【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】
文房具をこよなく愛す、放送作家の古川耕氏による連載。「手書き」をテーマとし、デジタル時代の今だからこそ見直される“手書きツール”を、1点ずつピックアップしている。第12回となる今回は?
第12話
三菱鉛筆
ジェットストリーム スタンダード
165円(税込)
2006年に登場し、「低粘度油性ボールペン」というジャンルを生み出したエポックメイキングなペン。“クセになる、なめらかな書き味”がコンセプトで、従来の油性ボールペンよりも摩擦係数が最大50%軽減された「ジェットストリームインク」を搭載している。くっきり濃く書け、乾きが速いのも特徴だ。
筆記具は、書き手と共に“在る”ことを求められている
ペン先のボールが回転している感じがきちんと伝わってくるのがいいなと、初めて使ったときからずっと思っていました。三菱鉛筆の「ジェットストリーム」。
この感触は案外ほかでは味わえないもので、例えるなら「ギアの軽いロードバイクで軽快に飛ばしている感じ」とでもいいましょうか。ホバーのように地表から浮き上がるのではなく、「地面(=紙面)」をしっかりと噛む、そのかすかな手応えと感触をあえて残しているような気がします。
これまで当連載でずっと考えてきましたが、あらためて「良い筆記具」とは、いったいどういうものでしょうか? そもそも道具とは、己の内にある思考やイメージを外部に出力するためのものです。そんなバイパスを介さずに脳から直接出せればいいのに……と、もどかしく思うときもありますが、いまの技術でそれは不可能ですし、むしろ「道具」と格闘しているうち(それは「言葉」も含みます)、当人も思っていなかったような高みにまで連れて行ってくれることさえあります。つまり道具とは、使い手を拡張・変容させ得る動的な触媒であり、ならば目指すべきは、存在を透明化することではなく、「心地良く共に“在る”こと」。
2006年の発売以後、最高峰のボールペンであり続けるジェットストリームは、単に滑らかだからすごいのではなく、低粘度インクで「透明」になりすぎないよう、踏みとどまったところに、そのすごみと最大の発見があったのです。
【文房具愛好家・古川耕の手書きをめぐる冒険】バックナンバー
【第1話~第10話】https://getnavi.jp/tag/furukawakoh-handwriting/
【第11話】書き味はペンと紙の組み合わせ次第! コクヨ「ペルパネプ」で「手書き」の妙味を体感できる
https://getnavi.jp/stationery/626085/