近年、サステナビリティに対する意識が世界各国で高まっており、2021年は一層加速していくでしょう。しかし、具体的にはどんなことが起こるのでしょうか? 本稿では「食品ロス」「オーガニック」「嗜好品・日用品」という視点から、タイ、イタリア、アメリカにおける様々な事例を取り上げることで、世界中のサステナビリティのトレンドを予測してみます。
「食品ロス」はアプリで減らす
消費者に身近な取り組みとして、まずは「食品ロス」が挙げられます。欧米では賞味期限を活用して、ユーザーに情報を迅速に伝えられるスマホアプリが活躍しており、今後もその需要は高まると考えられます。
例えば、ロックダウンを通じてイタリア人が敏感になったのは「食の廃棄」。イタリア農業連盟の調査では4割以上が以前よりも廃棄を減らしたと答えています。それに貢献しているのが、賞味期限間近の食材情報を消費者やボランティア団体に知らせるアプリ。NPOなどがレストランや食料品店の閉店前ぎりぎりに食料を回収し、食べ物を必要とする家庭に届けています。
クリスマスや復活祭で余った食料もすぐにアプリにアップされる一方、イタリア独特の派手な結婚式や洗礼式で大量に余るご馳走についても、廃棄せずに必要とする人たちに届ける仕組みが広がっています。最近では、結婚式をあげる若いカップルはNPOに事前連絡し、この取り組みに参加することがトレンドになってきました。
アメリカやイギリスでもアプリを活用し、レストランなどで廃棄される食べ物を半額またはそれ以上の割引価格で購入できるようになっています。例えば「Too good to go」というアプリでは、住んでいる地域を登録しておけば、その地域のレストランやホテルから通知が届く仕組みとなっています。
また、欧米では形が不揃いといった理由で市場に卸せないオーガニック野菜をまとめ、リーズナブル価格で配達してくれるサブスクリプションサービス「Misfits」も人気。一般店舗の価格よりも最大40%の割引価格なのに加え、家族の人数に合わせて量を選べるため廃棄を減らすことができます。
その一方、もともと外食が多いタイでは新型コロナウイルスの影響でデリバリー需要が大幅に増え、ホテルや高級レストランも相次いでこの分野に参入しました。複数の現地大手銀行などもアプリ企業と提携し、新しい食品配達アプリの開発が活発化しています。
そのなかで登場したアプリのひとつが「Yindii」。ユーザーは最大50~70%引きで食料を入手することができるのに対し、飲食店はそれによって利益を得られるというもの。参加店舗はヴィーガン向けや添加物不使用のレストランが多く、SDGsに関心のある人や健康意識の高い人に選ばれるアプリとして人気が出そうです。
「オーガニック」はますます人気に
サステナビリティへの取り組みは、商品開発にも反映されるようになりました。なかでも女性やミレニアル世代の商品を見る目は厳しくなり、環境に配慮した商品に優位性が生まれているとみられます。例えば、イタリアのワイン業界では「サステナビリティ・ワイン」の認証基準に取り組むプロジェクトが立ち上がりました。この国ではオーガニック食材の市場が大幅に伸びていますが、同プロジェクトでは有機栽培を用いてCO2の排出量を削減しながら、空気、水、土を汚染せずにワインを生産しています。
南イタリアにはアーモンドの木との「養子縁組システム」があり、「親」となる出資者は縁組期間中、収穫した実を毎年受け取ることができます。「養子」となった木には親の名前を記したプレートを付けることができるうえ、木の成長具合も確認することができます。このシステムで集まった資金は樹木の手入れやバイオ農法の促進などに充てられているそう。
それと関連して、イタリアでは「樹木を植えるキャンペーン」も人気です。フィレンツェでは、購入した木が自治体の樹木遺産の一部となり、それを通して都市の気候緩和とCO2削減に貢献するという取り組みが行われています。購入者は自分で植える場所も選ぶことができ、樹木が成長する様子もメールで確認することが可能。また、この活動はギフトとしても活用されています。
アメリカでも、化学物質を一切使用しないオーガニックのスキンケア製品や自然に優しい洗剤などが人気を集めていましたが、最近はコロナ禍の影響で「心のつながり」を求める人が急増。商品のバックグラウンドやストーリーを重視したり、地域に根ざした店舗で消費したりという行動が強まっているようです。
タイではオーガニック食品やエコ商品の店舗が増加し、バンコクの中心街には環境配慮型商品のみを扱う専門店もオープンしました。このお店では雑貨や生活用品、食品などを取り扱っていますが、なかでもスキンケア商品が豊富に取り揃えられており、多くのオーガニック系ブランドもそこに含まれています。エコストローやプラスチックを再利用して作ったバッグ、水中の生き物に害を与えない日焼け止めなど、地球に優しい商品に人気が集まり、今後もこのような動きは続くでしょう。
さらに、タイでも不織布や紙で作られたエコバッグやマイボトル、マイストローを持ち歩く人が若年層を含めて増加中。ペットボトルの水を通常の3倍の価格で販売するスポーツジムもあるなど、多くの人にマイボトルなどを持ち歩くようにさせるための取り組みが、あちこちで行われています。
同国のフードデリバリーでは、プラスチックの代わりに紙やキャッサバ、サトウキビで作られた容器を使用する飲食店が増えており、特にヴィーガンカフェや富裕層向けレストランでは天然素材容器の活用が目立ちます。5つ星のマンダリンホテルでは、バイオプラスチックのペットボトルや固形タイプの歯磨き粉、木の歯ブラシなど、部屋のアメニティをプラスチック不使用の製品に変えており、このような動きはこれからもっと広がるでしょう。
サステナブル化する「嗜好品・日用品」
イタリアではラグジュアリーブランドが率先し、プラスチックをリユースした商品開発に力を入れています。プラダは廃棄素材を利用したナイロンでバッグを生産し、グッチは破棄された漁網やカーペット、生産過程で生じた廃棄物を再利用しています。フェラガモは廃棄オレンジの皮で作った素材を活用するなど、自然に優しい素材を使った商品はファッション業界でもトレンドになっています。
アメリカではテラサイクル社が、使用済みの商品容器を提携メーカーが回収し、洗浄して再利用するという循環型消費事業の「ループ」を展開中。サブスクリプションサービスとなっているループは、化粧品や日用品、飲料などを専用容器で購入すると、中身を使い切った時点で、同じ品物が別の専用容器に入れられて届くという仕組みになっています。
同社は専用容器のデザインなどにも工夫を凝らしており、消費者から高い評価を得ています。すでに多くのメーカーと20か国以上で提携しいるループは、日本でも多数の企業の賛同を受けながら2021年にサービスを開始する予定です。
まとめ
2021年には消費者のサステナブル意識がさらに高まり、それが私たちの購買や行動パターンに影響を与える傾向が強まりそうです。それに対応するために、サステナビリティに本気で取り組む企業も増えていくのではないかと考えられます。その場合、サステナビリティ関連の新しい製品やサービスもどんどん作られていくはずですが、消費者にとって選択肢が増えるのは悪いことではありません。自分のライフスタイルにあった選び方ができるように、見る目を養っておくといいかもしれません。