近年、著しい経済発展を遂げているベトナム。しかしその裏側には、環境汚染などの問題もあります。そのひとつが、プラスチックごみの処理問題。この問題の救世主としていま注目されているのが、なんとバナナリーフ(バナナの葉)です。
バナナリーフは、以前から料理などではよく使われていましたが、スーパーなどで小分け包装に使われるビニール袋の代わりに使うという新しい試みが進んでいるんです。伝統的に使われていたものを新たな用途に使うという、まさに温故知新の発想を紹介しましょう。
筆者は2009年からベトナムに住んでいます。実際にこの国で生活をするなかで、ごみに対する扱い方が日本とは大きく異なり、ごみ分別が緩いと感じてしまいます。プラスチックごみの増加も実感していますが、その背景には、急速な都市化による生活の変化があります。
例えば、スーパーやコンビニの拡大。ベトナムに住み始めた当初はスーパーマーケットがあまりなく、市場で買い物をする人が大半でした。もちろん市場でも商品をビニール袋に入れてもらうことはありましたが、野菜などは新聞に包んでもらい、持参したバックやかごに商品をそのまま入れて持ち帰るのが主流でした。
それがこの10年間で大きく変化。韓国系のロッテマートや日系のイオンが進出し、ベトナム系のスーパーも店舗数を増やしてきました。コンビニエンスストアも出店合戦が続き、中心部ではコンビニを探すのに苦労はしなくなったほど。昔はごみ袋を買っていたものですが、いまでは買い物でもらうビニール袋の数が増え、ごみ袋を買うことも少なくなったのです。ベトナムプラスチック協会の調査によれば、1990年にはプラスチック製品の消費量が一人あたり3.8Kgだったのに対し、2015年には40Kgに増えたとのこと。
また、東南アジアで人気の「Grab Food」などのフードデリバリーアプリの普及で、簡単にレストランの料理が注文できるようになり、料理用の容器や包装のためのビニール袋など、プラスチック製品が以前よりも多く使われるようになりました。
そんな状況のなかで、プラスチックごみ問題の救世主として登場したのがバナナリーフです。
もともとバナナリーフは東南アジアの人々にとって身近な素材で、皿の代わりに料理を載せる使い方は各国でよく見られます。バナナリーフは耐久性もあり、ベトナムでは、皿としてだけでなく「包んで蒸す」料理に非常に多く使われています。大きくて断面が厚いバナナリーフは「料理を包むもの」として馴染みのあるものでした。
2019年4月、ベトナムの大手スーパーが、既にバナナリーフをビニール袋の代替品として使っていたタイのスーパーに触発され、一部の店舗で試験的に野菜をバナナリーフで包んで売り出しました。対象は青菜類、果物、イモ類、コリアンダーなどのハーブ野菜。この取り組みについて、地元スーパーのSaigon Co.opの代表は「包装に天然素材を使用することは、生活環境の保護を訴えるために実用的な方法であるし、消費者にとってビニール袋を使用している商品よりも『身近』に感じられるという利点もある」と述べています。政府関係者からこの取り組みを称賛する声もあり、別のスーパーもこの活動を全国的に広げていきたい考え。
環境問題に気付くきっかけに
著者のベトナム人の知人は「バナナリーフで包まれていると商品に対する親近感がわく」「環境への取り組みは大切だと思う」「子どもたちが面白がっていた」などと話していて、結構好評のようでした。この試みは消費者の意識を変えるきっかけをもたらしたとも言えるかもしれません。
バナナリーフの活用については、メリットだけでなく、バナナリーフの安定的な供給や衛生面の確保など課題はあります。しかし、ホーチミン市やハノイ市をはじめ、ベトナム中部の街ニャチャンのスーパーでもこの包装スタイルが登場したことから、未来志向のこの取り組みはいずれ全国へと広がっていくと考えられます。ハノイで6月に行われたプラスチックごみ削減のキャンペーン開会式では、グエン・スアン・フック首相が「使い捨てプラスチック製品の使用の停止を2025年までに目指す」と発表。ベトナムの官民一体となった取り組みに今後も注目です。