デジタル
2023/1/6 20:30

【西田宗千佳連載】なぜSurface Pro 9ではいつもと違うCPUを採用したのか

Vol.122-1

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはマイクロソフトが自社PCで採用し始めたARM系CPUの話題。これまで主流だったx86系と異なる点は何か。

↑マイクロソフト「Surface Pro 9」。実売価格16万2580円~。13インチの「PixelSense ディスプレイ」を搭載した2 in 1のタブレットPC。CPUはIntel Evoプラットフォームに対応した第12世代Intel Coreプロセッサー、もしくは5G接続を備えたQualcomm SnapdragonベースのMicrosoft SQ3プロセッサーから選ぶことができる

 

エミュレーションによりCPUの垣根を取り払う

2022年秋にマイクロソフトが発売したPC「Surface Pro 9」は、いままでの同シリーズとは少し違う点がある。

 

PCといえば、インテルやAMDなどの「x86」アーキテクチャのCPUがメイン。Surface Pro 9にも、インテルのCore iシリーズを使ったモデルがある。

 

だが今回はいままでと違い、“x86系だけ”ではない。むしろ先に発売されたのは、ARM系アーキテクチャを使った「SQ3」を採用したモデルだ。今回マイクロソフトは、同じSurface Pro 9というPCで、x86系のモデルとARM系のモデルを両方用意し、どちらもメインストリームで販売されている。

 

本来CPUのアーキテクチャが違うと、同じソフトは動かない。だが、CPUの違いを乗り越える「エミュレーション技術」が進化したことにより、話はずいぶん変わってきた。Windows 11にはx86版もARM版もあり、特にARM版の上では、x86向けに作られたWindows用ソフトがエミュレーションで動作するようになっている。

 

ゲームやシステム系ユーティリティなど、一部動かないソフトももちろんあるのだが、大半のソフトがそのまま動作する。また、マイクロソフトのオフィスやアドビのクリエイター向けツールなどには、ARM版も用意されるようになっている。

 

通信に適したARMをマイクロソフトが評価

なぜARM版が必要なのか? このへんは少々事情が複雑だ。

 

スマートフォンやタブレットではARMが主流であり、省電力性能や通信連携については、スマートフォン由来の技術を使ったプロセッサーが有利ではある。Surface Pro 9の場合、ARM版で採用された「SQ3」というプロセッサーは、スマホで大きなシェアを持つクアルコムとマイクロソフトが共同開発したものになっている。そのため、SQ3搭載モデルは高速の5Gでのネットワーク接続機能を標準搭載している。

 

5G接続はインテルCPUでも搭載はできる。また、省電力性能も、高い負荷で処理するならARM系の方が低いというわけでもない。だが、“製品にまとめる”と現状、ARM系が発熱のリスクは低く、動作時間が長く、そして5G機能を搭載しやすい。

 

アップルはインテル製CPUからARM系の自社プロセッサー「アップルシリコン」へ移行して、ノートPCとしての完成度を大きく上げた。アップルはこの2年間で、自社プロセッサーがMacにも向いていることを明確に証明した。あまり発熱せず、それでいて必要時には高い性能を出せるため、インテルCPUを採用していたときより、Macの評価は上がっている。

 

だが、WindowsではそこまでARM系プロセッサー搭載モデルは成功していない。理由は主にコストパフォーマンスだ。インテル、もしくはAMDのx86系のほうが性能は良く、価格も安いと言えるからだ。

 

とはいえ、マイクロソフトが“自社PCで同列に扱う”ほど評価している、ということが見えてきた。大きな変化の兆しだ。

 

では、今後インテル系CPUはどうなるのか? クアルコムなどのプロセッサーはどう性能を上げていくのか? そのあたりは次回以降で詳しく解説する。

 

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