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歴史
2023/11/5 10:30

藤原道長の裏日記を読み解く! 日記から見えてくる平安貴族のリアルな姿とは~注目の新書紹介~

2024年の大河ドラマ『光る君へ』の舞台は平安時代。紫式部と藤原道長の特別な絆を描くということで早くも話題になっています。新書は流行りに敏感で、朝ドラや大河ドラマのテーマに寄せて、各出版社から本が出ることもしばしば。あらかじめ新書で予習をしておけば知識も増える上に、ドラマをより一層楽しむことができるわけです。

大河ドラマの時代考証担当者が平安貴族の実像を語る

今回紹介する新書は、平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像』(倉本一宏・著/NHK出版新書)。著者の倉本一宏さんは歴史学者で、国際日本文化研究センター教授。専門は日本古代史、古記録学。2024年の大河ドラマ「光る君へ」の時代考証を担当しています。『藤原道長の日常生活』(講談社現代新書)、『蘇我氏―古代豪族の興亡』(中公新書)など著書多数。本書は倉本さんが出演したNHKラジオ番組の内容がベースとなっています。

 

出席者をチェックする道長は心配性!?

日記というと『紫式部日記』など女性が仮名で書いたものをイメージしますが、本書は藤原道長『御堂関白記』、藤原行成『権記』、藤原実資『小右記』という、同時期に朝廷に仕えた3人の貴族が漢文で書いた日記を取り上げています。

 

これほど多くの階層の人々が日記をつけ、それが現存している国は日本だけです、と倉本さん。平安時代には天皇、皇族、貴族が日記をつけていました。日記の大きな目的は宮廷行事の内容や段取りを記録しておくため。子孫は先祖の日記を見て、行事や儀式の手順を紙に写し、手に持つ笏(しゃく)の裏に貼ってカンニングペーパーにしていたのだとか! 今でいう業務日報のような感覚かもしれませんが、もちろんそこには個人的な心情も綴られていて、人間関係や裏事情が透けて見えます。

 

第一部は「道長は常に未来を見ていた 藤原道長『御堂関白記』」。千年前に栄華を極めた藤原道長の日記『御堂関白記』は、一部が直筆で残っています。

 

直筆なので、特に墨の濃淡や誤字の消し方などから、わかることも多いのだそう。また、道長の日記は紙の表裏で内容が書き分けてあるのも特色、と倉本さん。表に出来事や行事の概要、裏には儀式に誰が来たか、どのようなお土産をあげたかなどが書かれているとのこと。

 

「この人はなぜ来なかったのか。俺に含むところがあるのか」と悩みが綴られていることもあるそうで、ちらっとSNSの裏垢を連想しました(笑)。

 

政権の座について5年目となる長保2年の元旦の日記には、「元旦の儀式で見参簿(出席簿)を一条天皇に奏上しようと思ったら、他の公卿たちは皆、帰ってしまった」とあり、「自分が儀式を主宰する人間としてふさわしくないのであろうか」と書き留めている道長。倉本さんは、まだ道長は35歳、政権トップという座に自信が持てずにいたようだと分析しています。藤原道長が身近に思えてきますね。

 

安倍晴明を呼んで占ってもらったり、娘の懐妊祈願のために参詣旅行をしたり、友人と歌を送り合ったり、平安貴族の生活スタイルが伝わってきます。

 

第二部は妻や子を亡くして悲しみにくれる心情を生々しく書き記した藤原行成、第三部は出世レースに敗れても道長にへつらわず、道長主催の儀式にもあまり参加しなかった藤原実資。いずれも直筆の日記の写真が多数掲載されていて、字からそれぞれの人柄が伺えます。

 

一冊読み終わると、今まで見えにくかった、平安時代に生きた人々の姿がくっきりと浮かび上がります。深い知識、見識に根ざした歴史本ですが、語り口は柔らかく重苦しさを感じさせないのが本書のいいところ。出世したライバルへの恨み言、マナーを守らない者への苦言など、今の時代にも普通に言われていることが、千年前にも記されていたという面白さ。平安時代の日記、気になりませんか?

 

【書籍紹介】

平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像

著:倉本 一宏
発行:NHK出版

歴史の主役としては光の当たらない平安貴族。だが、武士が台頭し不安定化する世情にあって、彼らは国のために周到に立ち回り、腐心しながら朝廷を支えていた。NHK大河ドラマ「光る君へ」の時代考証も務める著者が、知られざる平安貴族の実像を、藤原道長『御堂関白記』、藤原行成『権記』、藤原実資『小右記』という三つの古記録から複合的に明らかにする。

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【プロフィール】
卯月 鮎
書評家、ゲームコラムニスト。「S-Fマガジン」でファンタジー時評を連載中。文庫本の巻末解説なども手がける。ファンタジーを中心にSF、ミステリー、ノンフィクションなどジャンルを問わない本好き。