鉄道写真の愛好家たちは通称“撮り鉄”と呼ばれている。この言葉自体には本来、マイナスの意味合いはないはずなのだが、ここ数年、さまざまなトラブルが各地で報告されたこともあり、どうも世間から好ましくない存在だという風潮が強まっているようにも見える。実は、筆者も鉄道写真を撮るのが大好きな“撮り鉄”の1人であり、撮影していると、近くを通る人たちから冷たい視線を感じることがある。
“撮り鉄”という言葉に、付きまとうマイナスのイメージ。こうしたイメージのままで良いのだろうか? SL列車の運転で知られる、静岡県を走る大井川鐵道で2017年に実際に起こった2つのトラブルを例に、“撮り鉄”のマナーを考えてみた。
「場所取り」で同好の人たちや鉄道会社を憤慨させた例
2017年10月15日、大井川鐵道本線は、元西武鉄道のE31形電気機関車が復活、特別列車を牽引するということで、賑わいをみせていた。
トラブルが起きたのは、島田市川根町の抜里(ぬくり)踏切。抜里駅に近く、編成写真がきれいに撮影できるスポットとしてよく知られている。
この日、多くの鉄道ファンが、少しでも良い写真を撮影しようと、場所を確保すべく早めに訪れていた。そんな道沿いにちょっと異質な“場所取り道具”が置かれていた。だいぶ前から置かれたものらしい。
道の端に置いてあるとはいっても、1番上の写真を見ていただくとわかるように、道は細い。踏切の前後で道をやや広げてあるものの、この場に立ってみると、クルマが通行するたびに道端にいても気をつかう。また運転している側も、立っている人や置いてあるものを引っかけないか、気をつかう。
ましてや置きっぱなし。場所取りのためとはいえ、通行の妨げになる。さらに踏み台にあった「場所取りをしています」の張り紙には、「最悪の場合は、ポアされることがありますのでご注意ください」と刺激的な言葉があった。
この場所取りのやり方に憤慨した同好の人たちが、大井川鐵道の職員に写真を送付した。その写真が上の2枚だ。この場所の取り方を問題視した大井川鐵道では、列車が走った2日後の10月17日に公式ツイッターで先の鉄道ファンから提供された写真と原稿を掲載した。
「抜里駅の踏切近くの路上を不法に占拠する事案がありました。(中略)違法性も高く、ファンの方同士及び沿線住民の方とのトラブルにつながるものと判断し、警察に通報済みです」。
この話題はネットのニュースにも取り上げられ、瞬く間に拡散された。
「98%の“撮り鉄”は良識ある人たちだと思っています」
想定外と思えるほど、反響を呼んだこのツイッター投稿。多くの人たちから声が寄せられたが、大井川鐵道の問題提起を支持する声が圧倒的に多かった。
大井川鐵道広報の山本豊福さんは次のように話す。
「ここまで大きな反響があるとは思ってみませんでした。私たちは撮り鉄の方を敵視する気持ちは全くありません。写真を撮られる98%の方は良識ある方だと思います。ごく一部の人が、こうした問題のある行動をする。そうした行為が撮り鉄の方々の全体のイメージを損ねることに結びついているのではないでしょうか。」
地元経済のために少しでも良かれと特別列車や、きかんしゃトーマス号などを走らせてきたことが、逆に地元の人たちに迷惑をかけているのはないか。大井川鐵道はそうした思いをいだき、鉄道ファンの一人一人に考えてもらおうと問題提起をしたのだった。
問題提起が予期せぬほどの大きな反響を呼んだが、 「私たちは単純にマナーを守ろうよ、ということを言いたいだけなのです」と山本さんは言う。
地元に住む人たちや、電車に乗る人に迷惑をかけずに、鉄道撮影を楽しむ。マナーを守ってごく一般的な方法で撮影を行い、また注意を払っていれば、問題は生まれないように思える。
写真撮影のために鉄道敷地内に入れば罪に問われる
大井川鐵道の沿線では、2017年6月17日のきかんしゃトーマス号の運転開始日に3人が無断で敷地内に入り、罪に問われている。この問題、どのような状況だったのか、振り返っておこう。
罪に問われたのは東京都西東京市の男性会社員(62歳)と、川根本町の無職男性(89歳)、島田市の自営業男性(55歳)の3人である。この3人は大井川鐵道本線の福用駅と田野口駅近くの鉄道敷地内に侵入したところを、巡回中の島田警察署の署員に発見された。
