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2019/8/14 20:00

「恋人たちも濡れるラヴァーズ・ロック」プレイリスト40曲

ラヴァーズ・ロックとはなんぞや?

うだるような夏がやってくると、現実逃避でなんとなくゆる〜いレゲエが聴きたくなるって人も多いのではないでしょうか。レゲエ特有のなんともいえないピースでリラックスしたグルーヴは、一度ハマると決して抜け出せない不思議な魅力があります。とはいえ、レゲエの音楽性は多岐にわたっており、その音源の数も膨大だったりするので、どこから手を出したらいいのかわからないっていうビギナーズの方もいるかと思います。今回は初心者向けとしてはうってつけな「ラヴァーズ・ロック」なんかはいかがでしょうか?

 

レゲエがジャマイカで生まれた音楽であることは、さすがにご存知かもしれませんが、ではラヴァーズ・ロックとはなんぞや? イギリスの黒人文化を背景に独自に育まれていったジャンルで、ラヴァーズ・レゲエとも呼ばれるレゲエ・スタイルのひとつです。超乱暴に言ってしまうとレゲエのポップス版、もしくは歌謡曲版みたいなものでしょうか。コアなレゲエ好きからすると、軟弱なレゲエと揶揄されていた時代もあったそうです。そもそも、ラヴァーズ・ロックという言葉は万国共通ではなく、本国のイギリスでは「ナチュラル・ミスティック」なんて呼ばれ方をされていたという記述もみられます。いわゆる気分用語的なニュアンスが強いのかもしれません。

 

音楽的な特徴としては、レゲエのリズムはそのままに、スウィートすぎる美メロと甘〜い歌声、そして極めつけはラブ&ピースな歌世界と、最高にメロウでクール、そして何よりもキュートな音楽なんです。きっと音楽好きな女子にも好印象を持たれること間違いなし。ラヴァーズ・ロックの起源は、一説にはアルトン・エリスやジョン・ホルト、そしてケン・ブースといったジャマイカの国民的レゲエシンガーらが歌っていたロック・ステディ(スカとレゲエの架け橋的な音楽)や初期レゲエのラブソングが発端ともいわれています。もっと踏み込むと、1970年代半ばにロンドン南部にあるブリクストン地区で生まれたサウンドとしてなんとなく定義されています。

 

そう、ブリクストンといえば、ジャマイカ系やカリブ系の移民たちが多く住む居住地区。イギリスの旧植民地だったジャマイカ、トリニダード・ドバゴ、バルバドスなどの西インド諸島系移民が、当時衰退していたブリクストンをはじめとする低所得居住地区で独自のコミュニティを築いていった背景がまずあります。ジャマイカ系移民が数多く住んでいたことで、彼らの街には自国の音楽であるスカやレゲエがごく当たり前に日常的に鳴り響いていました。

 

ラヴァーズ・ロックの雛形を作ったキーパーソン

ここで避けては通れないのが、本国のジャマイカで1930年代から起きていたラスタファリ運動です。これはアフリカ回帰主義の一種で、圧政的な政府当局や西洋諸国への抵抗運動でもありました。1970年代初頭になると、レゲエの神様であるシンガーのボブ・マーリーを媒介にして、社会的な思想やスピリチュアル性をも含む多様化したラスタファリ運動が再興隆し、その影響で宗教的な忠誠心を歌った曲や団結を意識した、いわゆるルーツレゲエが量産され、ラブソングは片隅に追いやられていた時代がありました。

 

その一方で、ロンドンのカリブ系移民の間では、ラブソング主体のレゲエが独自のスタイルで育まれていきました。レゲエのソリッドなリズムに、当時ロンドンで流行っていたアメリカのソウルミュージックのエッセンスを取り入れることで、モダンなレゲエ・スタイルへとアップデート。これこそがラヴァーズ・ロックなる音楽の芽生えです。

 

