ボールペンを選ぶ際の基準に基準にする点はさまざまあるが、手帳へ小さな字を書き込む機会が多いのであれば、“超極細字”が書ける0.3mm以下のボール径が便利だ。
小さな字も潰れにくいので可読性が高いし、狭い面積に密度を高く情報が書き込めるのは、超極細字ならではと言えるだろう。なにしろ“ボール径0.3mm”といえば、筆記線の幅は0.15~0.2mm程度。0.5mm径の線幅が0.3mm台なので、ほぼ倍は違うことになる。
最近はシステム手帳界隈でも、名刺より一回り大きいくらいの“M5サイズ”が人気。小さな紙面に太いペンでは、とても書いていられないのだ。
もうひとつ、字が汚い人でも丁寧な文字を書きやすい、というメリットもある。
近年のボールペンは、書き味の良さを高めるために、全体的になめらか筆記優先のチューニングがされている。しかし、悪筆の人間にとってなめらか過ぎるペンは制御しにくく、ついつい雑な走り書きになりがち。
0.4-0.3mm以下のボール径は、細い分だけペン先が紙にカリッとひっかかりやすいが、その抵抗感がほど良いコントロール性を生むことがあるのだ(壮絶な悪筆でお馴染みの筆者は、0.38mmを愛用)。もちろん悪筆の原因はいくつもあるので、一概に「細字ならOK!」とも言えないが、字の汚さに悩んでいるなら、試してみる価値はあると思う。
ということで今回は、今のところ市場で最も細い「ボール径0.3mm以下」の製品を書き比べてみたい。
0.3mm以下の超極細ノック式ボールペンで、一番細い線が書けるのはどれだ?
今回は、筆者の使用頻度が高いというシンプルな理由で、ノック式に限定。ノック式、かつ0.3mm以下で、現時点で市場入手可能なものといえば、だいたいこの7本になるだろう。
【ゲルインク】
・ゼブラ「サラサクリップ 0.3」100円
・パイロット「ジュース アップ 03(0.3)」200円
・ぺんてる「エナージェル 0.3」200円
・三菱鉛筆「シグノ RT1 0.28mm」150円
※写真左から。すべて税別
【低粘度油性インク】
・OHTO「スリムライン 0.3mm」500円
・パイロット「アクロボール Tシリーズ 03(0.3mm)」150円
・三菱鉛筆「ジェットストリーム エッジ(0.28mm)」1000円
※写真左から。すべて税別
実のところ、従来の油性インクは粘度の高さなどが問題で、ボール径を小さくするのが技術的に難しい。そのため、細い字が書けるボールペンといえば、長らくゲルインクの独壇場だったのだ。
キャップ式であれば、現在ゲルの最細は「ハイテックC 0.25」(パイロット)。過去には「シグノビット0.18」(三菱鉛筆)なんていうものもあった。
油性では、手帳用ボールペンとして「スリムライン0.3」が以前からあったが、2019年に三菱鉛筆が低粘度油性で世界最細径となる「ジェットストリーム エッジ 0.28」(以下、エッジ0.28)を発売。ライバルであるパイロットも、2020年末には「アクロボール0.3」を発売し、ようやく油性でも超極細を選んで使えるという時代が到来した、という流れである。
滲み・かすれはどうか?
前置きはここまでとして、まずは実際に細さを体感するため、シンプルに直線を引いてみよう。
ここで感じるのは、油性グループの線の細さだ。水性インクの一種であるゲルは、どうしても紙に染み込むため、その滲み分だけ線がわずかに太る傾向がある。対して油性はその滲みが少ないため、こういった差が出てしまうわけだ。
なかでも圧倒的細さを誇るのが、スリムラインである。今回の7製品の中ではダントツに細い!
店頭でもあまり見かけない製品だけに、実は筆者もあまり意識して触ったことがなかったのだが、「こんなに細かったっけ!?」と驚かされた。OHTOお得意のニードルポイントはペン先周辺の見通しも良く、ついつい、どこまで小さい字が書けるか? 的なトライアルをしたくなるヤツ。ただし、けっこう頻繁にかすれが発生してしまうのは、気になった。
逆に「ちょっと太いな?」と思ったのはサラサで、続いてエナージェルあたり。
もちろん線幅で0.1~0.2mm台というミクロな世界での話なので、比較用に併せた0.5mm径の線と比べれば、どれでも充分に「細い!」という感じなのだが。
正直言えば、米粒に般若心経を書くのでもない限り、大した差じゃない。どれを使っても、方眼1マスに10文字以上書き込める性能はあるのだから。……ここまで書いておいて急にハシゴを外すな! という話だが、だってどれも問題なく細いのだ。
だから、それよりも気になるのは“書き味の差”なのである。
書きやすい超極細字は、カリカリとなめらかのバランスがポイント
そもそも0.3mm径以下の極細字というのは、それだけでボールペンにとって非常にハードな環境だ。ボールが小さい分だけ、わずかにペン先の角度が変わるだけで書けなくなったりするし、紙の粉(繊維)が詰まるようなトラブルも、一般的な0.5mm径と比べると発生しやすい。
そういったハードモードで、なおかつ書きやすいものこそが、優れた超極細字だと思うのだ。
あくまでも筆者の体感ではあるが、飛び抜けて「書きやすい!」と感じたのが、ジュース アップだ。
超極細字の問題の一つに、細いパイプを通すことでインクフローが不十分になり、かすれや引っかかりが発生する、というものがある。しかし、ジュース アップのペン先(シナジーチップ)は、極細でも充分なインクフローが得られる。これはかなり大きなアドバンテージで、0.3mm径とは信じられないような快適さ。
ゲルの超極細字としては引っかかりも少なく、なめらかさの方に振られたチューニングは、万人受けしそうな印象だ。
また、シグノRT1は先端のカドを削ったエッジレスチップの効能か、角度の変化にやたら強い。他社の製品では筆記不能になるほど寝かせた状態でも普通に書けてしまうのは、なかなか面白い。筆記感はややカリカリ感強めで、個人的には好きなタイプだ。
油性に関しては、個人的にはアクロボールの筆記角の狭さが少し気になった。ペンの“最適筆記角”と言われる60°で書いていれば、何の問題もなくなめらかなのだが、これを傾けて50°をきったあたりから、いきなりガリガリと強く引っかかり、筆記不能になる。
このリニア過ぎる書き味は、もしかしたら、合う人と合わない人がパッキリと分かれるタイプなのかもしれない。
対して、エッジはかなりオールマイティ。カリカリとなめらかさのバランス、筆記可能角度の広さともにクオリティの高さを感じた。超極細の不快な要素(引っかかり・かすれ・トラブルの発生率)を極力減らすことに注力して作られているようなイメージだ。
今回準備した中で唯一の1000円超えだし、価格分の良さはあるのかな? と一瞬思ったが、冷静に考えればエッジもリフィルだけなら税込220円とお安いもの。となれば、シンプルに「お得」という結論しかないかもしれない。
超極細ボールペン選びの注意点
ただ実際問題として、例えば同じジェットストリームでも、0.5mm径と0.28mm径では筆記感が大きく違う。そのため、「書き慣れた0.5mmと同じペンで、細いヤツを買う」という選び方をすると、なんとなくしっくりこない感じを引きずることもありそうだ。
超極細ボールペンはあくまでも別物の筆記具と考えて、ゼロベースで試筆をして選ぶのが良いと思う。
「きだてたく文房具レビュー」 バックナンバー
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