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2020/6/11 19:15

スピーカーキットで世界に1つだけの音を楽しもう! BearHorn「BR-810A」を作ってみた

自宅で手軽にできる工作としてオススメなのがスピーカー作りです。音楽ソースのデジタル化によってオーディオ機器も大きく変化しましたが、いくらデジタル化がすすんでも、音の出口のスピーカーはアナログでなければ音が出ません。

 

ちなみに、スピーカーは木製の箱、すなわち「エンクロージャー」と、電気信号を空気の振動に変換する「スピーカーユニット」で構成されています。自分でスピーカーを作る自作スピーカーの場合、エンクロージャーとユニットの組み合わせは何十何百もあるので、自由に自分だけの音を創り出せます。予算に合わせたユニットを選んで、後からエンクロージャーをグレードアップする楽しみ方もありです。

 

以前のスピーカー自作ブームでは雑誌に掲載された設計図を基に、サブロクと呼ばれる一畳サイズのベニヤ板から板材を切り出していました。現在はオーディオメーカーが使っているのと同じMDF(Medium Density Fiberboard)と呼ばれる高剛性の板材を精密に切り出した板材のキットがあり、木工用ボンドがあればビギナーでも迷わず完成できるようになりました。

 

今回はBearHornの「BR-810A」というエンクロージャーキットを作成して、5種類のスピーカーユニットを聴き比べてみましょう。

↑エンクロージャーキット「BR-810A」(2万9800円/ペア)に様々な8cmフルレンジスピーカーを組み合わせた

 

フロントロードホーン型スピーカーを組み立てる

この「BR-810A」は、市販のスピーカーではほとんど見られないフロントロードホーンと呼ばれるユニットの前にラッパのようなホーンが付いた方式を採用しています。主に1950年代に劇場用スピーカーに使われた方式で、パワーの出せない真空管アンプを使って大音量を出すための工夫でした。BR-810Aはそのミニチュア版といえます。フロントロードホーンの曲線を木材で出すのは難しいのですが板材加工専門のBearHornは見事にこれを再現しています。

 

板材は17枚の2本分で合計34枚あります。NC加工により誤差0.02mm以下にカットされ、さらに正しい位置に接着できるようにミゾとホゾ加工されているため、組み立ては容易です。説明書に従って板材を番号通りに接着するだけで、フロントロードホーンが完成します。組み立て時間は3時間ぐらい、乾燥時間を入れても1日で完成できます。木工用ボンドの他に、接着面を強固にするための漬け物用の重石と、はみ出した接着剤を拭き取る濡れたウエスがあるといいでしょう。ユニットの取り付けと裏板の着脱、ターミナルの固定にプラスドライバーも必要です。

↑板材は作業順にナンバリングされ、ミゾがあるので曲がらずに接着できます

 

↑スピーカーユニットは交換できるようにネジ止めになっています

 

↑スピーカー端子と裏板もネジ止めで固定します

 

レトロなデザインの箱に最新ユニットを組み合わせる

「BR-810A」を鳴らすには口径8cmのフルレンジスピーカーユニットが左右で2本必要です。このキットは、もともと2019年に発売されたマークオーディオ「OM-MF519」というユニット用に設計されていますが、他社の8cmフルレンジユニットとも互換性があります。

↑口径8cmであれば各メーカーのスピーカーユニットが取り付けられます

 

例えば、日本のオーディオメーカーで世界中にユニットを供給するFOSTEXの8cmフルレンジユニットなども装着できます。価格は1600円くらいからあるので、予算に応じて選べますね。

 

フルレンジというのは1本のスピーカーで低音から高音まで再生するスピーカーユニットのことです。ウーハーというユニットともあり、こちらは低音専用なので今回は使いません。高音用にはツイーター、超高音用にスーパーツイーターと呼ばれるユニットもあり、「BR-810A」は別売でツイーターを追加するためのウッドホーン「TW-300H」も用意されています

↑オプションの高音専用のホーン「TW-300H」を箱の上に載せてみました

 

ユニットによって様々な音色が楽しめる!