ジャマイカ系イギリス人一世たちが初期のラヴァーズ・ロックの種を撒き、それをベースにしたサウンドを深堀りしていたひとりに、のちに「ラヴァーズ・ロックの父」と呼ばれることになる音楽プロデューサーのデニス・ボーヴェル(バルバドス生まれ)がいます。もとはマトゥンビというバンドでUKレゲエをクリエイトしていた彼は、1977年に盟友のデニス・ハリスとともに音楽レーベル「ラヴァーズ・ロック」を設立し、ブラウン・シュガーの「I’m In Love With A Dreadlocks」をレーベル第1弾作品としてリリースします。

 

その後、ラヴァーズの代名詞的存在にまでなった女性シンガー、ジャネット・ケイ嬢の「Silly Game」のプロデュースを手掛け、本作が英国のシングルチャートで2位を記録する大ヒットを打ち立てます。そうした新たな音楽シーンの流れに呼応して、デニス・ブラウンを筆頭に本国ジャマイカのベテラン・レゲエシンガーたちもラヴァーズ・ロックのスタイルを積極的に自分たちの音楽性に取り込むようになり、ジャマイカでも人気を博していきます。

 

また1980年代に入ると、ダブ・マスターことエンジニアの鬼才マッド・プロフェッサー(南米のガイアナ出身)がレーベル「ARIWA SOUNDS(アリワ・サウンド)」を立ち上げ、ラヴァーズ・ロックやダブ(既存のレゲエ楽曲にディレイやエコーなどのエフェクト音響処理を施したサウンド)を発信していきます。今では日本におけるラヴァーズ・ロックのイメージは、この「ARIWA SOUNDS(アリワ・サウンド)」のサウンドを重ねる人も多く、いわゆる「UKラヴァーズ」として幅広く認知されていくようになります。

 

日本におけるラヴァーズ・ロック

さて、ここ日本ではどうでしょう? ラヴァーズ・ロックは80年代後半になると、ダンスホール・レゲエ(打ち込みを多用したトラックと、即興で語るように歌うトースティングというスタイルが特徴のダンサブルなストリート・レゲエ)の世界的なムーブメントとともに、海外では人気が下火になりますが、日本では独自の進化を遂げていきます。そもそも、ラヴァーズ・ロックは歌謡曲とも親和性が高いことでも知られており、そのことを強く印象づけたのは、音楽プロデューサーの藤原ヒロシが屋敷豪太(元ミュート・ビート、元シンプリー・レッド)とともにプロデュース&アレンジを施した、小泉今日子の「La La La…」(1990年/Spotifyでは未配信)であることは間違いないでしょう。キーパーソンでもある藤原ヒロシは、広瀬香美の「言えない気持ち」(1994年)やいとうせいこうとのユニット、SUBLIMINAL CALMの「メルティング・グリーン」(1992年)など、ラヴァーズ・タッチの楽曲を数多く手がけています。

 

そしてちょっと時代が飛びますが、2000年代に入るとこれまた面白い動きがみられます。マガジンハウスから発行されていたカルチャー雑誌「relax」と、ソニー・ミュージックレーベルズが連動したラヴァーズ・ロックの名コンピレーション盤「RELAXIN’ WITH LOVERS」(2001年)がリリースされます。デニス・ブラウンが設立した「DEBレーベル」のスウィートなレア音源を初CD化し、音楽好きやカルチャー好きの間で大きな話題を呼びました。このシリーズは毎回、レーベルごとにコンパイルする手法でシリーズ化され、前述した「ARIWA SOUNDS」編もリリースされました(本作はビクターからの発売)。

↑ラヴァーズ・ロックの特集が組まれた雑誌「relax」2001年11月号(マガジンハウス)※著者私物

 

↑ラヴァーズ・ロックの名コンピ「RELAXIN’ WITH LOVERS」シリーズの一部 ※著者私物

 

