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2020/2/6 18:30

若者が社会を変える! 南イタリアから広まる「残飯ゼロ」を目指す素晴らしい動き

↑一人で食べきれないならお裾分け

 

イタリアといえば、食に関して世界に冠たる存在を自負する国。そのため、おいしい料理を世に送り出すだけではなく、昨今問題となっている残飯問題にも敏感です。イタリア南部プーリア州で若者4人が結成したボランティアグループ「Avanzi Popolo」も、こうしたテーマに取り組んでいる団体の1つ。イタリアの環境省から表彰された彼らの活動とは、どのようなものなのでしょうか?

 

世界各国で貧富の格差が問題となっていますが、それは食料事情についても同じです。飢餓の撲滅などを唱える国際連合食糧農業機関(FAO)の報告によると、世界で廃棄されている食料は年間約13億トンで、食品生産量のおよそ3分の1に当たります。しかしその一方で、食料を満足に摂取できない人たちは世界中に8億人以上も存在。さらに、食料不足が原因とされる発育阻害や低体重の子どもたちが世界中に2億人近くもいますが、他方では過体重や大人の肥満は年々増加し、10億人に迫る勢いとなっているのです。

 

EUではこうした状況を深刻視し、2025年までに廃棄食料を半減するための取り組みを始めていますが、南イタリアのプーリア州でも若者4人が身近なところから廃棄食料問題に取り組み始めて、大きなムーブメントになっています。2014年に彼らは「Avanzi Popolo(アバンツィ・ポポロ)」という名前のNPO活動をスタート。「前進する」という動詞と「余分にある」という動詞をかけた名前の通り、彼らは家庭やレストラン、食品の小売業者のところで余った食材を、それを必要とする人のもとへすぐに届けるという仕事をしています。

↑南イタリアの結婚式では想像を絶する量の食べ物が作られる

 

南イタリアでは結婚式や洗礼式のパーティーが派手に行われますが、Avanzi Popoloが目を付けたのはその廃棄食料。南イタリアをテーマにした映画を見れば一目瞭然ですが、経済的に北部よりも遅れが目立つ南部であるにもかかわらず、こうした儀式で作られる食事の量は想像を絶しているのです。一族郎党や友人たちが集っても、到底消費しきれる量ではありません。

 

結果的には廃棄されるこういった食料を、身近にいる必要な人々に提供するというこの活動は、まさに世界中が模範とすべき形としてイタリア環境省や各機関から表彰されています。イタリア新聞大手コッリエーレ・デッラ・セーラによれば、Avanzi Popoloが2014年に活動を始めて以来、廃棄を免れた食料は2万キロ強にもなるとのこと。

 

食料の仲介者

Avanzi Popoloの仕事を簡単にご紹介しましょう。まず、結婚式を行うことが決定すると、カップルはAvanzi Popoloに連絡を取り、式の1週間前までに段取りを決定します。

 

運ばれるのは食料ですから、衛生状態にも配慮するうえ、余剰の食料とはいえ見た目を整える必要もあります。安全できれいな食べ物がまとめられ、食料を必要とする近隣の家庭に届けられるまでおよそ30分。Avanzi Popoloの役割は「食料の仲介者」ですが、この言葉はまさに的を射ているでしょう。

 

彼らは現在のところプーリア州の州都バーリ周辺で活動していますが、今後はより広い範囲で活動できるように、ネットワークを構築することが目標だと述べています。

 

結婚式ではもはや当たり前

↑新郎新婦は食べ物を無駄にしないことも誓いますか?

 

活動を始めてから5年がたち、Avanzi Popoloの活動はプーリア州のバーリでは広く知られるようになり、若いカップルが結婚式を挙げるときには、この活動に参加することが当たり前になってきました。70以上の企業や25に及ぶ慈善団体がAvanzi Popoloに賛同し、活動を後押ししています。

 

Avanzi PopoloのFacebookには、「私たちの目的は食料に関する倫理観を強調するだけではなく、日々貧困と向き合い、公正で公平な社会の構築のために具体的に活動することにある」と記されています。きれいごとを言うだけでなく、実際に行動に移していることが素晴らしいですね。

 

また、結婚式や洗礼式などのイベントだけが彼らの活動の対象ではありません。クリスマスや復活祭で出されるお菓子や食材についても、Avanzi Popoloに提供された残り物は、賞味期限とともに公式サイトやFacebookに載せられます。

 

さらに、このNPOはバーリのスケータ―愛好会の協力を得て、食料品店が閉店する15分前に賞味期限ぎりぎりの食材を回収し、それを必要とする家庭に届けるということも行っているんですね。この活動には、実に20歳から60歳までの市民が参加しているのだそう。パンや惣菜など、その日のうちに消費されることが望ましい食料品が彼らの活動の対象となっています。

 

イタリア各地に広がる活動の輪

↑ Avanzi Popoloの公式サイト

 

Avanzi Popoloと似た活動はイタリア各地に広がっています。マルケ州のアンコーナでは「Foodbusters」、ローマでは「Equovento」、コモには「Siticibo」など食料廃棄を減らすためのNPOが発足したほか、ミラノ、トリノ、レッチェでも、同様の活動が行われるようになりました。

 

イタリア政府が発表したところによれば、イタリア国内の生ごみの量はGDPの0.88%を占めており、金額にすると150億ユーロにものぼるといわれています。母の美味しい料理を食べて育った若者たちが、この問題に立ち向かい始めたのはとても良いことでしょう。

 

イタリアでは、2015年にミラノで開催された食をテーマにした万博をきっかけに、こうした活動により注目が集まっています。さらに、2016年には廃棄食料を減らすための「ガッダ法」が成立し、食料寄付のための手続きの簡略化や、寄付した人のごみ処理税軽減などの措置がとられるようになりました。この結果、廃棄を免れて寄付された食料は21.4パーセント増加したとも報告されています。各地で立ち上がった若者たちによるNPOも、こうした動きに大きな役割を果たしていることは間違いありません。