〜〜希少な国鉄形電車の世界その7 東日本の「115系」〜〜
113系、115系が誕生してからすでに約60年の月日がたつ。いま残る車両も、すでに40年という歳月を走り続けてきた。国鉄形近郊電車として定番だったこれらの形式も引退の2文字が限りなく近づいてきた。今回は残る115系のうち、東日本に残るわずかな車両の現状に迫ってみよう。
【はじめに】115系とはどのような電車だったのか?
◆寒冷地区向け、急勾配区間用に生まれた115系
113系とほぼ同時期に115系は生まれた。1963(昭和38)年に登場し、国鉄末期の1983(昭和58)年まで、合計で1921両が造られている。
主電動機は113系と同じく1時間定格出力120kW。113系と大きく異なるのは急勾配区間に対応したところで、上り勾配、下り勾配でそれぞれスムーズに加速、また減速できるように、制御器(上り勾配を一定速度で運転できるようにノッチ戻しの操作を可能にしたなど)、ブレーキ(抑速発電ブレーキ)などが強化されている。また当初、導入が検討された区間に上越線などが含まれていたことから、耐寒耐雪装備を備えた。
115系は国鉄からJRとなる際にJR東日本、JR東海、JR西日本の3社に引き継がれた。すでにJR東海からは消え、JR東日本の車両もごくわずかとなった。大所帯として残るのは3社のうちJR西日本のみで中国地方で活躍している。国鉄形電車の消えていくペースは予想以上に早い。首都圏近郊で、ごくごく身近に走っていた115系も、ほんの数年のうちに消えてしまった。そんな消えた2つのエリアの115系をまず振り返っておこう。
◆中央東線では2015年11月、群馬県内からは2018年3月に消滅
東京都下、山梨県、長野県と、広範囲に走る中央本線。JR東日本の路線区域、中央東線では、約50年にわたり115系が走り続けてきた。2010年台の初めまでは、普通列車のほとんどが115系だった。鉄道車両を撮影する人たちにとって115系は、目標とする特急列車などがやって来るまでの間に、試しでシャッターを切る、というような対象の車両でもあった。
ところが、2014年に後継となる211系(こちらも国鉄形近郊電車だが)が走り始めると、あっという間に115系の車両数が減っていった。そして2015年11月には横須賀色の115系が中央東線から姿を消した。いわゆるスカ色(すかしょく)の車体カラーで親しまれていた115系が、JRの路線から消えたのである。
他に関東地方で115系が多く活躍していたエリアと言えば群馬県内(栃木県の一部路線を含む)だった。元々、115系は上越線用に投入されたのが始まりとあって、縁の深い路線でありエリアだった。上越線、両毛線、吾妻線、信越本線(横川駅まで)と、多くの線区で“主役”として走った。こちらは全車がオレンジと緑の湘南色の115系だった。配置されていた高崎車両センターにも後継の211系が2016年ごろから徐々に投入されていく。
群馬県内からの115系の引退は、中央東線に比べれば3年ほどあとになったが、2018年3月の春のダイヤ改正とともに消えていっている。2つのエリアでは、新型電車の投入ではなく、別路線を走っていた211系の転用ということもあり、置き換えのペースは予想以上に早かった。振り返ればあっという間の引退劇だった。
さてJR東日本に残る“最後の115系”たちは、どのような運命が待ち受けているのだろうか? ここからはわずかになったJR東日本の115系と、JRから引き継ぎ、今も多くの115系が走る、しなの鉄道の115系の現状を見ていくことにしよう。しなの鉄道でも徐々に、新型車の導入が進んでいる。
【115系が残る路線①】新潟地区を残る七色の115系
JR東日本に残る115系は21両のみとなっている。すべてが新潟車両センターに配置されている。全車3両で編成を組み、現在7編成が日々、新潟エリアを走り続けている。なお、JR東日本の高崎車両センターにクモハ115が1両配置(2020年4月1日現在)されているが、こちらは運用がないので残る115系の車両総数から除外した。
◆車両の現状:7編成すべてが違う車体色で注目を浴びている
わずかに残る7編成21両の115系。すべての編成が色違いで、まさに七色の115系なのである。車体カラーは次のとおりだ。それぞれのカラーに名前が付いている。
(1)N33編成「旧弥彦色」〜白地に黄色と朱赤の帯
