キヤノンのミドルクラスの機種は、通称「二桁機」と呼ばれることがある。それは、製品名が「EOS ●●D」と、二桁の数字だからだ。
この二桁機の源流となっているのが、2003年3月に発売された「EOS 10D」。キヤノンは、それまでにミドルクラスのデジタル一眼レフとして有効画素数300万画素の「D30」、有効画素数600万画素の「EOS D60」を発売していた。上位機種には「EOS 1D」「EOS 1Ds」があり、これからのハイエンドモデルは「一桁機」と呼ばれることもある。
2000年に発売されたD30は当時約35万円、2002年に発売されたD60は約30万円。いずれもAPS-Cのイメージセンサーが搭載されていた。プロのカメラマンなどはいち早く仕事に取り入れていたものの、一般ユーザーにはまだお高めの価格設定だったと記憶している。
そして2003年、「EOS 10D」が発売された。イメージセンサーは630万画素のAPS-Cサイズと、D60とほぼ変わらないが、画像エンジンに「DIGIC」が搭載された。いちばんの驚きはその価格。実売価格で約20万円と、かなり手ごろになったのだ。
この10Dの登場により、デジタル一眼レフが一般層に浸透したのは明らか。知り合いのカメラマンなどは、2台購入して仕事に使っていた。確か、品切れが続出してなかなか手に入らなかったように思う。それほどまでに、エポックメイキングな製品だったのだ。その10Dの流れを汲むのが、今回紹介するキヤノンのミドルクラス最新機種「EOS 80D」だ。
EOSシリーズのオーソドックスなボディデザイン
それでは、外観から見ていこう。本体は、前モデルである「EOS 70D」とほぼ同じ。本体サイズはW139×H105.2×D78.5mm、重量は約730gとなっている。防塵防滴仕様となっており、屋外での撮影にも強い。
本体上部のダイヤル部。キヤノンの特徴して、本体上部液晶に表示される情報が多いことが挙げられる。背面液晶よりも各種設定がひと目でわかるのがいい。AFモード、ドライブモード、ISO、測光方式のボタンが独立しているのも伝統。慣れるとかなり快適だ。
モードダイヤルには、新たに「カスタムモード2」と「クリエイティブフィルターモード」が追加されている。クリエイティブフィルターを多用する場合、モードダイヤルからすぐに呼び出せるのは便利。
背面液晶はワイド3型、104万画素のTFTカラー液晶。視認性が高く、晴天の屋外でも普通に撮影画像が確認できた。また、ファインダーの視野率は100%。これはEOS二桁機としては初。視野率95%と100%では、数値以上に違いがある。視野率100%はかなり評価できる。
また、EOSの操作性のキモといってもいいのが「SET」ボタンまわりにある「サブ電子ダイヤル」。このダイヤルでの操作が快適。慣れてしまうと他のメーカーの操作性に違和感が出るほど。
なお、液晶ディスプレイは可動式。またタッチパネルになっているので、液晶を触ってフォーカスを合わせたり、シャッターを切るということも可能だ。
有効画素数は約2420万画素。映像エンジンは「DIGIC 6」となっており、常用感度100~16000、7コマ/秒の連写性能は、このDIGIC 6により実現している。
EOS 80Dの最大のウリは「高速AF」。ファインダーの広範囲に分布されたオールクロス45点AFセンサーにより、動く被写体への追随性はもちろん、フォーカス速度も向上。シャッターチャンスを逃す可能性が少なくなる。
ボディだけを見ると、これまでのEOS二桁機とほぼ変わらないが、性能的にはかなりブラッシュアップされており、かなりコストパフォーマンスがよい機種といえる。
あらゆるシーンでキヤノンらしい鮮やかな画質
さっそく実際の作例を見ていこう。レンズはキットレンズにもなっている「EF-S18-135mm f/3.5-5.6 IS USM」と小型軽量の単焦点レンズ「EF-S24mm f/2.8 STM」を使用した。なお、画像をクリックすると拡大表示も可能。
ピクチャースタイル「オート」で撮影。全体的に色鮮やかで、キヤノンらしいクリアな画質だ。
少し複雑な被写体を撮影。細かいディティールはきちんと出ているが、もう少しシャープさが欲しい。好みでシャープネスをプラスすると、よりはっきりとした描写になるだろう。
