フランスで夏の風物詩となっている自転車ロードレース「ツール・ド・フランス」。第105回目を迎える2018年は、7月7日から29日までの日程で行われました。フランス西部から出発して大西洋沿いを走り、アルプス、ピレネーの過酷な山岳ステージを経て、ゴールの「パリ・シャンゼリゼ」まで全3329kmを競い合うこの競技。フランス人にとっては夏の風物詩として欠かせないイベントですが、なぜこのレースは多くの人たちを引き付けるのでしょうか ? 今回は少し変わった視点から「ツール・ド・フランス」の魅力を紹介します。
世界35億人の視聴者が見守るツール・ド・フランス
今年はワールドカップの影響で、開催日が例年より一週間遅れで始まったツール・ド・フランス。全世界190か国に中継、または配信され、その視聴者総数は約35億人にものぼると言われています。
7月になると、街頭のカフェや空港の待合室など人の集まる場所では、連日ツール・ド・フランスの映像がごく自然に、そして当たり前のように流れています。フィガロ紙によると、 2017年大会の全21ステージの平均視聴率は38,4%、フランス国内のテレビ視聴者数はおよそ380万人。また、 ラジオ局フランス・ブルーは沿道で応援する観客数は 1200万人にものぼったと述べています。
また、ニュースを専門に扱う別のラジオ局「フランスアンフォ」が伝えた調査結果によると、国内で同競技を観戦するテレビ視聴者の2人に1人は年齢が60歳以上、また72%が50歳以上というデータもあります。その一方、高校生や大学生などの若い世代は、すでに夏の大型バカンスに入っているため、視聴者全体の7%に過ぎません。
そんな視聴者たちがレースを観戦する理由には微妙なニュアンスが含まれています。パリのスポーツ専門マーケティング会社「Sportlab(スポーラブ)」の調査では、ツール・ド・フランスをテレビ観戦する理由で一番多かったのは、「テレビに映るフランスの美しい景色を眺めること」でした。なかでも、過酷でドラマティックな「山岳ステージ」に最も惹かれているという結果が出ています。また、ある統計会社が2016年に公開したデータでは、50%の視聴者がツール・ド・フランスで「まるで絵葉書を眺めるかのように映し出される美しい景色と歴史的建造物を楽しんでいる」ことが判明しました。
選手たちが繰り広げる人間ドラマは、この競技鑑賞のメインであることには間違いありませんが、このレースを一層盛り上げるもう一つの主役は、なんといっても周囲のダイナミックな景色だったのです。後述しますが、空撮される地方色豊かな自然やのどかな田園風景、そして訪れたことがある場所などが画面に映し出されると、夏の暑さや疲れを忘れ、つい画面に見入ってしまうというフランス人が多いのでしょう。
独特な鑑賞スタイルとフランスでの自転車人気
ツール・ド・フランスの鑑賞スタイルには、日本の箱根駅伝と通ずるものがあります。どちらの競技も何時間も前から現地入りし、選手たちの登場を待ち、その瞬間を見届けます。ツール・ド・フランスの場合は、バカンスを兼ねてキャンピングカーで乗り付けたり、何日も前からテントを張ってキャンプを楽しんでいたりする人たちもいます。自転車とマラソン、いずれも多くの人にとって比較的身近なスポーツであり、鑑賞者が選手たちの心理に感情移入しやすい点も似ているかもしれません。
上述のように、ツール・ド・フランスの視聴者の大半が50代以上で若い世代の視聴者が少ないのですが、BMXやマウンテンバイクなどの自転車競技は、フランスの若者にも人気があります。Statistaによると、マウンテンバイクを含む自転車の販売台数は、この20年近く300万台前後を維持。2017年度の売り上げ総額は9億6000万ユーロ(約1248億円)にのぼります。街中の自転車専用道路も整備され、シェア自転車サービスも普及しており、フランスはサイクリストにとって優しい環境に生まれ変わりました。