2003年には「RELAXIN’ WITH JAPANESE LOVERS」として、J-POPや歌謡曲の音源をラヴァーズ・ロック的な視点でチョイスし、日本語によるラヴァーズ・ロックや歌謡レゲエに新たな光をあてることになります。そこでとくに印象的だったのが、中島美嘉によるオリジナル・ラブの「接吻」のラヴァーズ仕様のカバー曲(2003年)でした。サウンドメイクでサポートしていたのはロック・ステディバンド、ROCKING TIME の森俊也、日本初のダブバンド、元ミュート・ビートの屋敷豪太と松永孝義、そしてダブミックスは前述したデニス・ボーヴェル。この確信犯的で奇跡のようなカバー楽曲はミュージック・ラヴァーたちの間で注目され、以降、彼女は「雪の華(REGGAE DISCO ROCKERS FLOWER’S MIX)」(2003年)、「Carrot & Whip」(2005年)、「MY SUGAR CAT」(2006年)、「恋しくて」(2006年/BEGINのカバー)、「永遠の詩」(2007年)などのラヴァーズやレゲエタッチのナンバーを連作していきます。もはや自分の中では、中島美嘉嬢はジャパニーズ・ラヴァーズ・ロックの女王として刷り込まれていたりします。

↑中島美嘉「接吻」のアナログ12インチ盤 ※著者私物

 

時代を遡ってみると、クールなラヴァーズ調のアレンジが施された楽曲が、70年代の昭和の時代から日本の音楽シーンで数多く生まれていたのも見逃せないポイントです。その時代にはラヴァーズなる気分用語はなかったはずなのに、そのフレイヴァーを天然に極東の島国で音楽に取り込んでいた先人たちがいたのです。今ではいわゆる「レゲエ歌謡」「和モノレゲエ」とも称される音楽です。この界隈の音楽は長きにわたって続くシティポップ・ブームのおかげもあって、さまざまな埋もれた音源が発掘&再評価されています。

 

でも、そもそもなんで「ロック」なんでしょうか? 音楽的にロック・ステディを指すという一説もあれば、「恋人たちが寄り添いながら甘く語り合う」=「恋人たちがロックする」なるメイク・ラブ的な要素を含むという説も聞いたことがあります。個人的には後者の説に大いに頷いてしまうのですが。

 

最後に、手前味噌ではありますが、前述したコンピレーション盤「RELAXIN’ WITH LOVERS」がスタートするきっかけとなった、雑誌「relax」の2001年11月号に掲載された特集がまさに「ラヴァーズ」なるものでした。前半が実際のラヴァーズ=恋人たちによるファッション特集で、後半がラヴァーズ・ロック特集となっており、前半のいくつかのファッションページ企画で構成&執筆に関わらせていただいたのは、もはや懐かしい思い出です。ちょうど9.11のアメリカ同時多発テロ事件が起きた翌日にシュートされた、久家靖秀さんによるラヴァーズたちの愛あるポートレート撮影。今後の不透明な世界の行く末に不安を感じながらも、「愛だろ、愛」なんて言葉を前向きに噛み締めていたものです。振り返れば、撮影スタジオではレゲエがかかっていたような……。

 

というわけで、今回はメロウすぎるグルーヴがつまったラヴァーズ・ロックやラヴァーズ・タッチの楽曲を、洋楽と邦楽を織り交ぜてセレクトしてみました。「Spotify」アプリをダウンロードすれば有料会員でなくても試聴ができますので、愛にあふれた「ラヴァーズ・ロック」でまったりと、そして涼しげな気分を味わってみてください。

 

【恋人たちも濡れるラヴァーズ・ロック】

1.I Adore You/Sandra Cross サンドラ・クロス(1992年リリース)

 

2.You’ll Never Get To Heaven/Annette B  アネット・B(1989年リリース)

 

3.It’s Gonna Take A Miracle/Tomorrow’s People  トゥモローズ・ピープル(1991年リリース)

