燃料費高騰などの影響で輸入ワインの値上げが叫ばれる一方、日本ワインは注目度を高めています。それは価格的な利点に加え、日本ワインのクオリティが年々高まっているから。そんな日本ワインのふるさとであり、日本一のワイン産地が山梨県勝沼市です。
市内には30を超えるワイナリーがあり、見学ツアーを行っているところも。今回は、なかでも有名かつ、2022年5月にリニューアルを果たした「シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー」のツアーを紹介します。
現存する日本最古のワインがここに
同ワイナリーでは主に2つのプランがあり、本稿で紹介するのは所要時間約90分でじっくり体験できる「勝沼ディスカバリーツアー」(3000円)。もうひとつは、より贅沢かつ上級者向けの「勝沼ワインメーカーズスペシャルツアー」(1万円/約100分)となります。
両方ともワインテイスティング付きで、「勝沼ディスカバリーツアー」では4種の飲み比べが可能。まずはワイン資料館で、動画やパネルを参照にメルシャンの理念や歴史を学ぶところから始まりました。
メルシャンは1877(明治10)年に創業した、日本初の民間ワイン企業「第日本山梨葡萄酒会社」がルーツ。同社の伝習生としてフランスに派遣された高野正誠氏と土屋龍憲氏は、日本におけるワイン造りの偉人としても有名です。
※宮崎葡萄酒:「大日本山梨葡萄酒会社」の共同創業者・宮崎市左衛門氏の子息である光太郎氏が設立
メルシャンの最近のトピックスとしては、2020年にワイン資料館が、文化庁より日本遺産に登録。また「シャトー・メルシャン 椀子(まりこ。長野県上田市)ワイナリー」が2020~2022年と3年連続で、「ワールド ベスト ヴィンヤード」に日本で唯一ランクインし、アジアNo.1のワイナリーとしても名声を高めています。
次は過去の醸造設備や古樽などの現物資料と写真パネルを参照しつつ、昔のワイン醸造がどのように行われ進化していったかを学びます。
なお、上階のフロアには現存する日本最古のワインなどが展示。こちらは高野正誠家の蔵に眠っていた1879年産のヴィンテージで、1976年に偶然発見されたそうです。100年以上経っていたものの保存環境がよかったため、中身も健全とか。
時季によってはぶどうの味見ができる
次はワイナリー敷地内の、多種多様なぶどうの木が並ぶ圃場(ほじょう)「祝村(いわいむら)ヴィンヤード」へ。ここには白黒約20種のぶどうが植えられており、生育状況によってはぶどうの実を味見することもできます。
なお、日本では1本の木から多く収穫できるなどの利点がある棚式栽培(頭上ほどの高位置で育てる)が主流ですが、ここでは収穫量が少ないぶん凝縮感に優れたぶどうが育つ、欧州で主流の垣根栽培が採用されています。
年間約500トンのぶどうがここでワインになる
ここからはツアーの後半。最初の敷地を出て3~4分ほど坂を下り、醸造現場へ。メルシャンは勝沼のほか椀子、桔梗ヶ原(ききょうがはら。長野県塩尻市)と計3つのワイナリーがあり、ここはそのうち最大の生産量を誇ります。
ツアー限定で見学できる施設は数か所。まずは18~21℃の冷蔵空間に大型のステンレスタンクが並ぶ「Bセラー」内を通って、「レセプション(仕込み場)」へ。ここでは山梨のほか、秋田や福島といったヴィンヤード産ぶどうの仕分けなどを行うほか、常温の発酵タンクもあります。
次いで、産地や区画、ぶどう品種ごとにステンレスや木桶など様々なタンクが置かれた「Aセラー」。また、スタンダードタイプのワイン原酒を貯蔵するための巨大なワイン樽が並ぶ「Fセラー」を見学。各セラーは、ぶどうの産地や品種、ランクなどによって分けられています。
「Fセラー」の見学後は、敷地内の「ビジターセンター」に移動。内部の「地下セラー」へ行くと、そこには500~600もの樽が貯蔵されていました。なお、ここには特別なプライベート空間「オルトゥスルーム」が併設。用途の一例として、1万円のプラン「勝沼ワインメーカーズスペシャルツアー」ではテイスティングルームとして使われるそうです。
テイスティングは五感を使ってわかりやすく学べる
「勝沼ディスカバリーツアー」の最後は、ワイン資料館に戻ってお待ちかねのテイスティング。白赤2種ずつの計4種を試飲し、この日は「岩出甲州きいろ香 キュヴェ・ウエノ 2021」「北信シャルドネ キュヴェ・アキオ 2019」「穂坂マスカット・ベーリーA シングル・ヴィンヤード 栽培責任者 横内栄人 2018」「塩尻メルロー 2018」が提供されました。
ユニークなポイントのひとつが、「○○の香りを感じ取ろう」と、各ワインの特徴的な香りを生駒さんが解説しながら手ほどきしてくれるところ。「ワインのテイスティングノート、よくわからないんだよね」という人は、これを体験するとコツがつかめるはずです。
テイスティングの4種はそれぞれ、同色のワインでもキャラクターが異なるタイプで組み合わせてくれるので、香りの違いを感じやすいのも特徴です。
「北信シャルドネ キュヴェ・アキオ 2019」は南国果実やバニラ、アーモンドのニュアンス、「穂坂マスカット・ベーリーA シングル・ヴィンヤード 栽培責任者 横内栄人 2018」はストロベリーにクリーミーさが合わさった明るくエレガントな果実味。そして「塩尻メルロー 2018」は、ブルーベリーやカシス風味の奥にごぼうなど、根菜類の要素が見え隠れ。
なお、ワイナリーで食事とともにペアリングを楽しみたいという人は、ツアーの申し込みとは別に「ペアリングBOX」を予約しましょう。こちらは老舗グランメゾン「銀座レカン」の元シェフ・ソムリエが店主を務める勝沼の人気フレンチ「ビストロ・ミル・プランタン」特製となり、ワインによく合う料理が少量のポーションで詰め合わせになっています。
冒頭で輸入ワインの高騰に触れましたが、2021年のボージョレ・ヌーヴォーも同様に高くなっていて、そのぶん日本のヌーヴォー(新酒)に注目が集まっています。そこで、もし今季同ワイナリーを訪れるなら、お土産には「シャトー・メルシャン 日本の新酒」がオススメ。
ここまで「勝沼ディスカバリーツアー」を紹介しましたが、じっくり90分学べるうえに4杯のテイスティング付きで3000円という料金は破格でしょう。ビギナーにこそオススメ(上級者の人は1万円のほうへ)といえる同ツアー。ワイン好きで未踏の人はぜひ予約を!
【WINERY DATA】
シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー
住所:山梨県甲州市勝沼町下岩崎1425-1
アクセス:JR中央本線「勝沼ぶどう郷駅」からタクシーで約8分、同「塩山駅」からタクシーで約10分
営業時間:ワイン資料館9:30〜16:30、ワインギャラリー・ワインショップ10:00~16:30、テイスティングカウンター10:00~16:00(L.O.)
定休日:年末年始
【フォトギャラリー(画像をタップすると閲覧できます)】