8cmフルレンジには様々なタイプがあります。まずチェックしたいのは、空気を前後に動かすための振動板の材質です。これが音にも、外見にも大きく影響します。木材の繊維から作られた「パルプコーン」と金属製の「メタルコーン」が一般的で、アラミド繊維を使った「ケブラーコーン」や、薄い天然木の「ウッドコーン」など変わり種もあります。今回はハイコスパなユニットを中心に試聴して、その音の傾向を探ってみましょう。

 

用意したのはマークオーディオ「OM-MF519」(ONTOMO MOOK6589円/ペア)と、その前年に発売された「OM-MF5」(5720円/ペア)、メタルコーンの「M800」(2970円/ペア)、フェーズプラグ付きの「OMF800P」(5060円/ペア)、限定版のFOSTEX「FE83-Sol」(6160円/本)の4種類のユニット。さらに、「M800」にスーパーツイーターを加えたシステムも聴いてみました。

↑試聴したユニット。左から「OM-MF5」、「OM-MF519」、「M800」。下段左が「FE83-Sol」、隣が「OMF800P」

 

まず、マークオーディオ「OM-MF5」を聴いてみましょう。マークオーディオは香港の人気メーカーで、ブランド創始者のマーク・フェンロン氏の設計思想を継承しています。極薄のメタル振動板を使い、フルレンジながらワイドな周波数帯域を再生できるのが特徴。振動板はマグネシウムとアルミニウムのハイブリッドで、ハイレゾ領域となる20kHz以上の超高域も再生できます。極めてレスポンスのいい音で、低域はタイト、高域は硬質でヌケがいい音です。

 

このユニットをベースにマグネットをダブルにして磁気回路を強化したのが「OM-MF519」です。低域がパワフルになり、中低域に厚みが出ています。高域の硬さも抑えられ、より幅広い音楽ジャンルに対応したユニットです。どちらのユニットもハイスピードで歯切れがいいのでロックやヘビーメタルなど電子楽器との相性がいいと感じました。

 

FOSTEX「M800」はU3000円のハイコスパなユニットですが、同社初のアルミコーン振動板を採用して20kHz以上の再生を実現しています。金属振動板なので硬い音かと思いきや、音を聴いてみると女性ボーカルのなめらかな音色が再現され、優しい音も出せることが分かりました。低域の量感もありバランスのいいユニットで音楽のジャンルは問いませんが、ボーカルやアコーステックな楽器の再生が得意といえます。

 

FOSTEX「OMF800P」は、センターキャップといわれる振動板の中央部分にフェーズプラグと呼ばれる円錐形のパーツを付けることで、高域の特性を改善したユニット。マグネットも大型化されています。その音は一聴して中高域のヌケが良くなったことが分かります。M800をワイドレンジ化したモデルで、音色はやや硬めな印象です。

 

最後にFOSTEXの高級ユニットである「FE83-Sol」を聴きました。特殊な方法で作られた振動板が特徴のユニットで、かなり高域が伸びるタイプです。情報量が多く、ボーカルもなめらかですが、この箱に付けると低音の量感が不足気味になりました。もっと大きな箱向きかもしれません。

 

「M800」にオプションの高音用ホーンとツイーターを加えたシステムも聴いてみましたが、ツイーターが加わることで高域のレンジが広がり、空間に広がりが感じられました。音色の支配力はツイーターが強くなりM800とは別のユニットで聴く音に思えるほどでした。これはまたツイーター選びでも悩みそうです。

↑高音用ホーンにはツイーターを取り付けコンデンサー経由でフルレンジと接続した

 

塗装して仕上げれば市販品にはない味わいを発揮

フロントローディングホーンの名作、アルテックA7風のアイスブルーに塗装すると「BR-810A」の雰囲気はガラリと変わります。小型スピーカーなので、黒よりも明るい色が似合うと思います。MDFの表面の感じを活かしたオイルステン仕上げもオススメです。刷毛で塗ってもムラが出にくくビギナーでも失敗なく仕上げられます。

↑アイスブルーに塗装して高音用ホーンも載せた「BR-810A」

 

無塗装では武骨だったスピーカーが、塗装によって部屋にしっくりとくるようになります。このように組み立て、ユニット選び、塗装とスピーカーキットには様々な楽しみ方があります。また、鳴らし出すとエージングによって音に磨きがかかるので、末永く愛用できると思います。BearHornには色々なサイズやタイプのキットがあるので、皆さんもぜひチャレンジしてみてはいかがでしょう。

 

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