 

4.Silly Games/Jane Kay  ジャネット・ケイ(1979年リリース)

 

5.Black Pride/KOFI  コフィ(1987年リリース)

 

6.6-Sixth Street/Louisa Mark  ルイザ・マーク(1981年リリース)

 

7.Silly Wasn’t I/Sharon Forrester  シャロン・フォレスター(1973年リリース)

 

8.Day Dreaming(Hey Baby)/Jocelyn Brown  ジョセリン・ブラウン(1990年リリース)

 

9.Love Come Down/Barry Biggs  バリー・ビグス(1983年リリース)

 

10.Love Has Found Its Way/Dennis Brown  デニス・ブラウン(1982年リリース)

 

11.Since You Came Into My Life/Dennis Brown, Jean Adebambo  デニス・ブラウン、ジェーン・アデヴァンボ(1989年リリース)

 

12.This Is Lovers Rock/Eargasm  イアガスム(1980年リリース)

 

13.You Know How to Make Me Feel Good/Ruddy Thomas, Susan Cadogan
ラディ・トーマス、スーザン・カドガン(1982年リリース)

 

14.Love Me Tonight/Trevor Walters  トレバー・ウォルターズ(1981年リリース)

 

15.Love Me Love You – 12’’ Discomix/Carlton and the shoes  カールトン&ザ・シューズ(1982年リリース)

 

16.With You Boy/Revelation  レヴェレーション(1978年リリース)

 

17.Tradition’s Overture – (Bonus Track)/Tradition  トラディション(1980年リリース)

 

18.Waiting In Vain/Lee Ritenour, Maxi Priest  リー・リトナー、マキシ・プリースト(1993年リリース)

 

19.Make Love To Dub/Mad Professor & Ariwa Artists  マッド・プロフェッサー・アンド・アリワ・アーティスツ(1997年リリース)

 

20.Dub Ballad/Mad Professor and the Mad Men Band  マッド・プロフェッサー・アンド・ザ・マッド・メン・バンド(2000年リリース)

 

21.Lovers Rock/SADE  シャーデー(2000年リリース)

 

22.Through Your Hands Love Can Shine/Giorgio Tuma, Laetitia Sadier  ジョルジオ・トゥマ、レティシア・サディエール(2015年リリース)

 

23.Don’t Cry/SRIRAJAH ROCKERS, Rasmee  シーラチャー・ロッカーズ、ラスミー(2016年リリース)

 

24.Midnight Love Call/南佳孝(1980年リリース)

 

25.トロピカル・ヒーロー/松田聖子(1980年リリース)

 

26.渚でジャバ/上田正樹(1984年リリース)

 

27.CHRISTMAS TIME IN BLUE/佐野元春(1985年リリース)

 

28.メルティング・グリーン/SUBLIMINAL CALM(1992年リリース)

 

29.言えない気持ち/広瀬香美(1994年リリース)

 

30.東京狼少女〜TOKYO LUV STORY/DMX、ピアニカ前田、YOU(1995年リリース)

 

31.PARADISE LOST/坂本龍一(1984年リリース)

 

32.オールドスクール・サーファー/Natsu Summer(2018年リリース)

 

33.かなしいほんと/asuka ando(2016年リリース)

 

34.Love Explosion/DRY & HEAVY(2000年リリース)

 

35.I Wish You Love /川上つよしと彼のムードメイカーズ(2001年リリース)

 

36.エイリアンズ+THE NEW SHOES – Lovers Version/堀込泰行、THE NEW SHOES(2017年リリース)

 

37.Without You/オリジナル・ラヴ(1991年リリース)

 

38.接吻/中島美嘉(2003年リリース)

 

39.Carrot & Whip/中島美嘉(2005年リリース)

 

40.ラビリンス – DUBFORCE Mix/Mondo Grosso(2017年リリース)