Apple「AirPods」やソニー「WF-1000X」、ボーズ「SoundSport Free wireless headphones」など、各社から次々と新製品が登場し、盛り上がりを見せている“完全ワイヤレスイヤホン”市場。最近はスマホで音楽を聴く人も増えていますが、スマホの世界トップシェアを誇るサムスンからも、完全ワイヤレスイヤホン「Gear IconX」が発売されました。今回はその実力をレビューしてみたいと思います。
Gear IconXは、元々は2016年にグローバル市場で発売されたもの。当時のモデルは日本で限定的に販売されたので、国内市場への本格上陸は今回が初めてになります。グローバルモデルは全部で3色のカラバリを揃えていますが、日本では最もスタンダードなブラックのみが発売されます。
大きな特徴は、本体に内蔵する4GBのメモリーに音楽ファイルを転送して、スマホなしでも音楽リスニングを楽しめるプレーヤー機能。スポーツのコーチングプログラムもプリセットされていて、Android向けにリリースされている「S Health」アプリを入れたスマホとペアリングしてアクティビティの記録が残せます。完全ワイヤレスイヤホンは、特にアメリカを中心とした海外では先進的なウェアラブルデバイスとしても注目されています。来年はGear IconXと同様にスポーツシーンとの相性の良さをうたうモデルが増えてくる予感がしています。
ほかにもタッチセンサー式のリモコンや、Galaxy Note8、Galaxy S8/S8+とペアリングしたときによりいい音が楽しめる独自のオーディオコーデック対応など、Gear IconXの特徴は色々あります。ハンドリングしながら順に紹介していきましょう。
小さなボディにタッチセンサーを搭載
スマホとのペアリングにはAndroid対応の「Gear Manager」アプリを使うと便利です。今回はGalaxy Note8を一緒に借りてテストしてみたのですが、イヤホンケースのフタを開けるとスマホの画面にポップアップメニューが表示され、ガイダンスに従って電話にメール、ワークアウトアプリなど装着しているときに通知を読み上げてくれるアプリを選択して、簡単にペアリング完了。再接続もアプリを使って素早くできます。iOSに同じアプリがないのが残念です。
センサーリモコンは楽曲再生にハンズフリー通話、本体メモリーに保存した曲やプレイリスト選択などが、パネルのタッチとスワイプ操作だけでできるようにうまく設計されています。
左右のイヤホンを使うので最初は多彩な種類のコマンドに慣れる必要もありましたが、日本語対応の音声ガイドも助けてくれるので比較的苦もなく使いこなせるようになると思います。タッチセンサーの反応はとても良好です。
本体への楽曲転送には「Gear Manager」アプリを使います。最新のGalaxyシリーズはUSBケーブルをGear IconXのケースに直結して、一気に複数の曲を選択して高速転送ができるので便利です。Bluetooth接続によりケーブルレスで転送することもできるのですが、この場合は1曲ずつしか転送できないので時間がかかります。Galaxy以外のAndroidスマホ、iPhoneのユーザーはWin/Mac対応のPC用アプリケーション「Gear Manager」を使って転送します。「Gear Manager」アプリを使えばファイルを転送した後に端末上でプレイリスト作成も可能です。
ちなみにGear IconXの音楽プレーヤー機能で再生できるファイル形式はMP3/M4A/AAC/WAV/WMAです。FLAC形式のファイルやハイレゾ音源の再生は非対応になります。
「本体に音楽プレーヤーを内蔵するイヤホン」は実はそれほど多く選択肢があるわけではありません。筆者がぱっと思いつく限りではソニーのウォークマン「NW-WSシリーズ」と「Smart B-Trainer」ぐらいでしょうか。イヤホン単体で音楽再生ができると、スポーツシーンで便利に感じられるだけでなく、ペアリングしたスマホから離れた時に発生してしまう音切れからも解放されます。キッチンからベランダまで、家の中も音楽を聴きながら自由自在に動き回れるので快適です。
