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2022/11/12 6:30

井浦 新「いろんなことが積み重なってたどり着いたので、柴田恭兵さんと対峙するシーンはすさまじいシーンになっている」『連続ドラマW 両刃の斧』

井浦 新さんと柴田恭兵さんがW主演する『連続ドラマW 両刃の斧』が11月13日(日)よりWOWOWプライムほかで放送・配信がスタート。人生の師と仰ぐ先輩刑事(柴田恭兵)と対立する立場となる川澄成克を演じた井浦さんが、役作りや撮影中のエピソードを語ってくれました。

 

井浦 新●いうら・あらた…1974年9月15日生まれ。東京都出身。是枝裕和監督の『ワンダフルライフ』で映画初主演。以降、映画を中心にドラマ、ナレーションなど幅広く活動。アパレルブランド「ELNEST CREATIVE ACTIVIY」のディレクターも務めている。TwitterInstagram

【井浦 新さんの撮り下ろし写真】

 

台本と向き合い、『両刃の斧』の世界観を体になじませて血肉にしていく

──脚本をお読みになって「高い山が目の前にそびえ立っているような感覚」とおっしゃっていましたが、その高い山を越えるべくどんな役作りをされたのでしょうか。

 

井浦 川澄を演じるために特別なことはしませんでした。準備といえば、とにかく逃げずにひたすら台本と向き合い続けることしかしなかったです。そうすることでちゃんと演じるのではなく、川澄として呼吸して生きていられるようになるまで、『両刃の斧』の世界観を体になじませて血肉にしていく。僕にできることはその作業しかなったので、とにかく作品の世界に心も意識も没頭できるように脚本と向き合う、それだけでした。

 

──川澄成克という役について、森義隆監督とはどのようなお話をされましたか。

 

井浦 冗談半分で「川澄ってバカっすよね」、「だよね」とか(笑)。「川澄ってだいぶ分かってないですよね。いいんすか。こんな人がストーリーテラーになって」と僕が言うと、「やるしかないよね」と監督が返すみたいな。川澄について監督と解剖することが僕には癒しでした。

 

──川澄について監督と解剖して特に印象的だったお話はありますか。

 

井浦 監督と話すのも面白かったけど、川澄の妻を演じた高岡早紀さんの妻目線で見た川澄が面白かったです。『両刃の斧』のもう1つのテーマでもあると思いますが、女性の強さが描かれているんです。どの家族も妻も娘も強くて、暴走する男を女性が見守って全部受け入れていくんです。暴走する男たちの先頭を走っているのが川澄で、高岡さんに「本当にお父さんダメな男だね」っていつも言われていました。そう言われたら、「いつもすみません。ダメなのを分かっていてそれを受け入れるってすごいですよね」って言うしかなかったです(笑)。

 

僕が柴田恭兵さんに抱く敬意や憧れをそのまま役に投影することができた

──全編緊張感が漂っているドラマですが、現場では癒しもあったと。

 

井浦 キャストは百戦錬磨の方ばかりですから、緊張感と重厚感のあるキツイ現場をそのままやったら壊れてしまうことを皆さんご存じなんです。でもそこから目を背けてはいけないことも分かっていますし。かといって、みんなでワーワーキャーキャーやるかというと、そうはならない。その空気はこの現場には不向きなことも分かっていますから。でもドラマはみんなで助け合って、協力し合いながら作っていくものだから、みんながずっと眉間にしわを寄せていたら良いものなんか作れないんです。なので、例えば僕が「ダメだよね、この男」って思ったら、皆さんと「本当にダメだよね」ってディスり合うのがちょっとした癒しになるわけです。そうやってちょっと楽しくしていました。でもそれが逆に役への理解を深めていく作業にもなることもあるんです。「そっち側からはこう見えているんだな」って。そう見えているなら今自分のやっていることは間違っていないという確認作業になっていきます。

 

──川澄は柴田恭兵さん演じる先輩刑事・柴崎を尊敬していますが、柴崎にある嫌疑がかかったことから関係性が変わります。2人の変化した関係を演じるのは難しかったのでは?

 

井浦 僕は意外と気持ちを作りやすかったです。僕が柴田恭兵さんに抱く敬意や憧れをそのまま役に投影することができたので。川澄はやんちゃだった若い頃から柴さんにお世話になり憧れて、川澄が家族を持ってからも家族ぐるみで仲良くしている設定なんです。第1話は二家族が幸せだった日から始まるんですが、そこは「笑っていられるのは今日だけだね」なんて話しながら、初日に楽しく和気あいあいと撮影しました。その幸せな一日の中で自分が持っている恭兵さんに対するリスペクトの気持ちをそのまま表していけば、川澄が抱き続けている柴さんへの思いとして形になっていくのではないかと。

 

──疑う立場と疑われる立場と関係性が変わっても、柴崎を尊敬する川澄の気持ちに変化はないということですね。

 

井浦 変わらないです。実は現場でもそのシーン以降、共演が一気になくなっていったんです。ストーリーが柴さんのパートと川澄のパート、2つの軸で展開していくので、恭兵さんに会いたくても会えない状態になりました(笑)。でも2人の関係性は初日でうまく作れたなって思いました。15年前の幸せなシーンで、川澄が柴崎をどう見ているのか、パッと見た瞬間にも伝わるぐらい極端に演じていたので。

 

すごく素敵な景色でした。笑顔の森組のみんながいました

──終盤、柴崎と川澄が対峙する見応えのあるシーンがあります。あのシーンは挑戦しがいのあるシーンだったのでは?

