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2018/8/24 16:30

この石油ファンヒーター、使ってみたい! 新潟・ダイニチ工業の「動く羽根モデル」に未来を感じる

ダイニチ工業という会社をご存じでしょうか。「よく知らない」「聞いたことがない」……そんな人が多いかもしれません。実はダイニチ工業は、家庭用石油ファンヒーターで11年連続業界シェアNo.1、加湿器で5年連続業界シェアNo.1を獲得しているリーディングカンパニー。新潟県の新潟市に本社を構え、新潟での開発・生産にこだわり、安全性と信頼性を大切にしている実力派の企業なのです。

↑写真中央がダイニチ工業 代表取締役社長の吉井久夫氏、写真左が開発本部 空調機開発部 部長の堀江 淳氏、写真右が営業本部 東日本営業部 部長の中嶋純一氏

 

そのダイニチ工業が、創業以来初となる東京での新製品発表会を開催しました。今年で石油ファンヒーターは誕生してから40年。石油ファンヒーターの良さをもう一度しっかりアピールしたい、そんな想いが、今回の東京での発表会開催につながったそうです。

 

「石油ファンヒーターの市場は成熟していますが、製品はまだまだ成熟しているとは思っておりません」とは、ダイニチ工業代表取締役社長・吉井久夫氏の言葉。石油ファンヒーターはエアコンの普及によって淘汰されていく運命か……と思いきや、「速暖力」「部屋全体を足元から暖める」「加湿効果がある」といったメリットから、まだまだ根強い人気を得ているとのこと。エアコンとの併用も効果的とのことで、実際に、業界全体での石油ファンヒーターの売上は、2015年から右肩上がりに推移しています。

↑ダイニチ工業代表取締役社長・吉井久夫氏

 

「商品や事業は『30年が寿命』とよく言われています。石油ファンヒーターはそこから10年も延びて今年が40年目です。本音では『エアコンに撲滅されるんじゃないか?』という思いでやってましたが、ところが生き延びている。エアコンと共存できるということがわかりまして、それならばもっとアピールをしていこうと。40年経ってもまだ商品開発ができて、さらにいい商品が出てくる。これはやっぱり、大々的に説明会をしないわけにはいかないと思ったわけです」(吉井社長)

 

家庭用石油ファンヒーターその1「SGXタイプ」

動くフラップを含む5枚の羽根が遠くまで効率よく温風を届ける

↑石油ファンヒーターのプレミアムモデル「SGXタイプ」

 

それでは従来モデルより性能がアップしたという今回の新製品をチェックしていきましょう。まず、目玉といえるのが石油ファンヒーターのプレミアムモデル「SGXタイプ」です。本機には、ダイニチ工業として初となる可動式のフラップ3枚を吹き出し口に搭載。2枚の固定ルーバーを加えた5枚の羽根で、温風が上昇しがちな小火力時でも温風を遠くまで届け、足元から部屋全体をムラなく暖めます。

↑フラップの動きが見やすくなるようにカットしたモデル。フラップが閉じた状態(上写真)から外側の三枚のフラップが、内側に倒れこむように可動する(下写真)のがわかります

 

↑2枚の固定ルーバーが上部からの温風を受け止めて前方へ流し、3枚の動くフラップが火力に応じて温風の方向を変えます

 

「ルーバーが動くという試みは他社さんもすでにやっていたのですが、暖房の効率を実際に測ってみますとそれほど効果的ではない……というのがわかりまして。当初は、『それならウチがやることじゃないな』とも思ったのですが、やってみたらどうなるかと。羽根の枚数を増やしたり、奥にもルーバーをもう一個設置したりといろいろな試行錯誤をした結果、非常にいい性能になりました」(吉井社長)

 

ダイニチ史上最高というこの「SGXタイプ」は従来機種と比べ、小火力時で温風の到達距離と床面温度30℃以上のエリア面積がそれぞれ約30%もアップしています。

↑従来の固定ルーバー機(下)との比較。SGXタイプ(上)は動くフラップにより、小火力時でも温風の吹き上がりを抑えて遠くまで温風を届けます

 

