金融(Finance)と技術(Technology)を組み合わせた「フィンテック(FinTech)」が世界中で発展しています。近年ではスマートフォン決済や仮想通貨、投資ツールなど、さまざまなものが生み出されてきましたが、最近、英国ではフィンテックに「環境保護への貢献」という要素を加えた「グリーン・フィンテック」が登場し、デジタル・ネイティブ世代を中心に支持を集めています。どのような特徴があるのでしょうか?
英国はサステナビリティーや環境保護活動、関連するチャリティ活動がとても盛んな国です。マイ容器を持ち寄って食品や日用品を量り売りする「ゼロ・プラスチック・ショップ」が人気を集めていたり、20~30代ではヴィーガンやプラントベースなどのライフスタイルが定着しつつあったり。このようなトレンドは単なるファッションやダイエットのためだけではなく、その根底には環境保護の精神があります。
当然そこには、2015年に国連サミットで採択されたSDGs(=持続可能な開発目標)の影響が見られます。これにより、気候変動は企業や工場だけに責任があるのではなく、肉食やプラスチック製品の利用など、消費者のライフスタイルもCO2排出量や温暖化につながっていることが、より広く知られるようになりました。SDGsは学校のカリキュラムにも導入され、「お金を使うなら、エコにつながるものを無理なく自然に」という考え方は若い世代を中心に浸透しています。
1990年代以降に生まれたデジタル・ネイティブ世代は、経済的に見ると、実店舗を持たないデジタル銀行やフィンテック・サービスに早くから親しみ、スマホを使った手軽で便利な取り引きを好むのが特徴です。2016年にクラウドファンディングを通じて、わずか96秒で100万ポンド(約1億5200万円※)を調達したオンライン銀行のモンゾ(Monzo)は、デジタル・ネイティブを取り込んだ典型的なビジネスケースで、住所証明なしで口座開設できる手軽さやアプリで完結できる仕組みが人気。この世代では、エコ感覚を重視しながら、スマホを軸としたフィンテックを活用するという生活様式が主流になりつつあります。
※1ポンド=約152円で換算(2021年9月13日時点)
このような背景から注目を集めているのが、環境保護への貢献とスマホ機能の利便性を併せ持つグリーン・フィンテックです。この分野には、個人ユーザーが企業の環境ガス排出量を比較し、より環境に配慮した投資ができる英国初のグリーン投資アプリ「スギ(SUGI)」や、2017年にペーパーレスのモバイル専用当座預金口座を導入し、2021年に再生プラスチックを75%使用したデビットカードの配布を始めた「スターリング銀行(Starling Bank)」が存在します。
なかでも注目は、2021年4月に本格始動したアプリ連動型のデビットカード・サービス「トレッド」(Tred)。株式投資型クラウドファンディング「クラウドキューブ」で数多くの人から支持を得ることに成功した同社は、モンゾに及ばないものの、わずか90分で目標額の40万ポンド(約6100万円)を獲得し、計100万ポンド以上を調達するなど、好調なスタートを切ったのです。
消費活動をCO2排出量に換算
デビットカードとアプリが連動したトレッドは、ユーザーの消費活動をCO2排出量に置き換えて、アプリで表示してくれる英国初のサービスです。トレッドは「自分の買い物=CO2排出量」とし、消費行動を「食料品」や「移動費」などにカテゴリー化。買い物データを分析し、自分のライフスタイルの何が気候変動に最も影響を与えているかを、わかりやすい形で見える化してくれる仕組みです。
例えば、ユーザーがレストランでの食事代や交通費、スポーツジム会費などの支払いをすると、アプリ上にそれぞれのCO2排出量が表示されます。電車とタクシーではCO2排出量に大きな差が出ることや、牛乳とオートミルク(植物由来のミルク)におけるCO2排出量の違いなどがひと目でわかります。また、毎月の消費傾向とエコ度もカラフルなグラフで表示されるので、それをもとに買い物の内容を変えて、CO2排出量を減らすということも可能。
さらにトレッドでは、炭素回収プロジェクトを行う他社のサブスクリプションにアプリ経由で参加すれば、植林を通じて自分のCO2排出量を相殺できるようになっています。このプログラムは手数料がかかりますが、固定制ではありません。自分が相殺したCO2排出量によって手数料が月々変動するため、この仕組みはユーザーにとって、より一層エコなライフスタイルを目指すためのインセンティブになっているようです。
トレッドのデビットカード自体もリサイクルされた海洋プラスチックで作られているなど、創業者の思いがあちこちで感じられます。トレッドは、2021年4月22日の世界アースデイにロンドン夕刊紙のイブニング・スタンダードで「アースデイに取り入れたいおすすめ12選」に選ばれました。
集団で行われる自然保護活動に参加しなくても、個人がグリーン・フィンテックを活用し、日常生活における小さな選択や行動を変えることで、環境に与える影響を軽減する。サステナビリティに対する取り組み方には、このような選択肢もあります。デジタル・ネイティブ世代以外の人にとっても、やってみる価値はあるでしょう。
執筆者/ネモ・ロバーツ