本・書籍
2023/1/27 21:30

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』は”いざ”という時の「お守り」になる1冊

筆者は、すでに両親を亡くしている。まず父親が亡くなり、その2年後に後長く入院していた母親が亡くなった。

 

 

ゆっくり悲しむ時間なんてない

筆者は両親と同居していなかった。なので母親の入院後、父親は行政用語で形容するなら独居老人状態だった。比較的頻繁に電話連絡はしていたのだが、死亡時の取り扱いはいわゆる孤独死だったので、警察からも話を聞かれることになった。母親は数年間意識がない状態のまま入院していて、たまたま建て替えを間近に控えていた病院に遺体安置設備がなかったため、すぐに葬儀社の手配をしなければならなかった。

 

年老いた父母が亡くなる時はゆっくり悲しむ時間がないとよく言われるが、あれは本当だ。まずは遺体安置と葬儀社の手配をして、それと同時にお通夜から告別式の段取りをして、その直後に死亡届をはじめとする公共機関への届け出をこなし、同時進行で金融機関まわりの手続きを進めなければならない。ありとあらゆる種類の手続きが押し寄せてくる。

 

すべきことが淡々と示されている本

前もって知識があれば何のことはないのかもしれない。しかし、いつ来るわからない事態のために万全の備えを整えておける人はほとんどいないだろう。リアルな感覚でとらえることができない状態に対する知識を蓄積しておくにはどうしたらいいのか。この原稿では、持っているだけで安心できる感じがする『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』(ワン・パブリッシング刊)を紹介したい。目につくところに置いておいて「いざとなったらこれを読めばいい」というお守りのような役割を果たしてくれるにちがいない一冊だ。

 

 

父親の時はまったく意外で、心の準備なんて全くできていない状態だった。母親の時はなんとなく覚悟もできていたし、変な言い方になるが父親の時にリハーサルができていたはずなんだけれど、それでもかなり慌てた。この本は、誰もが迎える身近な人—やはり親ということになるのだろう—の死に際してしなければならないことを淡々とリストし、具体的に説明してくれる。

 

「しなければならないこと」と「実際にしたこと」

目次を見てみよう。

 

1章 葬儀と法要
2章 届け出と手続き
3章 遺産相続の手続き
4章 お墓の手続き

 

体験者—しかも2度—である筆者はまず、章タイトルだけ見ながら「実際にしたこと」のリストを作り、答え合わせのようにして各章の項目を追うという読み方をしてみた。正解率は8割。2回経験しているのに、細かいところを忘れていた。しなければならないことは本当に多いのだ。知らないことがありすぎたという事実も、実体験として特に強調しておきたい。この本は、そういう部分をかなり助けてくれるはずだ。

 

とても役立つリアルVOICE集

冒頭の見開きページにタイムスケジュールが示されている。まずこれを見てなんとなく全体の流れをつかむのがいいだろう。ここに収録されている情報だけでも、知ると知らないとでは大違いだ。思い出したのは、3か月以内にこなさなければならない手続きが特に多かったことだ。冒頭でも書いたのでくどくなるかもしれないが、ゆっくり悲しむ時間なんてまったくない。すぐに手続きに忙殺される。

 

「リアルVOICE集」もとても役だつコラムだ。いくつか紹介しておこう。

 

父に認知症の気配を感じた時点で、講座や印鑑の場所などを教えてもらい、一緒に管理していた。そのため、死後は慌てることなく、各種書類等を届け出ることができた。遠慮せず、生前に父の財産についても聞いておけたのもよかったと思う(北海道・61歳女性)

 

健康保険や年金など、手続きごとにいちいち役所に足を運んだ。窓口はいつも混雑しており、場合によっては何時間も待たされることも……。役所での手続きに精神的にも身体的にも疲れてしまった。(神奈川県・50歳女性)

 

父が亡くなった後の手続きが忙しく、相続放棄の手続きをし忘れてしまい、多額の借金を引き継がなければならなくなった。相続放棄ができる期間は意外と短いので、もっと前から調べて、弁護士などに相談しておけばよかった。(神奈川県・70歳男性)

 

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』より引用

 

淡々とあるための準備を整える

各章の終わりに示されている素朴な疑問もリアルで実用的だ。トラディショナルなものから、いかにも今日的なものまでが網羅されている。

 

・「香典返し」の品はどのくらいの金額のものを用意すればよいですか?

・両親が亡くなり空き家になってしまった実家。モノであふれて整理できないのですが…

・父が亡くなり、母が財産のすべてを相続すると後々大変だと聞きました。本当ですか?

・夫の先祖代々のお墓ではなく、自分の実家のお墓に入りたいのですが…

『身近な人が亡くなった後の手続きのすべて』より引用

 

今日的といえば、とじ込みBookとして収録されている「おひとりさまの終活と死後の備えガイド」も超実用的。子どもがいない筆者夫婦にはかなり役立ちそうだ。人生100年時代という現代であっても、いざという時にあるようでないのが時間。すべての人に確実に訪れる瞬間を迎えても淡々としていられるよう、この本をながめながらなんとなく蓄えておく知識がものすごく役に立つことはまちがいない。