このほか「Gear Manager」アプリからはイヤホンをなくしてしまったときに、ビープ音を鳴らして場所を確認できる「Gearリモート追跡」の機能が使えます。
スポーツしながら音楽を聴くときには「周囲の音を聴く」機能が便利です。最新のヘッドホン・イヤホンの中には「ヒアスルー」「アンビエント音取り込み」のような名称で採用するモデルも多くあり、こちらの機能も来年以降に発売されるイヤホンのトレンドになりそうです。
本体タッチパッドの長押し操作で機能の切替えを選択します。有効にすると近くにいる人の話し声がよく聞こえるようになります。屋外を歩きながら使ってみると環境音も聞こえるようにはなるものの、音楽を聴きながらだとどうしても環境音にまで集中が向かないものなので、機能をオンにした状態でも周囲の安全を気にしながら使う心配りが大事です。
イヤホンの装着感はとても洗練されていて心地よい仕上がり。シリコン製のイヤーチップとイヤーフィンを付けても本体がコンパクトなので、多くの方が違和感なく使えると思います。ケースのサイズも小さいので持ち歩く時に荷物になりません。
バッテリーはイヤホン単体での連続音楽再生時間が長く確保されているのが特徴です。内蔵音楽プレーヤーモードで6時間、スマホとペアリングしてBluetoothリスニングで聴く場合も5時間というスタミナ設計。バッテリー内蔵専用ケースでフル充電できる回数は1回とされていますが、実際には大半の場合が通勤時間やエクササイズの時に1~2時間ほど聴いてケースに入れて充電という使い方をするはずなので、数日おきに充電すればいいかと思います。
スッキリ切れのいいサウンド
音楽再生はGalaxy Note8でSpotifyの音楽ストリーミングを聴きながらチェックしました。Gear Icon XはBluetoothのスタンダードなオーディオコーデックであるSBCのほかに、もうひとつGalaxy Note8/Sシリーズとの組み合わせで使える「Samsung Scalable Codec」に対応しています。当技術はaptX HDやLDACのように、Bluetooth再生時により多くの情報量を伝送することを目的としているわけではなく、どちらかといえば”音途切れ”をなくして安定したリスニングを実現することを目的にしているようですが、結果として心地よい音楽体験の向上に結びついています。
音質はクリアで伸びやかな中高域を特徴としているように思います。一般的に屋外でイヤホンやヘッドホンを使って音楽を聴くと、環境によっては周囲のノイズの影響を受けて中低域が減衰してきこえるもの。アウトドアでの使用をメインに想定したスポーツイヤホンの場合、あらかじめ中低音のバランスを強化したチューニングに仕上げてある製品によく出会いますが、このGear IconXの音の仕上がりはむしろ反対の方向性を感じます。どちらかといえばピュアなオーディオリスニング寄りで、静かなジャズやクラシックにもよく合います。
ボーカル系の楽曲も得意としていて、声を力強く立体的に押し出してきます。余韻の抜け味も爽やかです。反面、低音がやや物足りないように感じられるところもありますが、ジャズピアノやロックのエレキギターなど、メロディ系の楽器の鮮やかな切れ味を求める方にはぴったりハマる音といえるのではないでしょうか。イヤーピースを普段使っているものよりもワンサイズアップすると、より低音が引き締まってきました。
今回、Gear IconXの実機をテストしてみて、本機が海外で高い人気を誇るイヤホンであることがよくわかりました。装着感とリモコンによるハンドリングはとても洗練されていて、音質はもう少し”クセ”のような本機にしか出せない個性があってもいいように感じますが、色んな音楽をオールラウンドに気持ち良く聴かせてくれる器用さを持ち合わせていることは確かです。
残念なのは、日本でたくさんのユーザーがいるiPhoneでの使い勝手が、Galaxyシリーズとペアリングした時よりも若干落ちること。とくにスムーズにペアリングできることは完全ワイヤレスイヤホンにとって大きなプラスのポイントになるので、Gear Managerアプリは割り切って早いうちにiOS対応を実現して欲しいところ。ユーザーも増えれば、これから完全ワイヤレスイヤホンの定番シリーズになれるポテンシャルを持ったイヤホンだと感じました。