細かい工夫の積み重ねで持ち前の「速暖」に磨きをかけた

また、着火時間も40秒から35秒に短縮。「実は、1980年、ウチが最初に作ったのヒーターの着火速度は40秒。長い間、その着火時間は変わっていませんでした。今回、5秒しか縮まっていないですが、ついに35秒に。他社さんだとタイマーで朝、運転を開始する前に予熱して『すぐつきますよ』と言っているところもありますが、我々はゼロの状態からスイッチを入れたら35秒で火がつく。なお、今回は画期的な開発があって5秒縮まったわけではなく、『あそこの鉄板をちょっと薄くできないか』『ここの溶接をどれだけ少なくできるか』といった、本当に細かい工夫の積み重ねで5秒の短縮に成功したんです」(吉井社長)

 

真冬の寒い時期は、一刻も早く身体を温めたいもの。わずか5秒の短縮といえど、ユーザーにとってはありがたいですね。

↑従来機の着火時間をさらに短縮し、35秒のスピード着火を実現。さらに、火力をアップするオートターボ運転で素早く部屋を暖めます

 

このほか、未燃ガスを燃やしきることで、消火時のニオイを従来比で約40%低減。操作しやすく見やすい角度を追求して操作パネルを23.4度に傾け、使用頻度に応じてボタンを配置するなど、操作性も向上させています。このSGXタイプ、温度ムラが少ない、素早く暖まってクサくない、使いやすいとあれば、これはぜひ使ってみたいですね。寒い冬には大活躍しそうなモデルです。

↑操作性と視認性を考慮し、操作パネルには23.4度の傾斜をつけました

 

↑SGXタイプの操作部。運転の入/切や温度設定などの基本操作のボタンは右側に、省エネ、タイマーなどのお好み操作は左側に整理して配置しました。液晶部分にある8段階の油量モニターも同社の大きな特徴です

 

実売価格は税込で「FW-3718SGX」(木造10畳/コンクリート13畳)が3万8700円前後、「FW-4718SGX」(木造12畳/コンクリート17畳)が4万7400円前後、「FW-5718SGX」(木造15畳/コンクリート20畳、40秒着火)が5万3800円前後を想定しています。

↑SGXシリーズのカラバリは左からコズミックブルー、ロイヤルブラウン、クールホワイト

 

【家庭用石油ファンヒーターその2「FZタイプ」】

業務用と同等のパワーと、家庭用の使いやすさを併せ持つモデル

↑ホワイトとブラックのツートンカラーが特徴のFZタイプ

 

石油ファンヒーターではもうひとつ、「FZタイプ」もお披露目されました。こちらは業務用石油ストーブ10kWモデルと同等の出力を誇り、家庭用石油ファンヒーターとしてはNo.1の暖房力となるモデル。木造26畳/コンクリート35畳の広い部屋もハイパワーでしっかり暖めてくれます。実は、わざわざ業務用石油ストーブを購入して家庭で利用するケースも多いようで、それが今回の業務用と同等のパワーを持った石油ファンヒーター開発のきっかけとなったそう。

↑事務所や店舗などでの使用を想定した業務用のFMタイプを発売したところ、意外にも35%が一般家庭で使われていたことが判明。この事実が、FZタイプの開発のきっかけとなりました

 

ストーブ型ではなくファンヒーター型なので壁際に設置でき、場所を選ばないのも長所。さらに給油もカートリッジタンク式で、石油ストーブと違い室外での給油が可能です。デザインは、ホワイトとブラックのツートンカラーでインテリアになじむ配色。実売価格は税込7万7600円前後を想定しています。

↑業務用のFMタイプ(左)は、四方に送風するため部屋の中央寄りに配置するほかなく、給油はその場で行う必要がありました。それに対し、今回発売するFZタイプ(右)は、送風が1方向なので壁際に設置でき、給油はタンクを取り外して別の場所で行えるのがメリットです

 

【加湿器「RXシリーズ」】

静音性などの特徴に加え、Ag+抗菌アタッチメントで清潔性をアップ

↑加湿器の「RXシリーズ」は、インテリアに溶け込むデザインも特徴

 

ダイニチ工業が2003年に発売を開始した加湿器は、同社の新たな柱となっている分野。同社はエアコンが拍車をかける冬場の室内乾燥を抑えるという意味でも、ニーズが高まってきているといいます。

 

