ライブハウスを主な拠点として活動するライブアイドル・地下アイドルの中には、スケジュールや予算、音源制作などの管理やマネジメントといった、いわゆる“運営”の業務をメンバー自らが行う、セルフプロデューススタイルが一定数存在する。
室井ゆう。セルフプロデュースのアイドルグループ・エレクトリックリボンのリーダーとして活動しながら、20年7月にはミ米ミとの2人組ユニット・グデイを結成、2つのグループで演者と運営をつとめ続ける日々を駆け抜けてきた。12月18日。グループ加入から5年となる節目に、室井は残るメンバーにグループを託し、エレクトリックリボンを卒業。ほぼ同時期に、室井は次のステージへの扉を開けていた。
12月5日にデビューライブを開催しお披露目されたばかりのアイドルグループ・ねおち。今度はメンバーとしてではなく、「プロデューサー」として、新たなグループをスタートさせた。
AKB48とバナナマンにハマって芽生えた野望
2つのグループのパフォーマーとして、運営として。ライブアイドルの世界を見続けてきた20代現役アイドルがゼロから作り上げ届けるアイドルグループとは。室井ゆうがその先に抱く野望とは。
「モーニング娘。さんの安倍なつみさんがめちゃくちゃ好きだったんです。小さいころは、ミニモニ。さんなど、ハロプロさんのアイドルが大好きでした」
そんなアイドル好きの熱量は、小学生時代にさらに加速する。
「AKB48さんにハマって(笑)。秋葉原のAKB48劇場にランドセルを背負ったまま通っていました」
お笑いにもドハマりする。
「バナナマンさんです。単独ライブのDVDを全部レンタルして、ずっと見てました」
そこでひとつの野望が生まれる。
「バナナマンさんといつか一緒にお仕事がしたい! って。そして、進路について考える時期になったとき、乃木坂46さんのオーディションを受けてみたんです」
そう、乃木坂46の番組のMCをつとめるのがバナナマンだったからだ!
「アイドルになりたいというよりは、バナナマンさんとお仕事ができるということで(笑)。だけど、途中で自分がいる場所はここではないのかなと感じて辞退しました」
その後、秋葉原にあったライブアイドル・地下アイドルたちがパフォーマンスを披露するステージがあるカフェを併設したドラッグストアでアルバイトをするようになる。
「そこで毎日ライブをするアイドルさんたちのステージに触れることで、こういうライブアイドルという世界があるんだ、アイドルってこんなに身近な存在なんだと感じたときに、見て楽しんでいたアイドルという存在が、バナナマンさんとも関係なく、“なってみたい”存在に変わりました」
オーディションに合格し、お笑い芸人・髭男爵の山田ルイ53世プロデュースのアイドルグループ「まどもあ54世」のメンバーとして14年にアイドル・室井ゆうは誕生した。
お笑い好きということで、芸人を目指すという選択肢はなかったのだろうか。
「放送作家という道は考えました。バナナマンさんや他のお笑い芸人さんともお仕事ができるわけですし(笑)。アイドルか放送作家の二択でした」
アイドルを選んだ理由はこうだ。
「今よりもアイドルの年齢的な節目が低かったので、まずは後からは目指せないかもしれないアイドルに挑戦しようと」
約2年の活動後、グループは解散、その後、17年にエレクトリックリボンへの加入が決まり、18年にグループがセルフプロデュースに移行した時にリーダーに就任している。実際にアイドルになってみて、感じたことがある。
「アイドルってもっと自由に楽しんでできたらいいのにという思いがあって。自分が自由に楽しんでいる姿を見てもらいたい、楽しそうだなと思ってもらいたい。そう考えたときに、グループだってひとつに縛られる必要もないんじゃないか、卒業して新たに始めるのではなく、あえて違うスタイルのものを両立させることで、新しい発見やそれぞれへのいい影響が生まれるんじゃないかと思ったんです」
室井の言う「楽しんでいる姿を見せたい」という言葉のままに、バンドサウンドやポップソング、正統派アイドルなど、ジャンルの枠にとらわれることなく、「楽しい」「好き」と感じるものを詰め込みまくったかのような2人組の“超自由音楽ユニット”グデイは、そうして誕生した。
とはいえ、グデイ結成自体は室井の発案ではない。ミ米ミに、ある日、「何か一緒にやりたい」と言われたことがきっかけだった。
「一緒に焼肉を食べているときに突然言われて(笑)。もともと仲の良い友達で、びっくりしたけどうれしかったです。私はとにかくミ米ミの歌声が好きでしたし、その声と一緒に歌えて、楽しいことを一緒に作れるかもしれない、そこが何よりもうれしかったです」
すべてが「自由形」であることにこだわる。
「2人が楽しいこと、好きなことをやるんだからのなら、自由がいいよねって。まずは、自分たちが好きな人に楽曲をお願いしようというところからスタートさせました」
音楽好きの2人が、それぞれの「好き」にこだわり依頼し、作り上げられていく楽曲。エリボンとは違う道、扉が眼前に一気に広がっていく。
SPARK!!SOUND!!SHOW!!、ナードマグネット、PARIS on the City!、cinema staffなど、グデイの楽曲には現在ライブシーンで活躍し注目を集めるアーティストたちの手によるものがズラリと並ぶ。それらは、2人が「愛をもって」お願いした結果だ。
