ワールド
2020/2/28 17:30

世界の途上国で働く日本人に聞きました――「もう日本に帰りたくない」と思うほど美味しい“ご当地ソウルフード”は?

日本の場合、たとえば大阪なら「たこ焼き」、香川なら「うどん」、秋田なら「きりたんぽ」、と各地に“ソウルフード”と呼べる名物料理がありますが、それは海外でも共通です。国ごと地域ごとに、お国柄を反映した美味しい料理や食材があり、現地の人たちは子どものころから愛着を持って食べ続けています。

 

そこで今回は、日本国内ではなかなか接することのない海外のソウルフード情報を、世界の開発途上国で活躍しているJICA(独立行政法人国際協力機構)関係者の方々から集めてみました。その中から選りすぐった4地域の“ご当地ソウルフード”、ぜひ味わいを想像しながらお楽しみください!

↑こちらはカレーを調理するスリランカの女性。現地で食べると「これは美味しい!」と思わず舌鼓を打ってしまう途上国の郷土料理はたくさんある

 

西バルカン諸国

鍋焼き料理が自慢

西バルカン諸国とは、旧ユーゴスラビアから独立したボスニア・ヘルツェゴヴィナ、クロアチア、北マケドニア、モンテネグロ、セルビア、コソボ、その他にアルバニアも含むバルカン半島西域の国々です。情報をくれたのはJICA援助調整アドバイザーとしてコソボで働いている牧野貴彦さん。この地域の料理について次のように解説してくれました。

↑西バルカン諸国のひとつ、コソボ共和国の首都プリシュティナ

 

代表的なのは「キャセロール料理(鍋焼き料理)」で、トルコも含む欧米において古くから伝わる調理方法で作られています。もちろん、地域ごとにさまざまなバリエーションがあり、コソボでは写真の「マンティア・メ・コス」という肉団子料理が人気があるそうです。

 

味のほうは、「濃厚なヨーグルトソースは食べる前は合わない気がするものの、それが肉団子の味を調えて引き締めるので、この料理には無くてはならない存在です。生地のカリッと焼かれた部分とヨーグルトソースに浸かっている部分が程よく口の中で合わさって、とても美味しいです」(牧野さん)。

↑「Mantija me kos」(マンティア・メ・コス)。コソボでとくに人気のある伝統的な肉団子料理で、マンティア=肉団子、コス=ヨーグルトの意味。一般的にコソボでは、ひき肉と玉ねぎを小麦粉の生地で包んで、ニンニク入りヨーグルトソースをかけて鍋焼きにしている

 

そのほかでは「サルマ」というギリシャやセルビア、トルコを起源とした伝統的な料理も人気があるそうです。一般的には、酢キャベツでひき肉と米を巻いて煮るロールキャベツのような料理で、トルコ語の「サルマック(Sarmak)」(=巻くという意味)が語源になっています。

 

牧野さんがコソボなどで食べているサルマは、キャベツではなくブドウの葉で巻いたものが多く、「包まれている葡萄の葉を口にすると、ミンチ肉・米・みじん切り玉ねぎの肉団子から肉汁が溢れ出し、それが絶品です。また葡萄の葉(味は桜餅の葉に遠くない)が程よく肉々しさをやわらげ、あれよあれよと何個も食べてしまいます」とのこと。

↑コソボで撮影したこちらのサルマは、キャベツではなくブドウの葉で巻いたもの。国・地域によってはこのような作り方がある。かかっているヤギチーズとパプリカの粉末も、ギリシャやトルコ版の「サルマ」とは違うこの地域らしいアクセントとなっている

 

また「面積が岐阜県と同程度で人口200万人に満たないコソボでは、レストランが膨大にあるわけではなく、今回紹介した料理を出すレストランでは、JICAの仕事でも縁のある首相や大臣と鉢合わせたことが何度かあります。そうした少しアットホームな場所にいる素朴な性格のコソボ人とは、美味しいコソボ料理を通じて仕事が進むことも珍しいことではありません」と牧野さん。コソボでは料理がコミュニケーションツールにもなるのですね!

 

【教えてくれた人】

牧野貴彦さん

JICA援助調整アドバイザー。専門分野は観光開発/遺跡保全で、コソボ政府欧州統合省に2018年9月から在籍。アジアでも豊富な経験を持つJICA専門家として西バルカン諸国の観光開発に携わる(関連リンク参照)。現地生活では、カフェ巡りや現地の食材、自然、フレンドリーなコソボ人との交流を楽しんでいる。

関連リンク:“文明の十字路”バルカンを知る

 

キルギス

麺をさまざまな形で食べる文化も

次に紹介するのは、中央アジアのキルギス共和国のソウルフードです。キルギスはシルクロードが通っていた地域ですが砂漠はなく、農業や牧畜も盛んなので、料理では羊肉や馬肉、さまざまな野菜や乳製品を多く使います。

↑牧畜も盛んなキルギス共和国の草原風景

 