線路内に入る行為は鉄道営業法37条の罪に問われる。
第37条 停車場其ノ他 鉄道敷地内二妄二立ち入リタル者ハ 10円以下ノ科料二処ス
明治33(1900)年という古い法律のため、文言は難しく、罰金が低額(現状、10円ということはない)だが、要するに「鉄道敷地内にむやみに入ったら罰金ですよ」ということだ。
島田署の署員に鉄道敷地内に入っているところをが発見された先の3人は、その後にどのようなことが待ち受けていたのだろう。
まず、当日は、鉄道敷地内でカメラを構えていた人は、すぐにその場所から排除された。住所名前などを聞かれ、後日、島田警察署まで出頭させられた。3人のうち2人は沿線の住民だったが、東京都内に住む人は後日に島田警察署を訪れることになったという。その後、3人は10月20日に静岡地検へ書類送致された。
島田警察署の水野俊行地域課長と若林貴彦生活安全課長は次のように話す。
「3人の方々、皆さん、素直に鉄道敷地内に入ったことは認めています。やはり鉄道敷地内に入って撮影するというのは危険です。電車を止めてしまうということもありますので。善意のファンたちも楽しみに大井川鐵道に来られますので、足を引っ張り、迷惑をかけないようにしていただきたいですね。」
「地域の方も盛り上げていますので、万が一、けが人などが出るなどの問題が起こって、今後列車を運転しないということになったら、取り返しがつかないことになります。観光面などへの悪影響をもたらしてしまう。撮り鉄の方にはぜひともルールを守って楽しんでもらえればと思います。」
ちなみに、鉄道敷地内に入る行為への罪は軽微だが、もしそこで電車を止めてしまったら列車往来危険罪に問われ、逮捕という可能性もある。列車に巻き込まれたら最悪の結果につながる。鉄道敷地内に入ることは、それだけ危険性があることを胆に命じておきたい。
嫌われない撮り鉄になるために、やっておきたいこと
筆者は普段からいろいろな撮影スポットを訪れ、ほかの撮り鉄の人たちと交流することもある。その経験を踏まえ、自分が全国を撮影で回る上で大切にしていることをいくつかお伝えしたい。
■誰にでも「おはようございます」「こんにちは」の声かけ
まずは撮影地で先に構える人がいたら挨拶を心がけている。するとコミュニケーションが格段に取りやすくなる。
付近を散歩する人が近づいたら、やはり挨拶する。都会では無視されることも多いが、地元の人への声かけは、嫌われないための一歩のように思う。地元の人たちから撮影に向いた場所など有効な情報を得られることもある。
■自分が持ち込んだゴミは持ち帰る
せっかく訪れた有名な撮影地がゴミだらけで、げっそりすることがある。もちろん撮り鉄だけでなく、一般の人が捨てる例もあるかと思う。だが、明らかにここは撮り鉄しか行かないだろう、という場所でこうした例が見られることがある。
逆に、撮り鉄のなかに素晴らしい行動を行う人がいたことについても伝えておきたい。
信州上田の有名撮影地で。彼は自分が持ち込んだゴミはもちろん、すでに落ちていたゴミや吸い殻も持参の袋に入れ始めたのである。持ち帰って適切な場所で捨てると言うのだった。海外でのサッカーの試合で日本人はスタンドのゴミを拾って持ち帰るということで称賛された例がある。撮り鉄のなかには、こうしたマナーを大事にする人もいるのだ。
■駐車場所には細心の注意を払う
自身にもあった失敗例は駐車場所だ。それによって地元の人に迷惑をかけ、自分もイヤな思いをした経験がある。
ということもあり、最近は都市部では駅からなるべく歩いて目的地へ出向き、地方ならば、時間にゆとりを持って、その場所へ行き、駐車場や、確実に迷惑がかからず不法とならない所に駐車する。駅から歩くことは健康にも良いし、何より停めたクルマに気を使わずに済むので、撮影をより楽しむこともできる。
マナーの問題というのは、言われた側は、ついうっとうしいな、と感じたりするもの。筆者も、面と向かって言われれば、“カチン”となってしまうときもある。感情のコントロールはなかなか聖人のようにはいかないものだ。とはいえ、どんなときも冷静になって、自らの行動を振り返ってみる必要がある思う。一人一人のそうした心掛けが、撮り鉄へのマイナスイメージ払拭につながるのではないだろうか。