 

井浦 自分にとっても一番のハイライトでした。いろんなことが起きて、川澄がやっと柴さんにたどり着くシーンだったので、気持ちを最高に良い状態にして向かっていくことができました。でも自分の一人語りが長く続くので、台本を何ページ覚えても終わりが見えない。それを繰り返しやっていると、自分で気持ち良くなったりするんです。芝居が乗ってきたりするから。そこが難しかったです。気持ち良くなったら見るに堪えないだろし、絶対にそうならないようにしなければならないと、撮影する前から思っていました。なので、セリフをうまく言うことより、撮影当日までに、その場で自分がちゃんと川澄でいられるようにということを大切にあのシーンは挑みました。

 

──柴田さんとは顔を合わせない状態が続いてからの対峙するシーンの撮影になったんですね。

 

井浦 恭兵さんとは現場で会わなかったので、監督やスタッフさんに「恭兵さんどうでした?」って聞いて、「昨日は本当に素晴らしい芝居をしていたよ」って話を聞いたりするしかなかったんです。本当に恭兵さんって存在するのかなって感じになりました。現場の皆さんの話から、フィルターがどんどんかかっていって、実際に現場で会ったときには、華奢でスマートな恭兵さんが、僕よりもデカく見えたりして。でもそれがいい感じに作用して、恭兵さんが空気の振動が伝わるくらい目の前にいることで、柴さんにのみ込まれていく感覚になりました。恭兵さんにとっても、いろんなことが積み重なってたどり着いた場面なので、2人が対峙するシーンはすさまじいシーンになっていると思います。

 

──撮影が終わって、脚本を読んだときに感じた「高い山」を制覇した感じはありますか。

 

井浦 制覇した感じはないです。僕は趣味で登山をやっているのですが、 “1回の登山でその山のことを全て知れたということにはなれない”と思っていて、どれだけ山に登っても制覇したとは感じない派なんです。僕は現場をよく山に例えるんですが、自然の中なら2度、3度登ることができるけど、撮影は本当に1度きり。刹那なものなので、なおさら制覇したとは言えないです。今回も登頂はしたけど、制覇はできていないです。なんなら登頂したときにはボロボロ。失敗の連続でそこまではいつくばって登ったりして、決して美しい姿ではないんですよ。でもそこでした経験は、必ず自分の糧になっていると信じて登るんです。今回はオールアップしたときに、スタッフやキャストの方、みんながいる景色を写真に収めさせてもらって、やっと登頂したって思いました。すごく素敵な景色でした。笑顔の森組のみんながいました。

 

山の中にある生命の宇宙を感じながら山を登っていくのが楽しい

──ではここからは趣味のお話をお聞かせください。今、登山が趣味とおっしゃいましたが、井浦さんが感じる登山の面白さとは。

 

井浦 まずキツイから面白いというのがあります。僕は頂上にたどり着くまでの過程も好きで、ある意味、頂上にたどり着けなくても、その過程の中で十分満足することもあります。頂上から見る景色ももちろん良いけど、見過ごされてしまう過程での景色……例えば苔や巨石、巨木、すごい形をした木といったモノをじっくり見るようにしています。そういう野性や生命感を味わいながら登っていくのが好きなんです。そうしていると一般的なルートなら片道3時間で頂上に着けるところを、僕は5時間とかかかっちゃうんです。そうなると、頂上まで登って降りることには暗くなるから無理だと分かったら、頂上の景色を見てなくても折り返します。

 

──普通なら通り過ぎる道にいろんな発見がありそうですね。

 

井浦 1つの山の中には、星の数ほど植物があるんです。言い換えれば、山の中には生命の宇宙がある。その宇宙をちゃんと感じながら山を登っていくのが楽しいです。

 

──花や木、苔といったモノに目を配りながら登ると、山頂にたどりつけなくても素晴らしい経験ができそうです

 

井浦 十分です。また機会があったら頂上を目指そうって思うくらいです。

 

──頂上ひたすら目指す登山もありますよね。

 

井浦 僕はまだそっちは楽しめてないです。それじゃ自分が気持ちいいだけじゃないって思ってしまって(笑)。僕は「制覇」するって感覚があまり好きじゃなくて、軽装でバーッと走って、誰よりも早く登れた!というのでは、その山の何を見ることができたのかなって思っちゃうんです。結局、時計ばっか見てない? と。トレイルランニングとか山で走るのも好きなんですよ。だから全部を否定するわけではないけど、僕自身はじっくり派です。

 

連続ドラマW 両刃の斧

WOWOWにて 11月13日(日)午後10:00 放送・配信スタート(全6話)
第1話無料放送 【WOWOWプライム】【WOWOW 4K】 / 無料トライアル実施中 【WOWOWオンデマンド】

(STAFF&CAST)
原作:大門剛明『両刃の斧』(中公文庫)
監督:森 義隆
脚本:鈴木謙一
出演:井浦 新 柴田恭兵
奈緒 坂東龍汰 見上 愛 長澤 樹 / 波岡一喜 高橋メアリージュン
宇野祥平 黒田大輔 ルー大柴 / 手塚理美 内田 慈 カトウシンスケ 信太昌之 川瀬陽太 ベンガル
高岡早紀 風吹ジュン

番組公式HP:https://www.wowow.co.jp/drama/original/ryojin/

【『連続ドラマW 両刃の斧』よりシーン写真】

撮影/映美 取材・文/佐久間裕子 ヘアメイク/NEMOTO(HITOME) スタイリング/上野健太郎 衣装協力/ウールリッチ