本・書籍
2019/9/18 6:00

2045年に本当に「シンギュラリティ」は起こるのか?――AI神話の虚妄を暴く注目の1冊

通訳。証券アナリスト。教員。ファイナンシャルプランナー。そして画家。いずれもある程度以上のレベルの技能や資格が必要となる職業だ。しかし、すべてが西暦2045年までに「機械にとってかわられる職業」として挙げられている。

 

シンギュラリティとは

シンギュラリティ―技術的特異点―という言葉を耳にすることが多くなった。平たく言うなら、「人間よりも人工知能の方が賢くなるタイミング」ということになる。人間の能力が機械に凌駕されるポイントを意味する。

 

2年前の春の話。日本を代表するミステリー専門誌の編集長がアメリカのヒストリーチャンネルの番組にゲスト出演した時、お供をした。その時通訳をしていた女性が、こんなことを言っていたのを思い出す。「私も、いまに仕事がなくなって困るでしょう」

 

いやいや、そんなことはないでしょう。筆者は何の疑いもなくそう思った。しかし今、彼女の言葉にこれ以上ないリアリティを感じている。

 

ポケトークという機械がある。ネットに接続して使う、いわゆる翻訳機だ。既存の機械翻訳サービス程度だろうと思い込んでいたのだが、実際手にして驚いた。少なくとも英語の完成度はスゴい。観光目的の海外旅行なら、十分すぎるだろう。

 

 

進化し続けるAI

AIの進化は目ざましい。特にここ10年くらいはものすごい勢いで加速している。2016年にはショートショート・短編小説文学賞「星新一賞」でAIが書いた小説が1次審査を通過し、レンブラントのタッチがAIによって完全に再現された“新作”絵画が発表された。2018年は囲碁・将棋・チェスで世界トップの実力に達し、三大対局ゲームで王者の地位を手にしたことが報じられた。

 

イーロン・マスクのテスラモーターズは「人間が運転するよりも安全性を大幅に向上する」ことができる完全自動運転機能対応のハードウェアを搭載したモデルをすでに販売している。この技術に関しては、日本の国土交通省も認可の方向で話を進めているようだ。

 

このように、シンギュラリティ到来が既成事実化している状況に真っ向からぶつかっていく本がある。“虚妄”という響きが強めなキーワードのタイトルに心惹かれ、読んでみることにした。

 

 

AI神話は虚妄なのか

虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』(ジャン=ガブリエル・ガナシア著、伊藤直子 他・訳/早川書房・刊)の立脚点は明白だ。

 

たとえ、人類の技術的大転換によって予告されている結果が、驚異的であると同時に不快で、人によってはショッキングなものであり、しかも、これだけは持っていたいと願うであろう人間の理念や、多くの人々が愛着を持つ自由という概念を拒否するものであったとしても、それを主張する者たちの知的・社会的正当性に鑑みれば、それらを吟味せずに切り捨てることはできない。

『虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』より引用

 

シンギュラリティ?  根拠となる事実はあるかもしれないけど、実際にまだ来ていないし、ピンポイントな形で特定できないものにザワザワすんな。そう読めてしまうのは筆者だけだろうか。

 

だからこそ、われわれはここで、まず彼らが拠り所にする根拠を解明し、それから、それらの意味合いと真実味、倫理や政治との関わりについて、議論することにしよう。

『虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』より引用

 

だから、なんだかんだ言うけど、これまで出揃ってるところを拾いまくって、ディスりまくってやる。そう読めてしまうのは、やはり筆者だけだろうか。

 

 

シンギュラリティは訪れるのか。それはいつなのか

全体の構成を見てみよう。

 

第1章 状況は切迫している(らしい)

第2章 技術的特異点

第3章 指数関数的な爆発

第4章 コンピュータは自律できるか

第5章 現代のグノーシス

第6章 来るべき未来

第7章 シンギュラリティと終末論

第8章 偽りの人類愛

 

この本のコアとなる部分は、第2章の「シンギュラリティが訪れる時期」という項目において過不足なく語られていると思う。

 

シンギュラリティはすぐに訪れるだろう。あとは年数の問題だけだ。では、いったいそれはいつなのか。それについては、科学者の間でも一致した見解はない。たとえばビル・ジョイは、二一世紀の初頭であると述べているが、具体的な年については触れていない。ヴァーナー・ヴィンジは二◯二三年だと予測した。レイ・カーツワイルは、より具体的にかつ厳密に、そのもう少しあと、一番早かったとして二◯四五年にシンギュラリティが訪れると予測している。

『虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』より引用

 

ほーら。現代科学のフレームワークの中でも、シンギュラリティと呼ばれるものが来る時代についてさえコンセンサスができていないじゃないか。二十一世紀の初頭はもうきちゃったし、東京オリンピックの3年後にシンギュラリティ的なことが起きるとも思えない。じゃあ、もう2045年に賭けるしかないね。

 

そういう思いに事実を紐づけして、マインドマップのように拡大していく構成が感じられる。

 

 

対抗神話

シンギュラリティがもたらすものは、人類にとってディストピアに違いない――。今の世論はそういう意見が圧倒的だ。あまりにも多くの人がシンギュラリティ既定路線論を丸呑みにしているのも事実だ。

 

もちろんジャンルは全く違うし、用いられる言葉も語られ方も違うのだが、この本を読みながら「フリースタイルダンジョン」のラップバトルのシーンを何度も思い浮かべた。

 

内容はものすごく専門的だ。でも、読みやすい訳のおかげで誰もが接しやすい一冊になっている。一般人は都市伝説的な響きが否定できないながらも、シンギュラリティ信奉が圧倒的マジョリティを占める風潮の中、対抗神話的な本としての位置づけが揺らぐことはないだろう。

 

 

【書籍紹介】

虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る

著者:ジャン=ガブリエル・ガナシア
発行:早川書房

「2045年、AI(人工知能)は人類を凌ぐ知性を獲得する」――著名な科学者や企業家が提唱する「シンギュラリティ(技術的特異点)」の到来は、科学的根拠の乏しい「おとぎ話」にすぎない! では、AI開発に巨額を投じる一方でシンギュラリティ仮説にもとづきAIの脅威を触れまわる、GAFAらメガテック企業の野望とは? フランスの哲学者が放つ警告。

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