陰影差の激しいシーンでの撮影。カメラが自動的に撮影シーンを解析して適切なシーンを選択してくれる「新EOSシーン解析システム」で、白とびも黒つぶれもない写真に仕上がった。あまり不自然さがなく、人間の目で見ているような写真だ。
高速AFで、速い被写体を撮影。AIサーボAFを使用し、メインの被写体にピントを合わせたままカメラを動かして撮影したうちの1コマ。きちんと人物にピントが合っている。AFが速く、動いているものへの追従性も高い。
クリエイティブフィルターの「ジオラマ」を使って撮影。遊園地の乗り物のポップな色合いもあり、かなりジオラマ風になった。タッチパネルを使い、ピントを合わせる範囲を変えることも可能。ジオラマ風写真にするコツは、なるべく高いところから撮影することだ。
小型軽量の単焦点レンズ「EF-S24mm f/2.8 STM」で撮影。窓に反射した太陽光がフレーム内にあるが、しっかりとコントラストがある写真になっている。80Dで使用すると38mm相当の画角になり、スナップ撮影に向いているレンズだ。
ピクチャースタイル「風景」で夜景撮影。ISO3200まではノイズが少なくディテールも崩れなかったが、ISO6400ではやや暗部のノイズが目立ち、ディテールがやや崩れている。小さめのサイズで鑑賞するならあまり問題にならないかもしれないが、大伸ばしで印刷するといった用途の場合は、ISO3200までにしておいたほうがよさそうだ。
このクラスで視野率100%のファインダーは素晴らしい
もともとキヤノンの二桁機は、ハイアマチュア向けのローエンドという位置づけ。そのためか、初心者から中級者まで気軽に使え、なおかつ画質もよいという、たいへん優等生的な機種が歴代続いていた。そしてこのEOS 80Dだが、非常にバランスがよい機種という印象。
個人的にイチオシしたいのが、視野率100%のファインダーだ。前モデルのEOS 70Dは視野率98%だった。80Dと2%しか違わないが、この2%がとても重要。ファインダーを覗いて構図を決める際に、視野率98%の場合は、周囲のものが若干写り込んでしまうため、それも考慮して構図を決める必要があった。
しかし、視野率100%ではファインダーに見えているものがすべて写る。これは精神衛生上ものすごく快適になる上、構図を決める際に四隅までじっくりと見て考えることができる。また、背面液晶の視認性の高さも素晴らしい。通常、ほとんどのデジカメは晴天下では見づらくなるのだが、80Dの液晶は晴天下でも見づらいと感じることがなかった。撮影画像の確認はもちろん、メニューから設定変更をする場合も快適だった。
画質に関しては、キヤノンらしく鮮やかな色味で、特に後調整をしなくても充分鑑賞、印刷に耐えうるだろう。今回は試さなかったが、Wi-Fi、NFC、多重露出、HDR、インターバルといった撮影や、フルHD、60fpsでの動画撮影などの機能もあり、かなり高機能。価格を考えると、かなりコストパフォーマンスが高い機種だ。
スマートフォンやコンパクトデジカメからのステップアップの機種としてもいいし、上位機種と合わせて使うサブ機としても重宝する。もちろん、80Dをメインにしても充分な性能を有している。かなりのポテンシャルを秘めた一台といえるだろう。
キヤノン
EOS 80D
実売価格12万7980円(ボディ単体)
新開発の有効画素約2420万画素のAPS-CサイズCMOSセンサーと、映像エンジン「DIGIC 6」を搭載したデジタル一眼レフカメラ。CMOSセンサーの画素が、撮像と位相差AFの両方を行う「デュアルピクセルCMOS AF」により、一眼レフならではの美しいボケ味が楽しめる。構図を描きやすい視野率約100%の光学ファインダーを採用し、快適なファインダー撮影が可能。最高約7コマ/秒の高速連写を実現している。
【SPEC】
撮像素子:有効2420万画素 APS-C CMOS センサー
レンズマウント:キヤノンEFマウント
モニター:3型/約104万画素
サイズ:W139×H105.2×D78.5mm/約730g
【URL】
キヤノン http://canon.jp/
EOS 80Dスペシャルサイト http://cweb.canon.jp/eos/special/80d/