この頃、なんだか腹立たしく感じることが多い。たとえば、自動改札に達した段階でバッグからSuicaを取り出そうとする人。あるいは、銀行の出入り口で立ち止まったまま通帳を見て動かない人。そして、デパ地下の通路をあり得ないほどスローなスピードで歩いてる人。
ああ、俺は今日も怒りにとらわれるのか
こっちが必要以上にカリカリしてるからかもしれない。でも、こうしたタイプの人たちと出会う確率が格段に高くなった気がして仕方がない。
20年来の知り合いの、ちょっと上の世代の編集者と話をした時、「俺もそういう時期があったよ」と言われた。突然襲ってくる怒りは、年齢によるものなのか。
実は、自覚症状がもうひとつある。5年前より、めんどくさいと思うことが確実に多くなった。舌打ちしながらちょっと大きめの声で「あー、めんどくせー」と独り言を発してしまうこともある。言おうとして言っているのではないので、自分でもはっとする。
そもそも、口に出して言うことは何でもアファメーション(自分自身に対する宣言みたいなニュアンス)になりえる。スピリチュアル本を読んでみると、ポジティブな意味合いで使うことが圧倒的に多い。
めんどくさいとか、むかつくとか、筆者がついつい口にしてしまうのはネガティブな響きの言葉ばかりなので、言ってみれば〝ネガティブ・アファメーション〟ということになる。ネガティブな言葉ばかり発していると、体がネガティブなオーラに包まれ、ネガティブな振動を発し、ネガティブなものをさらに引き寄せてしまうらしい。
ネガティブ・アファメーションの弊害
ネガティブ・アファメーション(自己否定的宣言と訳しておきたい)にはこんな悪影響もある。
同じ言葉を繰り返し言っていると、いつの間にかそれを信じてしまうようになるらしい。思っているだけなら影響は少ないかもしれないが、口に出して言うことでまったく別のものになる。
やがてそれが無意識の自己暗示になり、うつ状態や自信喪失、そして自尊心の低下につながっていく。文句ばかり言っていると、心も体もだるくなり、「どうせ俺なんて、何やってもだめさ…」という負の思考のスパイラルに陥っていくのだという。だから何事も他人任せになって、自分で決断する場面も少なくなり、運が悪ければ人に利用されてしまうこともあるというのだ。
ネガティブ・アファメーションに宿るポジティブパワー
そうかと思えば、正反対の意見もある。今、全米で大人気の精神分析医ティナ・ギルバートソンさんは、ネガティブなアファメーションが宿すポジティブな力を唱えている。実例を挙げるなら、こんな感じだ。
CASE1:ジョギングをしていて、目の前に長い上り坂が現れた
CASE2:何時間も働き続けているのに、仕事が一向に終わらない
CASE3:ダイエット中、定期的に訪れる特に辛い時期がまたやってきた
ギルバートソンさんは、こういう時にこそ口に出して言うべき言葉として「もうできない。辛すぎる」を挙げている。何がいいかというと、まず肩から力が抜ける。力が抜けて気持ちの余裕が生まれるので、目の前の状況の見え方が少しだけ変わる。
無理な形でポジティブな精神状態を保とうとするより、目の前の現実をありのまま認め、受け容れ、とりあえず嘆いておく
ということらしい。
ネガティブさを認めてこそうまくいくこともある
ギルバートソン説の裏付けとなりそうな一冊が 『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則』(森川陽太郎・著/かんき出版・刊)だ。
著者の森川さんはプロのメンタルトレーナー。ミス・ユニバース・ジャパンのファイナリストやプロスポーツ選手、一流企業の管理職など、延べ1万以上のクライアントに「結果を出すための心の整理」のサポートをしてきた人物だ。
”私は多くの人とお話をするなかで、自分が望む結果を得ることができる人には、〝共通する特徴〟があることに気づきました。それは「ありのままの自分を受け入れる」ことができているということです。”
『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則』より引用
ポジティブシンキングを疑ったことがない人こそがなかなか結果を出せないというひとことは、本当に意外だった。
”「ありのままの自分を受け入れる」ということは、成功するために自分に一番合ったやり方を見つける力を育てていくことなのです。”
『ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則』より引用
本書は、そういう姿勢を育んでいくための35のヒントが5つの章に分類されている。
第1章 向上心は『そこそこ』あれば成功できる
第2章 平常心じゃなくても大丈夫
第3章 ポジティブシンキングをやめよう
第4章 『ラクすることに対する罪悪感』を乗り越えよう
第5章 モチベーションを無理に上げるのはやめよう
この本のテーマを尋ねられたら、ネガティブシンキングの力を合気道的な方法でポジティブに変える方法、という言い方で答えると思う。どんな場面でもポジティブで押し切るのではなく、ネガティブなものに押し込まれた時は押し返そうとせず、その力を一度取り込んで、自分の力として利用する。
ネガティブな言葉の響きは、確かによくない。ただ、その響きの悪さを無理なポジティブさで消そうとする行いは、もっとよくないのだ。
(文:宇佐和通)
【参考文献】
ネガティブシンキングだからうまくいく35の法則著者:森川陽太郎
出版社:かんき出版
従来ありがちな前向き・ポジティブ路線の自己啓発書の「逆」を行く、「OKラインメソッド(目標は低くして、小さな成功を積み上げて自信を得る)」で年間1200件のメンタルトレーニングを指導している著者が、「しなくてはいけないこと」を「やりたいこと」に変える、気持ちの整理術を公開。
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