(2)N34編成「三次新潟色」〜濃淡のブルー塗装
(3)N35編成「二次新潟色」〜濃淡の緑色の帯
(4)N36編成「弥彦色」〜白地に窓周りが黄色、黄緑の帯という塗り分け
(5)N37編成「一次新潟色」〜窓周りが青、窓下の白地に細い赤の帯
(6)N38編成「湘南色」〜オレンジ色と緑色の塗り分け
(7)N40編成「懐かしの新潟色」〜あずき色と黄色の塗り分け
という具合である。2018年にはJR東日本の新潟支社が塗装の参考に、と一般へ好みのデザインを募集したところ、多くの案が集まるなど注目度が高い。利用者にも115系の車体カラーは注目され、七色の電車が人気となっているようだ。
◆越後線の吉田駅〜柏崎駅間をメインに今も多くが走る
新潟エリアの115系はどのような運用が行われているのだろうか。現在、115系の運用は新潟駅〜柏崎駅間を走る越後線が中心となっている。特に吉田駅〜柏崎駅間に使われる115系が多い。同区間には上り・下り列車がそれぞれ11本走るが(区間運転の列車も含め)、そのうち上り・下り7本が115系で運用される。とはいえ、日中は上り・下りとも2〜3時間にわたり列車がない時間帯があるかなりの“閑散区”で、115系が走る割合は多くとも、列車本数が少なく乗れない、出会えない現実がある。
越後線以外では次のような傾向がある。弥彦線では、吉田駅〜東三条駅間の朝夕の列車に115系が使われる列車が多い。さらに新潟駅17時1分発→新井駅着(えちごトキめき鉄道)19時43分着、新井駅20時13分発→直江津駅20時44分着。さらに翌朝に直江津駅発7時17分発→長岡駅8時20分着、長岡駅発10時29分発→新潟駅11時29分着の列車に115系が使われる。信越本線を往復する115系列車が残っていたわけである。
◆えちごトキめき鉄道線へ乗り入れ列車が引退の鍵を握る?
さて、新潟エリアの115系はこの先、どのぐらいまで走るのだろう。2018年4月1日までは40両の115系が新潟車両センターに配置されていた。その翌年には現在の21両までに減っている。白新線などの115系が新型のE129系へ置き換えられたためである。新潟エリアのE129系は2018年4月1日時点で168両となっており、その後に増車はされていない。
新潟エリアではここ数年、非電化区間を走るキハ40系をGV-E400系気動車に置き換えることを優先していた。またE129系を製造した新潟市の総合車両製作所新津事業所では、横須賀・総武快速線用の新車E235系や、房総地区用のE131系の新造を進めている。この新造が一段落するまではE129系の新造はなさそうだ。
さらに越後線で115系が走る区間は超閑散区で、投資に応じた見返りが見込めないという一面もあるのだろう。架線設備など脆弱な難点もある。また新潟駅からえちごトキめき鉄道の新井駅へ乗り入れる快速普通列車が日に1便走っている。この列車に115系が使われている。E129系が、えちごトキめき鉄道への乗り入れに対応をしていないためとも言われ、この列車が残っていることも115系が残る一つの要因とされる。
こうした取り巻く状況を見ると、まだ数年は新潟地区の115系は生き延びそうな気配が見えてくる。鉄道ファンの一人として、この予想が当れば良いのだが。
【関連記事】
東日本最後の115系の聖地「越後線」−−新潟を走るローカル線10の秘密
【115系が残る路線②】しなの鉄道に残る115系に注目が集まる
JR東日本に残る115系は21両のみとなっているが、JR東日本からの譲渡された115系が多く残るのが、しなの鉄道だ。JR“本家”ではないものの、こちらの115系も興味深い存在で“115系見たさ”に沿線を訪れるファンも多い。
今でこそ第三セクター経営のしなの鉄道となっているが、ご存知のように、路線は旧信越本線である。しなの鉄道に移管される前から115系が走っていた。しなの鉄道となった後に譲渡された115系は元々長野・松本地区を走っていた車両である。同線では馴染みの深い電車だったわけだ。
◆車両の現状:最盛期には59両の115系が活躍していたが
しなの鉄道では59両の115系が在籍していた。とはいうものの2020年7月4日からは後継となるSR1系が走り始めている。そのため7月初頭にS6編成、S23編成の計5両が廃車となった。さらに新型車両SR1系(一般車)が2021年春から運行開始となる予定で、それに合わせてS25編成とS27編成の計4両が引退となる。
