デジタル
2023/1/1 19:30

2022年はソーシャルVRで文化の醸成が加速、2023年はインフルエンサーが登場するかも

2021年頃からインターネットを中心に注目を集めてきた「メタバース」というキーワード。

 

アバターの姿でネットのバーチャル空間に集まり、世界中の人と交流できるという内容で、なかでもVR機器を装着して別世界に行ったような体感が得られる「ソーシャルVR」(VRSNS)の新しさに注目が集まっている。そんなメタバースの2022年を振り返り、2023年の可能性を予測していこう。

 

同じメタバースでも全然違う「ソーシャルVR」

まずは体験したことがない方に向けて、ソーシャルVRについてもう少し前置きを語っておきたい。キーワードは「身体性」だ。

 

メタバースという言葉が指す範囲はとても広く、バトルロイヤルゲームの「フォートナイト」やオンラインゲームプラットフォーム「ROBLOX」といったよく挙げられるサービスだけでなく、「FF14」のようなMMORPG、「ZEPETO」をはじめとするアバターを使うソーシャルアプリなども含める場合がある。

 

ソーシャルVRもその中の一つで、海外なら「VRChat」や「Rec Room」、国産なら「Cluster」「バーチャルキャスト」「VARK」「XR CLOUD」「Vket cloud」などさまざまなサービスが登場してきている。

↑VRChatのWebサイト

 

ジャンルとしての始まりはここ1、2年のメタバースムーブメントより古く、安価なVR機器が大々的に市販された2016年の、いわゆる「VR元年」前後に立ち上がっている。2021年10月にFacebookが社名をMetaに改名し、メタバースに本腰を入れるという発表のインパクトもあってか、やってることは同じだがラベルだけVRからメタバースに変わったという印象だ。

 

そんなソーシャルVRが、ほかのメタバースと大きく異なるのは、自分=アバターそのものという感覚を得られる点にある。

 

VR機器とモーションキャプチャーが現実とアバターの体の同一化を加速

VR機器をかぶったことがない人に説明しておくと、HMD(ヘッドマウントディスプレイ)を装着すると視界の端まですべてCGの世界で覆われ、頭を上下左右に振ると、そのまま自然に周囲を見回すことができるようになる。コントローラーを持った両手の位置にはCGの手が出現しており、目の前のものを自分の手で掴んだり動かしたりすることが可能だ。

 

つまり、今までタッチパネルやゲームコントローラー、キーボードとマウスなどを使っていた操作が、自分の体を使って現実世界と同じ感覚で指示できるようになる。たとえば、ソーシャルVR内で知り合いを見つけたら手を振ってアピールしたり、握手やハグで親密さを伝えたり。リアルでは目の前にいないはずなのに、会っている感覚がある。この非言語コミュニケーションを多分に含む交流を自然にできるのが、ソーシャルVRならではの強みだ。

↑たとえばこのように複数人で集まって打ち合わせなども可能

 

さらに民生用のモーションキャプチャー機器の登場が、現実とアバターの体の同一化を加速させる。通常、VR内におけるユーザーの姿勢は、頭部のHMDと両手のコントローラーの3点から推測している。つまり下半身は「多分こんな感じだろう」と予測した状態なのだが、たとえば足を組んだり、寝たりするなどの反映されにくい動きもある。リアルと同じ感覚で動かせるアバターだからこそ、きれいに見せたい……。

 

そこで腰や下半身にモーションキャプチャー機器を装着することで、全身の動きをアバターに反映できるフルボディトラッキング、通称「フルトラ」を導入するユーザーも出てきた。元来、モーションキャプチャーというのは完全に業務用のものだったが、キャラクターの姿で動画投稿や生配信を行なうVTuberのムーブメントもあり、2017年の「VIVEトラッカー」あたりから数万円で購入できる製品も登場してきた。

↑2021年に登場した最新のVIVEトラッカー(3.0)(プレスリリースより)

 

まだまだ嗅覚や味覚は得られないものの、物語の中で夢見られてきたフルダイブ型のVRに近いものに触れられる。2022年においてメタバースはさまざまな角度で語られているが、このソーシャルVRの体験の新しさは外せない要素になる。

 

企業はメタバース上のイベントが目立つ。リッチな体験をオンラインで提供

さて、2022年のソーシャルVRは、地固めの時期だったと思われる。新しいハードやサービスが大々的にヒットしたというよりは、企業発とユーザー発というふたつの矢印から文化の熟成が進んだ印象だ。

 

企業発では、メタバース上でのイベントが引き続き目立った。2018年よりVR法人のHIKKYが実施し、世界最大級をうたうメタバース上のイベント「バーチャルマーケット」は、「VRChat」と「Vket Cloud」にて夏と冬の2回開催。この12月に開催した「2022 Winter」では、クリエイターの出展とは別に、パリ、名古屋、札幌を模したメタバースのワールドに、JR東海、ヤマハ、ビームス、大丸松坂屋百貨店など約70の企業がブースを展開した。自社製品の世界観を体感してもらったり、リアルの店舗で働くスタッフがメタバース上で接客したりと、来場者にブランドをアピールしていた。

↑ビームスの出店は5回目。なお、この画像は開発段階のもの(プレスリリースより)

 

同じVRChatでいえば、日産が電気自動車の「日産サクラ」、モスバーガーが「月見フォカッチャ」の発売に合わせて、VRChat上で独自のワールドを用意してPRする展開もあった。

