4. ティチーノ − スイスのなかのイタリアはメルローが主流 −
スイスワインの魅力は、なんといってもその多様性にあります。スイス南部、イタリア国境に接するティチーノ州は、中世にはミラノ公国によって支配されていたこともあり、地理的にも歴史的にもイタリアに近い文化圏の地域です。いうなれば、イタリアの“もうひとつの州”がスイスにあるようなもの。スイス国内では唯一イタリア語を公用語としている州でもあり、ピザやパスタ、ポレンタやオッソブーコなど、ミラノとよく似た料理が現地では親しまれています。
ワインは、というと周囲のロンバルディアやピエモンテと比較してもなんとも個性的な州で、栽培されるブドウ品種の80%以上がメルローというのは、ボルドー以外では世界中でこの地域くらいのものでしょう。
元々は土着品種(今でも赤ワイン用品種ボンドーラなどがわずかに残る)が栽培されていたということですが、フィロキセラ禍によってブドウ畑が壊滅的な打撃を受けたのちの1906年、ボルドーから持ち込まれたメルローが主流となり、秀逸な造り手の物はポムロールとも比べられるエレガントで奥行きのあるワインが造られています。そして珍しいのは、黒ブドウであるメルローから造られる白ワイン「メルロー・ビアンコ」。白ブドウ品種がほとんど栽培されていないことから、1980年代に造られるようになったこの黒ブドウの白ワインは、今ではティチーノのメルロー種の1/4が白ワインになるほどで、この地域独自の新しい個性として定着しました。
ティチーノの穏やかな地中海性気候に育まれるフランス原産、イタリア文化圏のメルロー種は柔らかな酸に黒ブドウらしい豊かな果実味を持った唯一無二のワイン。北イタリアの料理と合わせて楽しむ、なんていうのも、スイスワインの多様な魅力のひとつではないでしょうか?
Castello di Morcote(カステロ・ディ・モルコーテ)
「Bianco 2019(ビアンコ2019)」
6800円