情報をくれたのはJICA職員の村井博満さんで、ここでは2つの料理を紹介します。ひとつ目は写真下の「ベシュバルマク」。羊や馬の肉を大きな鉄鍋で数時間じっくり煮こみ、ブイヨンをしっかりとって、塩で味付けたものです。

 

「大皿にゆでた太い麺をしき、その上に塩ゆでした肉をのせます。肉のうまみが麺にも染み込み、食べ応えと美味しさの両方を味わえます」と村井さんは教えてくれました。

↑キルギスの代表的な料理「ベシュバルマク」。「大皿にボリュームたっぷりのベシュバルマクは、遊牧民らしさを感じるワイルドな一品です」(村井さん)とのこと

 

上のベシュバルマクでも使われていましたが、麺料理や米料理が多いのもキルギス料理の特徴です。

 

写真下は、「ラグマン」というキルギス人が大好きな麺料理。太い小麦麺を茹でて、肉とトマトや玉ねぎなどの野菜を煮込んだスープをかけた料理で、麺の食感がうどんに非常に似ているため、日本人に馴染む食べ物です。

↑代表的な麺料理の「ラグマン」。町中の食堂でもどこでも食べることができ、「キルギスのラグマンは中央アジアでいちばん美味しいと評判です。私は汁が少なくて平皿で提供されるウイグル風ラグマンを特に好んで食べています」(村井さん)

 

その他にも「パロー」というピラフのような米料理があり、「パローも日本人に馴染みやすく、病みつきになる美味しさ。全体的にも日本人の口に合う料理が多いと思います」とのこと。

 

ベシュバルマクやパローは、キルギスではおもてなし料理として祝いごとの席などでもよく出され、「先日も技術プロジェクト主催の専門家の送別会で大量のパローが出されるなど、現地の関係者たちと親睦を深めるのに一役買ってくれています」と村井さん。

 

【教えてくれた人】

村井博満さん

現地の生活では、週末の割安なタイ式マッサージとカフェでの休息などを楽しむというJICAキルギス事務所職員。2019年8月からキルギスに赴任し、ビジネス分野、保健分野の協力事業を担当している。「日本の一村一品運動を模した協力が進んでいます」(関連リンク参照)

関連リンク:特産×OVOPで世界に挑む キルギス

 

エチオピア

主食のインジェラをさまざまなバリエーションで

アフリカ東部の国、エチオピア連邦民主共和国は、エジプト、西南アジア、アラブ、地中海方面などの文化が行き来する地域なので、食文化にもそれらの影響を受けています。

 

主食は、テフというイネ科の穀物で作られたクレープのような形の「インジェラ」で、それにさまざまな具をトッピングしながら毎日のように食べています。

↑エチオピアは国土の大半が高原地帯で川も多い

 

情報をくれたJICA職員の中川悠さんは、「できたてのインジェラはフワフワで味も優しく、日が経つにつれて酸味が強くなってきます(インジェラは保存がきく)。トッピングは野菜や肉などさまざまで、多くのバリエーションがあります」と教えてくれました。

↑インジェラにさまざまな種類の葉物野菜を煮込んだものをのせる「バヤイネット」は、味だけでなく見た目の美しさも魅力。一切の動物性たんぱく質を絶つ「断食」の期間に食されることが多く、「とても優しい味付けで美味しいです」(中川さん)

 

↑インジェラにのせた挽肉にスパイスを絡めて食べる「ティビット」。写真のメニューでは、レア仕上げとしっかり炒めたものと2種類の挽肉が盛りつけられている。「かなり辛いスパイスを絡めながら、肉の味もそのまま楽しめる料理です」(中川さん)

 

また、独自のコーヒー文化があるのもエチオピアの特徴です。土器のポットから注がれたコーヒーを、おちょこのような小さいカップ「シニー」で飲むのがエチオピアのスタイルです。

 

「首都のアジス・アベバでも地方の小さな町でも、豆ごと煮出して作るローカルスタイルのコーヒーが美味しいです。砂糖をたっぷり入れて甘くして飲む人が多く、コーヒーの深みや舌ざわりがあいまって、チョコレートのような味になることもあります。エチオピア人にとって、コーヒーを一緒に飲むことは親睦を深めるための大切なイベントで、小さなシニーで3回飲む(2回おかわりする)のが深い親睦のしるしのようです」(中川さん)

 

コーヒーのお供としては、「コロ」と呼ばれる麦や、ソルガム(きびの一種)、ひよこ豆、菜種、スパイスなどを一緒に香ばしく炒って作ったものが好まれていて、町中の小さな店で出てきます。また大都市では、ポップコーンで代用されることもあります。

↑シニーに注いだコーヒーとコロのセット。「コロは、ローカルコーヒーの味を引き立てるオヤツのようなもので、ポリポリした食感と香ばしさに加え、絶妙に効いたスパイスが美味しく、小腹がすいたときに食べている現地の人も多いです」(中川さん)

 

「エチオピアでは、政府機関の方などから会議の場でお香と一緒にコーヒーが出されたり、ワークショップなどのランチ休憩で一緒にインジェラを食べたりすることもよくあります。現地の方々にとってインジェラ、コーヒー、コロの組み合わせは、日本での『ごはんとみそ汁、お茶とお菓子』という感覚に近く、仕事でも遊びに行っても欠かせない存在です」(中川さん)

