クレヨンの12色セットといえば、白・黄・黄緑・緑・水・青・赤・橙・うす橙・茶・灰・黒が一般的。それが色鉛筆の場合は、白色の代わりに紫色、灰色の代わりに桃色が入っていたりするのだが、それにしてもだいたいどのメーカーも同じような構成で、これらの色が“基本12色”なんて呼ばれ方をしているわけだ。
美術教育界隈だと、「この12色が本当に子どもが絵を描くのに必要な基本色なのか?」みたいな議論もあるらしいんが、うーん、最低限のセットでそういう話をしてもあんまり意味はないんじゃないかしら。そもそも、混色できない画材を12色だけ使って自然を写生するなんてのが不可能なわけで。
ただ、だからといって「海だから水色か青色でガーッと塗っちゃえ!」が正しい、というわけでもないだろう。だって実際の海の色は複雑怪奇で、波頭の白から深海の黒まで無限のグラデーションがあったりするし。もっと言えば、黄色の海や赤い海なんてのも、地球上にはあったりするのだ。
“宇宙から見た海の色”を詰め合わせたクレヨン
そんな“海の色”を12色セットにしたのが、名前もそのままに「海のクレヨン」である。
で、この12色というのが、なんと人工衛星から見た地球上の海の色をピックアップした色。「えっ、こんな海の色ある?」と驚くような色もあるが、しかしすべて本当に、地球のどこかにある海の色なのだ。
スカパーJSAT
海のクレヨン
2200円(税別)
このクレヨンは、CS/BS放送の「スカパー!」を展開する民間衛星通信会社スカパーJSATが、衛星画像を活用したプロジェクトのひとつとして、クラウドファンディングで立ち上げられたものだ。
すでにファンドは昨年中に成立しており、現在は一般販売もスタートしている。
ユニークなのは、それぞれのクレヨンに“色名が書かれていない”というところ。というか、従来のクレヨンっぽく言えば、12本全部「うみ色」なんて表現になってしまうだろうし。
ではどうやって区分しているかというと、巻紙にある6~8桁×6~8桁の数字。実はこれが、クレヨンの色をピックアップした海の緯度/経度を表しているのだ。うーん、これは洒落ててカッコイイ。
例えば「17.31582 -87.53469」色は、カリブ海のベリーズ珊瑚礁で「グレート・ブルーホール」と呼ばれる、海にぽっかりあいた穴の色だ。珊瑚礁の一部が何らかの理由で陥没してできた穴だが、この穴の深いところには光が届かず酸素もない層がある。つまり生物が生息できないことで水が濁らず、濃い青色に見えるという仕組み。
クレヨンだけを見れば「へー、暗めの青だね」ぐらいで終わる話なんだけど、衛星画像を確認したら「えっ、海の中にこんな穴があるの?」という驚きがあって、さらに紐解けば、この青さにもちゃんと理由がある。「へー!」の連発で、正直、大人でもめちゃくちゃ興奮する面白さだ。
海っぽくないNo.1の赤い「46.13594 33.91955」色は、いま話題のウクライナにある、腐海と呼ばれる干潟の色である。ここは非常に浅いため、海水の循環が少ない。なので夏になると水温が上昇しやすく、藻が異常繁殖してβカロチン(ニンジンなどの赤さの素)を生成するので、海水がこんな赤い色になるらしい。へー!
ちなみにこの腐海に接するクリミア半島(先だってロシアに併合された、元ウクライナ領)は、ここで取れるピンク色の塩が名産品だ。
他にも、「島の中央が水没して外縁部だけがぐるりと残ったキリバス・カントン島のエメラルドブルー」とか「鉱物が混じった水が流れ込んで化学変化を起こした台湾・陰陽海の黄色」といった、面白い海の色がいっぱい。
こうやって1本1本をGoogle Earthで見ていくだけでも、時間がすごい勢いで溶けていくし、QRコードから飛べる解説まで読み出すと、もうほんと止まらないのだ。
また、解説がまだ読めない子どもさんのためには、俳優の濱田岳さんによる音声ガイダンスがあるのも素晴らしい。
これは親子で「海の色ってなに色だろう?」みたいな話をしながら楽しむのもいいし、大人同士でも気の利いたプレゼントになりそう。正直なところ、お絵描き用としては色が偏りすぎてるから、画材としての実用性はほぼなさそうなんだけれども。
「海のクレヨン」は文房具総選挙2022で大賞受賞!
https://getnavi.jp/stationery/743952/