 

国産メタバースである「clsuter」では、KDDI/一般社団法人渋谷未来デザイン/一般財団法人渋谷区観光協会が2020年より展開する「バーチャル渋谷」のイベントが、ゴールデンウィークやハロウィンに合わせて実施されていた。

↑「バーチャル渋谷 au 5G ハロウィーンフェス 2022」(プレスリリースより)

 

コンテンツホルダーのメタバース立ち上げも目立った。具体的にいえば、テレビ朝日の「光と星のメタバース六本木」、テレビ東京の「池袋ミラーワールド」、小学館の「S-PACE」(スペース)など、枚挙にいとまがない。バンダイナムコも2月に発表した中期計画で150億円規模をメタバースに投資すると発表し、「ガンダムメタバース」の構想を発表している。

 

たとえば、商品の概要や値段を調べたかったらWebサイトで事足りるが、生の声や細かい使い勝手を聞きたければ店舗を訪れてスタッフに聞いた方が早い。……といったように、単純に情報を知る以上のリッチな体験をオンラインで提供できるのがメタバースのメリットになる。広い文脈では、イベントや店舗のDXとも言えるわけで、この流れは来年も加速していきそうだ。

 

アバターファッションの販売と購入が加速

ユーザー発では、語りたいことはいろいろあるが、特に注目したいのがアバターファッションにおける経済圏の拡大だ。いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)の流れで、個人や小規模チームがつくったアバターやファッション小物がオンラインで販売され、それをユーザーが購入して着用して楽しむという流れが加速した。

 

ソーシャルVRのUGCの中心にいるのは、おそらくVRChatだろう。VRChatは、当初からアバターやワールドなどでユーザーがカスタマイズできる範囲が広く、それこそ「Blender」などのCG作成ツールでアバターを作り、ソフトウェア開発プラットフォームの「Unity」を介してアップロードして、完全オリジナルな体で活動することができた。そうした背景から、CGやVRのクリエイターを惹きつけてきた。

 

一方で、クリエイター気質ではないユーザーが増えてくると、アバターの体をゼロからつくるのはハードルが高すぎるけど、好みのものを選択して、自分らしくカスタマイズして使いたいというニーズが生まれていく。ここ2、3年でピクシブが運営するオンラインストアサービス「BOOTH」にて、CGクリエイターがアバターやそのファッション小物を売り、ユーザーが「改変」して使うという流れが強固になってきた。

↑BOOTHのWebサイト

 

5年前なら、オリジナルのCGキャラクターをデータで売るというのはそもそも成立しなかった。元来、こうしたアバターファッション市場は、ゲームのスキンやアバター交流アプリなど、ひとつのサービスに閉じた中で展開されてきたが、オープンになり、UGCのクリエイターが参入できるようになったのが新しい。

 

電通が12月に発表した「メタバースに関する意識調査2022」によれば、15〜26歳の「Z世代」の男性において、「アバターやアバターアイテムの購入」を行なっているのが54.5%、前年の22.6%と比較して2.4倍も伸びている。clusterもユーザーが作成したアイテムを売買できる「ワールドクラフトストア」を今年9月にオープンさせた。

 

ソーシャルVRなら「かわいい」になれる

なぜアバターファッションが伸びているのか。それはソーシャルVRが生活に根付いてきたことの裏付けだろう。

 

前述のように、ソーシャルVRではアバターの体を自分の体として認知させる特性がある。そしてアバターの体は、写真加工アプリで補正するというレベルではなく、文字通り性別や種族を超えてなりたい姿を選べるわけだ。

 

そこでたとえばかわいいアバターをまとえば、男性の体ではなかなか難しい、かわいいという褒め言葉を目の前の人からもらえるし、実際ソーシャルVRの中で写真を撮ってもかわいいと自認できる。ネットでシェアしても注目してもらえて承認欲求も満たされる。そしてモテる。

 

TwitterやInstagramをはじめとするSNSは、自分は誰かにとって価値のある存在だと認められたいという欲望も飲み込んで成長してきた。ソーシャルVRは、その注目の矢印を直接自分の体に向けて、さらには自己イメージを上書きできる点が強みになるだろう。もちろん、単純にかわいくなれたから、かわいいファッションを身につけて楽しくなりたいというニーズもあるだろうが……。

 

2022年は前述のビームスだけでなく、アダストリアがVRChat向けアバターをリリースしたり、フェリシモがクリエイターとコラボしたりと、アパレル企業がメタバースファッションに興味を示した年だった。そしてアバターを美しく動かすモーションキャプチャーに関しても、2023年1月ソニーが「mocopi」(モコピ)を発売するなど、より一般化が加速しそうだ。

↑モバイルモーションキャプチャーデバイス「mocopi」(プレスリリースより)

 

2023年はそうしたアバター周りの土壌が整ったうえで、クリエイターだけでなく、アバターを使いこなすおもしろい人が集まり、ソーシャルVR発のインフルエンサーが増える年になるかもしれない。企業発の動きとともに、こうしたユーザー発の動きも見逃せない。

 

ソーシャルVRに関しては、一度HMDをかぶって体験しないと絶対にその価値がわからない。まだという方は、時代の最先端を知るという意味でも、ぜひどこかで体験しておいてほしい。

 

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