ドライブに必要なものってなんでしょうか。きれいな景色、盛り上がる会話も大事ですが、音楽も欠かせないですよね。デートドライブ中の雰囲気を盛り上げてくれるアシストとして必須ですし、ソロドライブなら好きな曲だけを大ボリュームで流し続けての1人カラオケ状態も楽しいものです。昔なつかしの曲で青春時代に思いを馳せながらのドライブもいいですよね。
では、その音楽の担い手たるアーティストやプロデューサーは、プライベートではどのように音や音楽と接しているのでしょうか。また、クルマと音楽の相性についてどのように捉えているのでしょうか。オーディオマニアでもあるシンガーソングライター兼音楽プロデューサーの寺岡呼人さんがゲストを向かえて「クルマと音楽」について語り合う同シリーズ、初回は最前線で音を紡ぎ続けているKANさんをゲストにお届けします!
【KAN】
1962年9月24日生。1987年にレコードデビュー。2002年春からフランス・パリに移住し、【Ecole Normale de Musique de Paris】に留学。2004年夏の帰国後は、バンド・弾き語り・弦楽四重奏やオーケストラとの共演など、様々なスタイルでの活動を展開中。好きな食べものは生牡蠣。www.kimuraKAN.com
<LIVE>
【弾き語りばったり #23 三歩進んで何故戻る?】
ピアノ1台だけの単身弾き語りツアー。2018年3月より全国23都道府県で30公演開催中。
<CD+DVD>
YAMA-KAN
【Take me Follow me/記憶にございません/手をつなぎたいんだ】
KAN×山崎まさよしによる書き下ろし3曲入りのCD+DVD。とっくにやってそうで実は一度もやってなかった初の共同制作楽曲。すべての楽器を二人でレコーディングしています。
2018年3月発売/2000円+税/TRJC-1080/発売元:TOWER RECORDS LABEL
<CD> Take me Follow me/記憶にございません/手をつなぎたいんだ
<DVD> YAMA-KAN Recording Documentary
<LIVE DVD>
BAND LIVE TOUR 2016【ロック☆ご自由に♪】
東京・豊洲PITでの最終公演を全曲収録したものの、【芸能生活29周年記念 特別感謝活動年】で多忙を極めたため放置状態にあったライブ映像を、新たな気持で丁寧にEdit & Mixして、忘れたころに新発売! Audio Commentaryでは、副音声家・根本要氏とKANによる爆笑ライブ解説【KANと要のDame-Dashiナイト】をお楽しみいただけます。
DVD 2枚組、全21曲、約154分/2018年2月発売/6000円+税/製品番号:EPBE-5563~4/発売元:UP-FRONT WORKS inc. / zetima
【寺岡呼人】
シンガーソングライター兼音楽プロデューサー。1988年、JUN SKY WALKER(S)に加入。1993年にソロデビューし、1997年にはゆずのプロデュースを手がけるようになる。ライブイベント Golden Circleを主催し、FM COCOLOの番組「CIRCLE OF MUSIC」で、さまざまな音楽とアーティストをナビゲートしている。筋金入りのオーディオマニアであり、カーマニアでもある。http://www.yohito.com/
カーオーディオで鳴らす音がひとつの基準に
寺岡 KANさんは1台のクルマ(ボルボ240)にずっと乗り続けているんですよね。今現在の走行距離ってどれくらいですか?
KAN 30万5000km台ですね。年数としては25年になります。
寺岡 すごいですよねぇ。僕も昔同じクルマに乗っていたのですが、17万kmまではいったけどガタがきちゃいまして。
KAN しょっちゅう修理に出しているし、すごくお金かかってますよ。去年なんてドアのヒンジが折れちゃったので、ドアごと交換したから。部品はもうないし中古で探すしかなくて。で、見つかったのはいいけど色が違った。僕としては問題なかったんだけど、ディーラーさんが「それはいくらなんでも!」てことで、塗られました。
寺岡 ずっと乗り続けているというのは、やはり愛着があるからですか?
KAN ですね。それまでクルマを持つという考えがなかったんだけど、92年頃に会社の勧めでクルマを買うことになって、どんなのがいいか街を走るクルマを見ていたんですが、いいなぁと思うものはどれも古いクルマだったんですよ。維持が大変だよと言われていまのクルマにしたんだけど、うちのクルマはいま、やっとクラシックカーになり始めましたね。だから、ここからです(笑)。本当にどうやっても乗れなくなるまで乗りますよ。
寺岡 クルマを買ってからドライブが好きになったとか、変化はありましたか?
KAN 基本的には生活の足なんです。ただ、音楽を聴くにはいい場所だよね。遠慮なく大きなボリュームで音楽を聴けるじゃない。
寺岡 われわれミュージシャンあるあるというか、レコーディング中はデモテープやミックスダウンのチェックをクルマの中で聴くことってありませんか?
KAN ありますね。ずっと25年、聴く環境が変わってない。ここを基準にしていますね。
つまり、KANさんにとってのリファレンスがカーオーディオというわけです。クルマではボリュームのレベルを一定にしてどう聴こえるかをチェックするそう。特に大好きな中田ヤスタカさんの作品はダイナミックレンジが広く、大きな音に聴こえるトラックも多いとか。寺岡さんもクルマ内で聴くとバランスが確かめられるから、各楽器のボリュームの調整がしやすいといいます。
KAN 同じ曲でも、パソコンで聴くときとヘッドホンやイヤホンで聴くときは音のバランスって変わる。スタジオの大きなスピーカーで聴くときも変わっちゃう。だから製作中の曲がどう聴こえるかのチェックには、カーオーディオを使ってますね。信頼しています。
土地が育むグルーヴ
寺岡 プライベートではどんな曲を聴いていますか?