今回の新製品「RXシリーズ」(温風気化・気化のハイブリッド式)は、従来機からの静音性や国内生産・3年保証などの特徴を踏襲しつつ、レジオネラ菌をはじめとした抗菌対策を念頭に置き、より一層の清潔性が図られたのがポイント。空気取込口・トレイ・気化フィルターに抗菌加工を施した従来の「トリプル除菌」に加え、もうひとつの水の通り道であるタンクのキャップに着目。キャップに「Ag+抗菌アタッチメント」を取り付けることで抗菌成分の銀イオンが水中に溶け出し、タンク内の雑菌の繁殖を抑えます。

↑風の経路などを改良したRXシリーズは静音性が大きな特徴。「運転していないのかと確認するほど静か」「寝室用として大満足」とのユーザーの声が寄せられるそうです

 

↑タンクのフタの青い部分がAg+抗菌アタッチメント。抗菌成分が水に溶け出し、水のヌメリやニオイを抑制します。先述のレジオネラ菌への抗菌効果も確認されました

 

RXシリーズ4機種は、「HD-RX318」(木造和室5畳/プレハブ洋室8畳)が1万9300円前後、「HD-RX518」(木造和室8.5畳/プレハブ洋室14畳)が2万2500円前後、「HD-RX718」(木造和室12畳/プレハブ洋室19畳)が2万5800円前後、「HD-RX918」(木造和室14.5畳/プレハブ洋室24畳)が3万0100円前後の実売価格を想定。

↑RXシリーズのカラバリは、左からプレミアムブラウン、クリスタルホワイト、シェルピンク、ネイビーブルー

 

さらに業務用の「HDシリーズ パワフルモデル」には「抗菌操作プレート」を搭載。毎日触れる操作プレート表面の雑菌の繁殖を抑えて清潔さを維持します。「HD-153」(木造和室25畳/プレハブ洋室42畳)は5万1700円前後、「HD-183」(木造和室30畳/プレハブ洋室50畳)は5万7100円前後、「HD-243」(木造和室40畳/プレハブ洋室67畳)は6万5700円前後の実売価格を想定しています。

↑HDシリーズ〔パワフルモデル〕

 

SGXタイプはもちろん、FZタイプも市場を拡大する可能性がある

最後に、吉井久夫社長にお話をうかがいました。初めて発表会をするだけあって、今回のSGXタイプは社運を賭けたモデルだったのでは?……と水を向けてみると、「ぜんぜん! 社運なんか賭けてないよ!! ダメなときはダメですし(笑)。とはいえ、製品に自信はある。受注もけっこうあるんですよ。ただ、それもまだ流通側が反応してるだけで、バイヤーさんは『いいじゃない!』とは言ってくれているんですけど。実売につながるかはフタを開けてみないとわからない」

↑記者の質問に対し、ざっくばらんに答える吉井社長

 

吉井社長は、フラッグシップのSGXタイプだけではなく、大型モデルのFZタイプにも大きな期待をかけているそう。

 

「FZタイプも評判が良くて。いままで、家庭用ファンヒーターは7kW台が上限でしたが、FZの10kWというパワーは、ひょっとしたら新しい商品として受け入れられるかも。2017年にも加湿器の大きいモデルを出して、『あんな大きいもの、どこで使ってるんだ?』と思っていたら、一般の家庭でも使っているんですよ、意外と。部屋が広いと、そうそう湿度は上がらないですから。それと同様、FZも新しいマーケットを作ってくれたら。これは期待したいですね」

 

今回の発表会を通して、ダイニチ工業とは小手先ではない、まじめな開発を行っている会社なんだな……とのイメージが伝わってきました。特に、動く羽根で遠くまで温風を届けるGXタイプと、家庭用で最大のパワーを誇るFZタイプ。その性能によって、ダイニチ工業は「石油ファンヒーターはまだまだこれからだ!」と雄弁に語っているようです。有名メーカーを押さえてトップシェアを握る加湿器も然り。静音性・国内生産という優位性に安住せず、抗菌対策を強化した点、顧客の要望にひとつひとつ丁寧に応えている様子が見てとれました。今年の冬は、そんなまじめな会社が作った製品、みなさんも大いに注目してみてはいかがでしょう。

撮影/我妻慶一