ボールペンのインクは、「油性・ゲル・水性」の3種類に大別される。文房具好きなら、この区分はお馴染みだろう。発色を司る着色剤(顔料または染料)を、どの溶剤で溶いてインクにするか、による分類だ。油性インクは有機溶剤を、ゲルインクと水性インクは水を溶剤として使用する。ゲルインクにはゲル化剤が添加され、粘度が高められているため、厳密には水性インクの一種に分類される。
これら3種のインクには、それぞれメリットとデメリットがあり、一概にどれが最良とは言えない。しかし、文房具業界にはトレンドが存在し、ここ10年はゲルインクが主流だった。
その流れが変わりつつある。2024年には進化した油性インクの新製品が相次ぎ登場し、話題を集めた。そして2025年は、水性インクが注目されるかもしれない。
この記事でわかること
新しい水性ボールペン、どのモデルを選ぶ?
水性ボールペンは、サラリとした書き味と鮮やかな発色が特徴。しかし、にじみやすさ、裏抜け、乾燥の遅さ、耐水性の低さといったデメリットから、一般的な人気は伸び悩んでいた。

そんななか、2025年2月に三菱鉛筆から発売された「ユニボール ゼント」は、従来の水性インクの課題をほぼ克服し、快適な書き心地を実現。さらに、新型水性インクを搭載するため、3つの価格帯で4タイプのボディが用意されている。
特に筆者が注目しているのは、高価格帯の「シグニチャーモデル」と、普及価格帯の「ベーシックモデル」だ。
三菱鉛筆
uniball ZENTO(ユニボール ゼント) 0.5mm/0.38mm
(左から)シグニチャーモデル 3000円/フローモデル 1000円/スタンダードモデル 250円/ベーシックモデル 3色 各250円(すべて税別)
・「シグニチャーモデル」は、高級感と書き味を両立
シグニチャーモデルは、ラインナップ中唯一のキャップ式。一見ショート軸だが、マグネットキャップを外し、万年筆のように軸後端に装着すると、バランスよく持てる設計になっている。

そもそも水性ボールペンは筆圧をほとんど必要とせず、万年筆に近い書き味。キャップ装着によって重心位置を軸中央に置き、力を抜いてペン先をゆったり動かせるように設計しているのも、それをイメージしているのだろう。前側を握ってカリカリッと早書きをするのは向いていない。

約22gの重量感があり、毛細管現象でスムーズにインクが流れる。この落ち着いた書き心地は、「水性ボールペンの象徴(signature)」というモデル名にふさわしい。
・「ベーシックモデル」はシンプルな使いやすさがメリット
ベーシックモデルは、新開発の「ZENTOインク」の書き味をシンプルに楽しめる仕様。外観は同社のゲルボールペン「ユニボール ワン」に似ているが、細部に違いがあり、リフィルの互換性もある。

コーン(ペン先の三角錐)と前軸の段差がなくフラットなこと、ノックパーツの軸系が約1mmほど太いこと、ワイヤークリップのベースの形状、そしてノックパーツ基部が少し盛り上がっている点が異なる。そのほかはほぼ同じで、実はリフィルすら入れ替えが可能だ。

つまり、すでに「ユニボール ワン」で評価されている軸には今さら文句の付けどころがなく、あとはシンプルに水性インクの書き味に没頭できるというわけだ。

インク色に応じた黒・赤・青の3色の軸が用意されており、複数の色を使い分けたい人には便利。シンプルなデザインと手頃な価格で、水性ボールペンの魅力を気軽に味わえる。
水性ボールペンの新たなファンを開拓しそうなZENTOインク
「ユニボール ゼント」に採用された新開発のZENTOインクは、従来の水性インクとは異なるアプローチを取る。
なめらかさを成分で解決
従来の水性ボールペンは、なめらかさを確保するためにインクフローを多くし、その結果、にじみやこすれによる汚れ、裏抜けが発生しやすかった。そこでZENTOインクは、なめらかさを“インクフローの量”に頼らない、という方針をとっている。

POA界面活性剤(シャンプーや洗剤などの成分に近いもの)を配合し、紙とペン先の間でクッションの役割を果たすことで、摩擦を軽減。また、着色剤を引き寄せる「引き寄せ粒子」により、にじみや裏抜けを抑え、シャープな描線を実現している。

書いてみると、なるほどたしかに、水性ボールペンのように筆跡が濡れてツヤツヤしていない。書き味は、一般的なゲルボールペンに近いフロー量ながら、水性ボールペン特有の滑らかさを維持。この絶妙なバランスによって、誰でも快適な書き心地を得られるだろう。
にじみにくさの進化
さらに、従来の水性インクと比較すると、にじみにくさが格段に向上。そもそも水性インクは、紙に浸透しやすいためににじみやすい。
ZENTOインクには“引き寄せ粒子”なるものが配合されており、これがインクの着色剤を互いに引き寄せ合うことで、にじみや裏抜けを抑制しているという。たしかに吸水性の高い紙や紙ナプキンでも、インクが広がりにくく、線が太って見える現象が抑えられているようだ。

リフィル交換で長く使える
ボール径は、ローンチ時点で0.5mmと0.38mmの2種類がラインナップされており、基本的な書き味の方向性は同じだが、0.5mmの方がフローが多く、よりなめらかな書き味を楽しめる。一方、0.38mmでも十分にサラッとした筆記感を得られる。
線幅の好みに応じて選ぶのがベストだが、可能であれば店頭で試し書きをするか、別売のリフィルを購入して自宅でじっくり比較するのもおすすめだ。

まとめ
「ユニボール ゼント」は、従来の水性ボールペンの課題を克服し、書き心地と実用性を両立したモデルだ。シグニチャーモデルは高級感と筆記バランスを求める人向け、ベーシックモデルはシンプルに水性インクを楽しみたい人に最適。
ZENTOインクの新たな書き味は、水性ボールペンを敬遠していた人にも響くはず。2025年、水性ボールペントレンドの幕が開くかもしれない。