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2020/7/10 19:00

水性ボールペンにようやく脚光!? 油性やゲルにない書き味のパイロット「Vコーンノック」

ボールペンのインクは、ざっくりと「油性」「水性」「ゲル」の3つに分類される、ということはご存知だろうか?(実は、厳密にはゲルも水性インクに含まれるのだが、ここではあえて別に分類しておく。)

 

ただ現状では、なめらかな低粘度油性インクを擁する「油性」派と、若年層に人気でサラサラとした書き味の「ゲル」派に人気が二分されているのが実情。「水性」は人気がない……というか、一般的には認知している人の方が少ないのではないかというほど落ち込んでいるのである。

 

もちろん、それには理由がある。まず、液体状の水性インクは乾燥に弱いため、キャップ式にならざるをえないというのは大きい。日本人はノック式が大好きなので、キャップ式というだけで避けられてしまうのだ。また、インクがだくだくと出るため、紙によっては染みてにじんだり裏抜けしたり、というのも避けられがちな要因のひとつだろう。

 

しかし、だ。水性ボールペン、そういうことで嫌っちゃうにはもったいないように思うのだ。まず、インク粘度が低いため、筆記中のかすれがほぼゼロなのは魅力だ。ペン先が紙に触れている限り、インクは紙に出続けるため、走り書きなどをする場合は最強の確実性を発揮する。

 

だくだくとインクが出るというのも、欠点になる反面、筆圧をかけなくともサラサラと書ける、気持ちの良い書き味につながっていると言える。この書き味の特殊性は、もはや官能的ともいえるほどで、実のところ、水性ボールペンしか愛せないという熱烈な水性信者も存在するほどだ。

 

そこで今回は、うっとりする書き心地を持つ水性ボールペンの新作を紹介しようと思う。

 

名筆「Vコーン」の流れを汲むノック式水性ボールペン「Vコーンノック」

水性ボールペンのなかでも、特に最高傑作と名高いのが、パイロット「Vコーン」。液体インクがダイレクトに封入された直液式で、たっぷり過ぎるインクフローは、水性ボールペンの魅力を堪能するのにベストな1本と言える。

 

とはいえ、構造的にキャップ式なのはいかんともしがたく、今や知る人ぞ知るボールペン、的な地位に甘んじているのは残念だ。

 

そこで、その現状を覆すべく発売されたのが、なんとノック式構造に生まれ変わった最新作「Vコーンノック」である。

パイロット
Vコーンノック
(0.5・0.7㎜ 黒・青・赤)
各150円(税別)

 

Vコーンの名を冠するからには、当然のようにリフィルは直液式。たっぷりと充填された濃く鮮やかなインクが、ペン先から嬉しいほどにだくだくと紙へと供給される。どれほど早書きしようが、かすれやスキップが起きることが想像できないつゆだくっぷりだ。

 

もちろん、紙によっては当たり前ににじむし、描線もボール径からすれば太くなる。だが、そんなのは水面をすべるが如きサラサラサラァァァァ……という爽快な書き味の前には、「だからなに?」って感じ。にじむのが嫌なら、油性でもゲルでも使ってればいいじゃん、という話なのだ。

↑サラサラとしたインクがたっぷりと紙に染み込んで書ける感じは、ゲルや油性にはない気持ちよさだ
↑サラサラとしたインクがたっぷりと紙に染み込んで書ける感じは、ゲルや油性にはない気持ちよさだ

 

この書き味がワンノックで味わえるというのが、Vコーンノックの最大のポイント。内蔵したバネでボールを押し上げることで、先端にフタをして非筆記時の乾燥を防ぐ構造で、ノック式でもドライアップしない水性ボールペンを実現しているのだ。

 

ちなみに、見た目が同社の「フリクションボールノック」によく似ているため、筆者は最初、うっかりクリップ部を押しそうになってしまった。ノックノブは軸後端にあるので、お間違いなく。

↑こちらが元となった、キャップ式のVコーン。約30年前に発売されて以降、いまだに固定ファンが離れない魅力を持つ水性ボールペンだ
↑こちらが元となった、キャップ式のVコーン。約30年前に発売されて以降、いまだに固定ファンが離れない魅力を持つ水性ボールペンだ

 

インクも、Vコーンとは異なる、ノック式専用に開発されたものとなっている。

 

実はVコーンは、水性染料インクながら、一度乾くと強固な耐水性を持っていた。だが、Vコーンノックは「うーん、水性染料だからこんなもんだよね」レベルで水濡れに弱い。Vコーンの耐水性は大きなポイントだっただけに、そこはちょっと残念なところだ。

↑Vコーンとノックの筆跡に水を垂らした比較。おなじ水性染料インクながら、確実に別ものということは分かる
↑Vコーンとノックの筆跡に水を垂らした比較。おなじ水性染料インクながら、確実に別ものということは分かる

 

……と、ここまで読んで「ノック式のVコーンでインクに耐水性がないペンって、今までになかった?」と気づいた人がいただろうか? いたとしたら、かなりの水性マニアだろう。

 

そう、あったのだ。最初の方で水性ボールペンの最新作なんて書いたけど、実はこのVコーンノック、2008年に発売されたノック式水性ボールペン「VボールRT」のリニューアル版なのである。

↑2008年に発売されていた“ノック式Vコーン”こと、「VボールRT」(写真左)。リフィルは新しいVコーンノックと共通だ
↑2008年に発売されていた“ノック式Vコーン”こと、「VボールRT」(写真左)。リフィルは新しいVコーンノックと共通だ

 

分解してみると、上の写真のようにリフィルも「LVKRF-10」となっており、VボールRTと同型。つまり、見た目と名前を変えただけ、ということになる。

 

VボールRTは、日本初のノック式水性ボールペンとして発売されたのだが、折悪いことにその頃のボールペン業界は、「ジェットストリーム」と「フリクションボール」が大ブームとなっていたのだ。

 

結局のところ、低粘度油性インクと消せるゲルインクの快進撃に巻き込まれるかたちで、VボールRTは認知されないまま存在感を薄くしていった……という感じだろうか。なんともタイミングの悪いことである。

 

ひるがえって2020年。いまや、低粘度油性インクもフリクションインクもすっかり一般化し、それに合わせてユーザーの筆記具リテラシーも大きく上がった。水性ボールペンを改めて再評価する下地もできてきたように思う。そこでパイロットも「今こそVボールRT(改めVコーンノック)にもう一度チャンスを!」と判断をしたのではないか。

 

12年前に発売されたものとはいえ、油性やゲルに慣れきった手には、かなり斬新な書き味が体験できるはずだ。速乾性や耐水性ではかなわないが、水性ならではの早書きへの追随性といったメリットもある。

 

とくに「今まで水性ボールペンって使ったことないわ」という人には、新たな選択肢として試してみてもらいたい。だくだくとインクが染みるあの感じにハマる可能性、それなりにありそうだぞ。

 

 

「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
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