これまでに引退、また今後に引退予定の編成を見ると、S6編成は1977(昭和52)年、S23編成とS27編成は1978(昭和53)年、S25編成は1981(昭和56)年にそれぞれ製造された。すでにどの編成も40年以上の車歴を持つ。最古参のS6編成は誕生してから2020年6月末時点までで、528万5195kmを走ったそうだ。これは地球を約132周走ったことと同じ距離になる。ご長寿車両は実に働きものだったわけである。
しなの鉄道では、車両を引退させる時期をすべて明らかにし、さらに編成ごとにプロフィールを詳しく紹介している。同社の車両に対する“熱い思い”が窺えて、鉄道好きとしては非常に好感が持てる。それこそ華やかな“花道”を用意しているかのようでもある。
◆115系おなじみの「懐かしの車体カラー」が人気に
さて、しなの鉄道で注目の115系といえば、しなの鉄道色の定番車体カラーよりも、希少な「懐かしの車体カラー・ラッピング列車」と名付けられた115系たちであろう。しなの鉄道では、一部の編成を同線に縁が深い車体カラーに塗り替えて走らせている。
懐かしの車体カラー・ラッピング列車は5種類ある。編成と車体カラーに触れておこう。
・湘南色:S3編成・S25編成(S25編成は2021年3月に引退予定)
・初代長野色(白地に黄緑色の配色、スソは茶色):S7編成
・台鉄色(黄色地にオレンジの配色):S9編成
・長野色(白地に水色):S15編成
・横須賀色(スカ色の愛称あり):S16編成・S26編成
台鉄色以外は、旧信越本線や長野地区、松本地区と縁が深い車両カラーだ。ちなみ台鉄色は、「台湾鉄路管理局・自強号色」が正式名で、しなの鉄道と台湾鉄路管理局と友好協定を結んだことにちなみ、走り始めた車両カラーだ。
しなの鉄道の「懐かしの車体カラー」列車はどのような運用が行われているのだろうか。この発表の仕方こそ、しなの鉄道らしい。
同社のホームページの「お知らせ」には「〈懐かしの車体カラー・ラッピング列車〉車両運用行路表」が発表されている。月々の運転予定が全日発表されていて、これを見れば、好みの電車がどのようなダイヤで走っているのかが良くわかる。各編成の運用予定表に加え、行路表と呼ばれるその日の列車番号、運行予定がPDF化され見ることができる。
さらに、しなの鉄道らしいのは行路表の見方まで詳しく解説していることである。もちろんこれは鉄道ファン向けで、鉄道に少しでも親しんで欲しい、知って欲しいという思いが感じられる。こうした鉄道会社からの啓蒙姿勢は、真摯に写る。ファンにとっても歓迎すべき姿勢であろう。
◆しなの鉄道の115系の今後は?
しなの鉄道では老朽化しつつある115系に代わる車両をどうするか、かなり苦慮したと伝わる。当初は他社からの譲渡車両で工面するという案も出たものの、新型車両を導入することのメリットを取った。
115系などの古い車両に比べて、新型車両はエネルギー効率が高く115系に比べて消費電力量が約40%削減できるとされる。またメンテナンスに必要な人員が少なくなるなどメンテナンスコストを減らせるといった利点があった。ちなみに、しなの鉄道が導入したSR1系は新潟エリアを走るE129系と同形の車両で、製造も総合車両製作所新津事業所と同じだ。
しなの鉄道では2020年7月に新型SR1系を2両×3編成、計6両を導入した。このSR1系は、同社初の「有料快速」列車などに使われている。続けて2021年3月13日のダイヤ改正に合わせて、SR1系一般車の導入を行う。2020年に導入したSR1系とは車体カラーや車内設備が異なっているとされる。この春の導入は2両×4編成で計8両となる。これでしなの鉄道のSR1系は14両となり、全列車のうち約3割がSR1系に置き換わるとされる。
さらに2022年度中にはSR1系は28両となることがすでに発表されている。最終的には、2027年3月期までは計46両となる予定だ。要はこの2027年春で、しなの鉄道の115系は、多くが引退となりそうだ。ということはあと6年ほど。この時には、懐かしの車体カラーの115系も、115系を利用した観光列車の「ろくもん」も消えて行くことになるのだろうか。または一部が残るのだろうか。ちょっと悲しいものの、これも時代の流れと言えるのかも知れない。