KAN
群馬県のライブ会場までひとりでクルマで行ったんですけど、道中何を聴こうかなと、ドナルド・フェイゲンとかのCDを持っていったんです。けど、結局きゃりーちゃん(きゃりーぱみゅぱみゅ)の「ピカピカふぁんたじん」ばっか聴いていました(笑)
寺岡 KANさんはよく海外にも行かれていますが、海外でのドライブ時に何か感じることってありますか?
KAN 例えばロサンゼルスに行ったとき――ラジオからウエストコースト・ロックが流れてくると「うおおおお!」って感じになるんですよね。それも昔から聴いていた曲だと。
寺岡 わかりますそれ! 音圧も違って聴こえますよね。
KAN なんかものすごくカッコイイな! と思いますね。知っている曲が、こんなにもカッコよく聴こえるというのはビックリしました。あれは現地の気候とか関係しているんだろうなぁ。
寺岡 その土地が育んだグルーヴってありますよね。ハワイでレンタカーを借りて乗っていたとき、ラジオからハワイアンがかかったときも、「あぁ~、やっぱり合う!」っていうことがありましたね。
あの曲が作られた土地にいまいるんだ! という感動。KANさんいわく、「フランスのワインをフランスで飲んでも、普通に美味しいねと感じるだけなんだけど、音楽は違うんだよね」とのことです。そう考えると、思い出の曲を辿るドライブ旅も楽しそうですね!
音源は基本的にCD、それもお店で購入しますね(KAN)
寺岡 KANさんのなかで聴いていてベストなアルバムってありますか。リファレンスにしている1枚とか。
KAN それはいろいろありますよねー。ビートルズの初期のやつは無条件で楽しいし。でもいわゆるリファレンス的なものはないですね。例えばコンサートのとき、PAの方がセッティング時に必ず同じ曲をかける、ってあるじゃないですか。この曲、この歌が会場でどう聴こえるのかというチェックのためなんだけど、そういうのは僕にはないですね。
子どものころはレコードをカセットに落として、自分の部屋で聴いていたというKANさん。音質やオーディオに関してはあまり気にせず育ってきたそうです。好きな曲を、好きなように聴くという自由さがKANさん流なのでしょう。
寺岡 いまはCDもあれば、ハイレゾ音源、ストリーミングなどもありますが、よく聴く音源としてはCDが多いんですか?
KAN CDを、パッケージのやつを、お店で買います。どうしてもお店で手に入らないものはネットで買うこともあるけど。
寺岡 ハイレゾとかアナログとかに興味はありますか?
KAN 黙っていても時代は変わっていくだろうと考えているけど……。例えばビートルズのハイレゾリマスターが出たとして。いくら音質が良くなって、いままで聴き取れなかった音がわかるようになって、それはそれで面白いとは思うんだけど、ぼくは、当時彼らが作ったものが正しいと思いますね。まあファンとしてハイレゾも買うんだけれども。そういう考え方ですね。
寺岡 僕はハイレゾってけっこう好きで。わりとアナログに近い聴こえ方なんですよね。だからすごく受け入れてます。ところでストリーミングのサービスは使ったことないんですか?
KAN ラジオで、かけたい曲のCDがどうしても手に入らない時には使います、仕方なくね。
寺岡 僕はストリーミングの便利さに毒されているというか(笑)。新譜も含めてだいたい聴けちゃうんですよね。で、AmazonとかでCDを見ると「3000円って結構高いな」と感じちゃってきてるんです。近ごろはそういう価値観の人が増えてきているんでしょうけど、音楽を提供する側でありながらも、そう考えちゃうんですよね。
KAN 音楽に限らずだよね。それは時代の流れとして仕方ないよね。
寺岡 そのぶん、いままで聴いてこなかったジャンルの曲に接したりとか、誰かがオススメするプレイリストを流したらいいセンスだったりとか、驚きや発見もあるし、ライブラリー的な側面もあるし、そこは一長一短だなと思ってます。
オーケストラを本格的にやりたい!(KAN)
寺岡 これからのKANさんのビジョンってありますか。
KAN 僕はいま55歳だけど、音楽家として、あと何年やれるかというのがありますね。肉体的に、あと10年やれているかどうかとか考えると……。ある日突然、大きい病気だと宣告されたらアウトじゃない。いまコンサートを3タイプやっていて。10年前だったら期間を空けてじっくり面白いものを作ろうという考え方だったけど、いまはただただ楽しいんだよね。だからコンサートを面白いを思っているうちにどんどんやっていかないと。それでやったことがないことにもどんどんチャレンジしていこうと。あとはフルオーケストラをちゃんとやりたいですよね。
寺岡 山本直純かKANさんか(笑)
KAN 過去に何度か、自分の曲をアレンジしてやらせてもらったこともあるんだけど、あの数の楽器で演奏しないとわからないものってあるんですよね。あとは……指揮者にもなりたい。あとはそうだな、オーケストラコントもやりたい(笑)
音楽ありコントありで楽しさいっぱいのKANさんのライブ。もしオーケストラの規模でKANさんが目指す“面白さ”を追求したとしたらどうなるのでしょうか。ぜひ見てみたいですね!