 

【教えてくれた人】

中川 悠さん

JICAエチオピア事務所職員。専門分野は電力セクターで、2019年から赴任中。エチオピアでは、農業、産業振興、インフラ開発、教育などの分野を担当しており、「エチオピアは地熱発電が有望で、日本も得意分野として協力しています」(関連リンク参照) 週末や休暇は市内を散策したり、観光地を巡るのが趣味で、その際に露天のB級グルメなども楽しんでいる。

関連リンク:大地溝帯に眠る力を、未来のエネルギーに エチオピア

 

スリランカ

カレーを定食的に味わう

最後に紹介するのは、インド半島の先に浮かぶ島国、スリランカのソウルフードです。南インド料理の影響が大きいため香辛料をたくさん使ったスパイシーな料理が多く、新鮮な魚介類に恵まれているのも特徴のひとつ。

↑セイロンティーが有名なスリランカは茶葉の生産も盛ん

 

情報をくれた健康管理員の佐才めぐみさんは、「スリランカ料理は、唐辛子を多用した辛いものが多く、現地の人はフルーツにもチリパウダーをかけるほどです。でも、食材の種類によってスパイスの調合や味付けが変わり、深みのある辛さが味わえます。魚で言えば、白身か赤身など素材の違いに応じて、それぞれの臭みが消され美味しさがうまく引き出されていると感じます」と教えてくれました。

 

そんなスリランカ料理の主役は、やはりインドと同様にカレーです。スリランカのカレーは、肉・魚・野菜など材料の違い、味付けの違いでさまざまなバリエーションがあります。かなりスパイシーなものが多いですが、ココナッツミルクを使ってマイルドにしたものも人気があります。

 

また通常は、1種類の食材でできたカレーを何種類か一緒に(手で)混ぜ合わせて食べます。実際に食べるときは、ご飯の周りか上にメインのカレー、副菜(野菜カレー)、サンボル(ふりかけ風の和え物)をのせてワンプレートにするのが通常の形。お弁当で注文した場合は、ラップに包まれて写真下のような見た目になります。

 

佐才さんのお宅では、子どもが食べられるようにチリを入れない辛くないカレー作ってもらっているそうです。

↑フィッシュカレーのランチボックス(弁当)。このように複数のカレーや副菜が添えられ、「副菜の混ぜ具合で辛さや食感を自分で調整しながら食べるので、一口一口味を変えられます。副菜の組み合わせも変わるので、意外に毎日でも飽きずに食べることができると思います」とのこと

 

写真のフィッシュカレーは、佐才さんがJICAの仕事で関係の深い大使館の方から教えてもらったお店の日替わり魚カレー弁当。大使館の方は「見かけは若干微妙ですが、毎日食べていられるくらい美味しいです。たまに“当たり”の日があって、弁当の上に魚まるごと一匹の唐揚げがついてとても美味しいですよ」とコメントを添えてくれました。

 

スリランカにはカレー以外にもさまざまなソウルフードがあり、その中でも有名なのがココナッツミルクで炊いたご飯をひし形に固めた「キリバット(ミルクライス)」です。正月や結婚式、誕生日などのお祝い行事のときによく作られる料理で、JICA事務所でも仕事始めの日の朝に振る舞われました。

↑キリバット(ミルクライス)はこのようにひし形に成形してあり、サンボル(下中央)やバナナと一緒に食べることが多い。味は「お米がしっとりとした食感になり、素朴な味がします。そのままよりも、チリペーストやサンボルをかけて食べると、味がしまって美味しくなると思いました」(佐才さん)

 

↑最後にオマケとしてスリランカの定番品「ライオンビール」を紹介。佐才さんは缶のデザインもお気に入りで、「ラガーは、ほんのり甘さを感じながらも喉ごしがスッキリしていてとても飲みやすいです。スタウトは、苦みよりも香ばしさや甘味を強く感じてどっしり濃厚です。泡はきめ細かくクリーミーでとても美味しいと思います」とのこと。土産物として喜ばれそう

 

【教えてくれた人】

佐才めぐみさん

JICAスリランカ事務所に2018年8月から赴任中の在外健康管理員。専門分野は渡航医学・疫学分野で、スリランカおよびモルディブに赴任しているJICA関係者(家族も含む)の健康管理を支援する業務全般を担当している。「世界で活躍する海外協力隊の健康は私たち健康管理員が守っています」

関連リンク:JICA海外協力隊がゆく Vol.2 スリランカ

 

以上4カ国の極上ソウルフード、いかがでしたか? もちろん、どの国にもここで紹介した以外にたくさんの美味しいものがあり、JICA関係者の中にもすっかりハマっている人が多いそうです。また「食を通して現地の人と仲良くなれることが多い」という話も取材の中でよく出てきました。誰かと一緒に美味しいものを食べて、その幸せを共有するという楽しみは、世界中のどこに行っても共通のようですね!

 

JICA(独立行政法人国際協力機構)のHPはコチラ

 

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