人々を熱狂させ、ビジネスも活性化させるプロスポーツイベント。最近ではラグビーW杯が行われ活況を呈したことが記憶に新しいですね。ただサステナブルな視点でプロスポーツイベントを考えた場合、環境へ与える負荷はどのようなものになるのでしょうか?
ナイトゲームには大規模な照明が使用され、施設の冷暖房も考慮すると消費されるエネルギーは大きなものになり、観客席では飲食物の提供に伴ってゴミも出ます。ヨーロッパでサッカーの国際試合が開催される際、1試合では平均約4.2トンのゴミが発生し、観客1人あたりにすると0.8kgになるそう。政治や経済と同様に、スポーツイベントでもエコでサステナブルな視点が求められているんですね。
そんななか、2020年6月に欧州12か国で開催されるサッカー欧州選手権(EURO2020)では、新たな環境基準をもとにプロサッカーゲームが開催されることになっています。その名も「ライフタックル(LIFE TACKLE)」。エネルギー消費を抑制し、浪費の少ないプロスポーツイベントの開催を働きかけるプロジェクトなんです。
環境レガシーチーム
ライフタックル・プロジェクトがスタートしたのは2018年。イタリアを代表する研究機関の1つである聖アンナ高等師範学校を中心に、サステナブル資源マネージメントを行うACR+や資源回収会社のAMIUなど複数の企業・団体が参画。そしてイタリア、スウェーデン、ルーマニアの各サッカー協会の協力のもと、サッカーの試合開催における環境マネージメントのガイドライン作成を行うことになりました。
プロジェクト名称のTACKLEは「Teaming up for A Concious Kick for the Legacy of Environment(環境レガシーに対する意識を高めるためにチームを結成)」の頭文字を取って一語にしたもの。プロジェクトは3か年計画で、ハイライトはEURO2020(2020年欧州選手権)。欧州サッカー連盟(UEFA)のバックアップのもと、開催地のうち少なくとも10会場で、ガイドラインに沿った運営が行われるそうです。
聖アンナ高等師範学校の調査チームはモデルケースとして、ポルトガル代表のクリスティアーノ・ロナウド選手が所属するセリエAの強豪・ユベントスのホーム「アリアンツ・スタジアム(ユベントス・スタジアム)」を訪れ、クラブ関係者と面談を行いました。彼らがこのスタジアムを選択したのは、ヨーロッパのスタジアムのなかで革新的な環境対策がなされているスタジアムの1つだからです。
2011年に使用が開始された比較的新しいこのスタジアムでは、環境への影響を抑制するために様々な工夫がされています。建築面ではコンクリートなど建築材料の多くをリサイクル品でまかない、エネルギー面では太陽光発電や地域熱供給システム、LED照明の導入などでエネルギー消費を抑制。芝の育成に必要な散水用の水などは溜めた雨水を使用するシステムとなっており、ゴミ処理については130立方メートルほどのゴミを分別するための専用ブースを独自に整備しています。またVIPルームやプレスルームでの食事には紙皿や木製のフォーク、ナイフで提供されています。
調査チームは同クラブとの協議を通して有用な知見をたくさん得たそう。プロジェクトの責任者を務めるファビオ・イラルド教授は「とても有意義な会談だった。サッカーの試合のなかで資源の浪費をいかに抑えていくか、その実情について豊富なディスカッションをすることができた。今回得た情報はガイドラインづくりに大いに役立つことだろう」とイタリアの通信社アドンクロノスの取材に答えています。
プロジェクトチームは2020年の初頭までにガイドラインを作成し、プラスチックやゴミの減少、エネルギー消費の抑制、移動手段の整備やスタジアムにおけるPR活動など、各分野の指針を定めていく予定。EURO2020では選手たちのパフォーマンスとともに、エコやサステナビリティの視点からも注目してみてくださいね。