Vol.114-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはアップルが発表した、独自のCPU技術を駆使したMac Studio。本製品はどれくらい高性能なのかを探る。
アップルが3月末に発売したハイエンドMacである「Mac Studio」は、高性能であることがなによりも特徴だ。
実際ベンチマークをとってみると、ほかのMacに比べてCPUコア・GPUコアが多い分、性能はストレートに向上している。
ただ気になるのは“Windowsと比較してどうなのか”ということだろう。これは意外と難しい。
特に大きく違うのがGPUだ。WindowsとmacOSでは、グラフィックの処理がかなり違う。同じGPUであっても、Windowsで使う処理に特化したアプリケーションと、macOSに特化したプリケーションとでは、パフォーマンスがかなり異なる。
アップルは、iPhone/iPad/Macでのグラフィック処理に「Metal」という技術を使っている。当然、アップル製品に使われるプロセッサーはすべて、Metalに特化した作りになっている。
だが、Metalはほかのプラットフォームでは使われていない。ほかのプラットフォームと同じように評価するには、Metal以外でテストをするか、Metalに最適化したアップル向けのソフトと、Metal以外に最適化したWindowsなど向けのアプリをそれぞれ用意し、「同じ用途・同じ機能のアプリ」として比較する必要がある。
Mac Studioが発売されて以降、「アップルがいうほど速くないのではないか」という記事も出回っているが、それらは必ずしも間違いではない。だが、ポイントはちょっとズレている。Macに最適化されている訳ではない、Metal向けではないテストで比較してしまうと、Mac Studioといえど性能は出しきれないのだ。
そうすると、実際にはなにで評価すべきか? やはり、WindowsとMacで両方にあるソフトで、作業時間などで比較するのが適切だろう。
筆者の手持ちのデータで言えば、Mac Studioは確かに速い。Macの中では間違いなくトップの性能である。一方、世の中に存在するすべてのWindows PCよりも速いのか……というと、そうもいかない。
特にGPUについては、Mac StudioのGPUは「ハイエンドGPUと同等」ではあるものの、NVIDIAやAMDの最高性能のGPUの方が性能は上、という部分も多い。
ゲームや機械学習向けには、Windowsのほうが優れている部分もあるだろう。それは、開発環境やニーズが影響する部分も大きい。
一方で、CG制作などの場合だと、話が少し変わってくる。
Mac Studioに使われる「M1 Ultra」は、最大128GBのメモリーを、CPUとGPUが共有する構造になっている。極論、最大のビデオメモリーは128GB、とも言える。もちろん実効ではもっと少ない。とはいえ、100GBを超える容量のデータをGPUが一度に扱うこともできるのは間違いない。
Windowsで使われる外付けGPUの場合、GPUが使うビデオメモリーはGPU側についている。その結果として、Windows PCのビデオメモリーはゲーム用で十数GB、ワークステーション用でも32GB程度となっている。GPUが処理する場合、データをストレージからメインメモリー、メインメモリーからビデオメモリーへと転送する必要があるため、処理効率も落ちやすい。
ゲームなどではそこまで巨大なデータは使わないが、開発環境やCG制作では、巨大なデータを扱うこともある。そのときの効率では、結局Mac Studioのほうが良い……という可能性は高い。
さらに、Mac Studioは放熱効率が高く、フルパワーで動いても動作音が静かだ。作業環境として望ましいのは間違いない。
というわけで、性能評価は“場合による”のである。
では、Mac Studioはいつまで最高性能のMacでいるのだろうか? その点を次回予測してみたい。
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