クラシックコンサートを楽しむための最初の心得
とはいえ、クラシック音楽を聴いてこなかった方にとっては、知識がないと聴けないのでは? と不安に感じるかもしれません。そこで、はじめてクラシックを聴く人へ、5つのアドバイスをいただきました。
1.【演目や演奏家について】
コンサートに出かけてみたいけれど、一体何を聴いたらいいのかわからない、という方は、人気のある曲や知っている曲などをきっかけにして演目を選んでみましょう。
「ベートーヴェンなら、第九はもちろん第七番もオススメの曲です。ほかの作曲家でいえば、ラフマニノフの『ピアノ協奏曲第2番』も人気のある定番曲なので、初心者の方も聴きやすいと思います。また、演奏家に着目するのもいいですね。最近世界的に有名になっているアジアのピアニストは、いずれも中国人。ユジャ・ワン、ラン・ラン、ユンディ・リの演奏会があったら、ぜひ見ておくといいでしょう。僕が今注目している演奏家はいずれもヴァイオリニストで、若干9歳の吉村妃鞠(よしむらひまり)さんと、21歳になる服部百音(はっとりもね)さん。たくさんの可能性を秘めた演奏家さんたちですから、今からぜひ注目してみてください」
2.【座席について】
会場にもよりますが、ほとんどの場合において席にランクがあり、どのくらいの席を予約すべきか悩むところです。
「どうしても間近で見たい演奏家であれば別ですが、初めてであれば、どんな席でもかまわないと思います。また、海外旅行に行くことがあれば、一日は現地の音楽に触れる時間を作るのをオススメしたいですね。世界には音楽祭もいろいろあり、より気軽に訪れられます。たとえばイギリスなら、牧場の中にある劇場でオペラを鑑賞できる『グラインドボーン音楽祭』がおすすめ。演目の間の休憩時間になると、牧場にシートを敷いてピクニックしながら食事するんですよ。ドイツの『バイロイト音楽祭』や2020年に100周年を迎えたオーストリアの“ザルツブルク音楽祭”なども、一生に一度は行ってほしいですね」
3.【ドレスコードについて】
“クラシックのコンサートにはドレスコードがある”などと、たびたびSNSなどでも話題にのぼりますが、三枝さんは、どんな格好でも構わない、とおっしゃいます。
「会社帰りに寄られることもあるでしょうし、ドレスコードなんてありません。ただ、どんな格好でも構いませんが、夏は冷房が効いているので薄着だと寒いかもしれません。長時間聴くことを考えて、自分がリラックスでき、温度調節できる服装で行くといいと思いますよ」
4.【拍手について】
クラシック音楽は、楽章ごとに拍手せず、曲がすべて終わってから拍手をするのが一般的です。しかし、その楽章があまりに見事な演奏である場合は、楽章の終わりで拍手が起こることもあるので、混乱してしまうでしょう。
「楽章ごとに拍手をしてはいけないとか、演奏後に余韻を楽しんでから拍手すべきだなどの声もありますが、あまり気にしなくて構いません。いいと思ったら拍手すればいいんです。また反対に、聴いて嫌いだなと思えば、休憩の間に出てしまえばいい。聴き慣れてくると、演奏の良し悪しも見えてくるはずですから、無理に聴かず、つまらなかったと態度を見せるのもいいと思います」
5.【オンライン演奏会について】
コロナ禍でコンサートの場に出かけていくのが難しくなってきたこのご時世ではありますが、オンライン演奏会を行うなど、さまざまな工夫のもとで演奏を聴くこともできます。
「その場で演奏される音に勝るものは残念ながらありませんから、本当であれば、生の演奏を聴いていただきたいです。ただ、そうもいかなくなっていますよね。もしご自宅で演奏を楽しみたい場合は、ぜひイヤホンではなくヘッドホンを使って聴いてみてください。それだけでも臨場感と音の質がずいぶん変わります。また、Wi-Fiの環境が悪かったり、無線だったりすると、音が途切れてしまうこともあるので、有線でつないでおくといいでしょう」
今年の締めくくりに各地で行われるベートーヴェンの第九。三枝成彰さんの語りつきの『ベートーヴェンは凄い!全交響曲連続演奏会2020』をはじめ、さまざまな楽団が演奏するこの機会に、まずは第九からベートーヴェン、そしてクラシック音楽を楽しんでみてはいかがでしょうか?
【プロフィール】
作曲家 / 三枝成彰
1942年生まれ。東京芸術大学卒業、同大学院修了。在学中に安宅賞を受賞。代表作として、オラトリオ「ヤマトタケル」、オペラ「千の記憶の物語」等、映画音楽に「優駿」「お引越し」「機動戦士ガンダム~逆襲のシャア~」「機動戦士Zガンダム」、テレビ番組の音楽に、NHK大河ドラマ「太平記」「花の乱」等、多数。1989年、日本アカデミー賞映画音楽部門最優秀音楽賞を受賞。国際モーツァルテウム財団の依頼で、モーツァルトの未完曲に補筆・完成したことも話題となった。オペラ作品をライフワークとして掲げており、代表作としては1997年5月には、構想に10年近くをかけたオペラ「忠臣蔵」を完成・初演し、各界の注目を集めた。さらに2000年5月には愛知県芸術劇場でオペラ「忠臣蔵」改訂版を再演し、2002年1月には東京新国立劇場にて再演。2004年、プッチーニの「蝶々夫人」を下敷きとした新作オペラ「Jr.バタフライ」を初演、好評を博す。このオペラは2006年、イタリア・プッチーニ音楽祭でも再演された。これは同音楽祭における初の外国人作品の上演であり、プッチーニ以外の作曲家の作品としても初の上演ともなった。2007年、紫綬褒章、2017年、旭日小綬章をそれぞれ受章。また、今年は文化功労者にも選出された。
2003年から毎年行っている『ベートーヴェンは凄い! 全交響曲連続演奏会』の記録をまとめた『ベートーヴェンは凄い!』(五月書房新社)が12月25日に発売予定。