念公演を開催するのが歴史ある新橋演舞場というのが感慨深いです。

 

古田 普段は歌舞伎も行なうような劇場ですから。そこでバカバカしい、エセ忠臣蔵をやる。「他の劇団にはできないだろ!」という気持ちですよ。まあ、どこもやりたかないだろうけど(笑)。

 

──では最後に、46年目以降の劇団としての展望をお聞かせください。

 

古田 どれだけ大きな劇場で芝居をするかっていう“劇場すごろく”に関しては、もう上がりまで来てるんですよね。新橋演舞場もこれが初めてではないですし、2017年には客席が360度動くIHIステージアラウンド東京で、キャストや内容を変えながら一年以上も『髑髏城の七人』をロングラン上演しましたから。だからこれからは、作品の中身を追求していくことになるんだろうなと。例えば、かっこよさや少し泣けるストーリーを重視した「いのうえ歌舞伎」をさらに深化させたり、ときには今回みたいにとことん笑えるだけの芝居を作ったり。ただ、その核にあるのは、やっぱりお客さんに喜んでもらいたいっていう思いと、「これ、面白いだろ?」っていう究極の自己満なんです。そこだけはこれからも絶対にブレずにやっていきたいですね。

 

 

舞台 2025年劇団☆新感線45周年興行・
秋冬公演 チャンピオンまつり  いのうえ歌舞伎
『爆烈忠臣蔵~桜吹雪 THUNDERSTRUCK』

11月9日(日)〜12月26日(金) 東京・新橋演舞場

(STAFF&CAST)
作:中島かずき
演出:いのうえひでのり
出演: 古田新太 橋本じゅん 高田聖子 栗根まこと 羽野晶紀 橋本さとし / 小池栄子 / 早乙女太一 / 向井 理 ほか

(STORY)
時は天保。花形役者になることを目指して江戸を訪れたお破(小池栄子)。しかし、江戸は財政を立て直すために歌舞音曲の自粛を強いられていた。歌舞伎の上演を許された「橘川座」も幕府から睨まれないように粛々と稽古に励む日々。そうしたなか、お破は無宿頭の弾兵衛(古田新太)が“闇歌舞伎”を上演していことを知る。

公式HP:https://www.vi-shinkansen.co.jp/bakuretsu45


撮影/映美 取材・文/倉田モトキ ヘアメイク/田中菜月 スタイリスト/渡邉圭祐 衣装協力/参丸一(アトリエ 林)

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