動物の身体の大きさは環境に影響されます。例えば、気温が高い地域で生きる動物は、身体が小さくなり、この関係は「ベルクマンの法則」として知られています。しかし最近、フロリダ自然史博物館の研究者が発表した論文で、都市部で生きる哺乳類はこの法則に反することが報告されました。
ベルクマンの法則とは
19世紀にドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンは、同じ種の動物の場合、温暖な地域に生息するものは、寒冷な地域に生息するものに比べて、身体が小さくなることを発見しました。逆に、寒冷地の動物の身体は大きくなりますが、その理由は身体のサイズと熱の放出量に関係があります。身体が大きくなると、体重や体表面積(身体の表面の総面積)も大きくなりますが、体重1kgあたりの体表面積は小さくなります。そのため、身体が大きいほど熱の放出が抑えられ、寒さに強くなるのです。
この法則の一例として、クマを取り上げましょう。東南アジアに生息するマレーグマは、体長1~1.4mほど。日本の本州や四国に生息するツキノワグマは、体長1.1~1.5mです。しかし、北海道に生息するヒグマは、体長が2.2~2.3m。北極圏にいるホッキョクグマは、大きいもので体長2.5mにもなります。このように、温暖な地域のクマは小柄で、寒い地域に行けば行くほど大型になるのです。
都市部は食べ物が豊富で安全
都市部はアスファルトの道路やコンクリートの建物で囲まれており、ヒートアイランド現象により気温が高くなります。そのため、ベルクマンの法則に則ると、都市部に暮らす動物は小さくなるはず。しかし、フロリダ自然史博物館の研究チームは、この法則が当てはまらないことを明らかにしました。
この研究チームでは、オオカミ、オジロジカ、コヨーテ、ネズミなど、北米にいる100種以上の哺乳類の体長と体重のデータを、80年以上にわたり収集し、解析しました。その結果、都市部に生息する哺乳類は、農村部に生息する動物よりも体長が大きいうえ、体重も重い傾向があることが判明。しかも、都市部に生息する動物の身体の大きさと気温はほとんど関係なく、むしろ都市化の程度が、動物の身体の大きさを決定づける大きな要因になっていることが示唆されたのです。
都市部には、食料や水が豊富にあり、動物が住処とできる場所も数多くあります。さらに、ほかの動物に狙われる危険性が少ないことも、動物の身体を大きくする要因として挙げられています。
今回の結果にはフロリダ自然史博物館の研究者たちも驚いたとか。科学者の間では地球温暖化による動物の小型化が10年ほど前から問題視されるようになったそうですが、今回の研究により、この問題を調べるうえでは、都市化の影響も考慮しなければならなくなるでしょう。