「愛で動かせることって、やっぱりあると思うんです。私が大好きなこの人には私が、ミが好きなあの人にはミがと、全力の愛をもってお願いするというかたちをとっています」
アイドル活動の「お金」事情
エレクトリックリボンとグデイ。ひとくちにセルフプロデュースといっても、両者の動かし方には異なる部分が多いという。
「まずグループの場合、その人数ぶんの衣装代やレコーディング費用がかかります。エリボンの運営はメンバーみんなで行い、最終決定権はリーダーである私にというスタイルなのですが、メンバー個々の思いをできるだけ反映させたいためにそれぞれ話をする時間も必要です。グデイは私とミの2人だけなので、そういう部分はすごくシンプルです」
予算の管理の方法も異なる。
「エレクトリックリボンには、『グループ費用』というものを設けていて、それを軸に、この予算をいつまでにどのぐらいかけるかを考えて活動内容を決めていました。いっぽうでグデイはまずやりたい、やろう、お願いしよう、なんとかなるっしょ! っていう考え方なんです。そうです、真逆です(笑)。グデイは基本的に持ち出し方式です(笑)」
まず走り出してしまうと、ピンチの月だって……。
「あります、あります! そこはもう、とにかくがんばるしかない。グデイのライブの本数が突然増えたりしたら、もしかしたらそういうことだったりするのかもしれません(笑)」
チェキ撮影やチケット売上が収入に直結するライブアイドル、しかも少人数のセルフ運営だからこそできることかもしれない。ところで「グデイ」という名前の理由は?
「ミは、カタカナがいいという希望があって。あとは、略されない名前がいいねと言っていて、そのためにはカタカナ4文字以下ぐらい、そういう条件のもとで候補をいくつか出し合った中から決めました」
いつか海外に進出したいという野望のもと、海外でも通じるという意味も込め“GOOD DAY”の略で「グデイ」。
「なので、英語表記では“GOODDAY”としています……というのが表向きの理由です」
表向きじゃない理由はというと……
「私がグリーン・デイが大好きだからです(笑)。だからアカウント名を『@Gday』にして、こっそり愛を隠しています(笑)」
グデイの一部のロゴや楽曲にもオマージュが込められている。
「『BLASTER』という曲は、ほぼほぼグリーン・デイの『AMERICAN IDIOT』へのリスペクトです(笑)。いつかうちらがめちゃくちゃ売れたときにグリーン・デイみがないと愛が伝わらないんじゃないかと思って」
壮大な野望がある。
「グリーン・デイを自分たちで呼ぶには、一体いくらぐらいあればいいんだろうって(笑)。イベンターさんなどに聞いたりしました。そうしたら、2億円ぐらいあったら来てくれるんじゃないかと言われたことがあったので、必要経費として2億円をためています(笑)」
ファンのこと、自分がいなくなったあとのグループのことを考え、エレクトリックリボンからの卒業には発表から約1年をかけた。
「活動しながら裏で引き継ぎを進めて直前に発表するということもできたのですが、それだとファンの方をびっくりさせちゃうし、心配されちゃうでしょうし。あえて期間の余裕をもって発表することでファンの方も心の準備ができたりメンバーたちの成長過程を見守ることもできるかなと思って」
結果的に室井と同時に複数のメンバーが卒業、エレクトリックリボンは大きく形を変えた。
「仮に私が『もうちょっとやらない?』と説得して残ってくれたとしても、先に気持ちに区切りをつけていなくなる私が言うべきではない。私のいないところでみんながたくさん話し合って決めたその気持ちは尊重したくて。みんなともそれぞれ話をしました。みんな、大丈夫です! それで自分ができることは、卒業のタイミングを合わせるということでした。残るpippiちゃんが中心になって作られていくエレクトリックリボンは、私がいた時代のものときっと違うものになる。そこは純粋に楽しみです!」
妄想を実現させたアイドルグループ「ねおち」のプロデュース
そしていよいよ始動した、おもに楽曲面を担当するDaijiroNakagawaとの共同プロデュースによるアイドルグループ・ねおち。
「ずっと妄想していたことを、ようやく現実にすることができました」
アイドルグループを、ゼロからプロデュースしたいという「妄想」。その妄想には最初からメンバーとしての室井ゆうは存在していなかったという。
「アイドルになってすぐぐらいにはもう、次の目標はこれだなと思っていました。指原莉乃さんのように、ご自身も活躍しながら=LOVEなどのアイドルグループをプロデュースするというのも憧れです。小さいころからアイドルが好きだったからこそ、アイドルたち自身が楽しんで活動できる環境を作ってあげたい。ライブはもちろん、バラエティに出たり水着撮影をしたり、アイドルとして依頼される仕事、アイドルだからできる仕事は一通り全部自分で経験しておこうという気持ちもありました。何かがあったときに、私のときはこうだったよ、こんなふうに感じたよ、と経験として語ってあげられることもできたらいいなって思ったので」
ねおちの目指すものを一言で言うと、「癒し」だという。
「アイドルをやってきた中で感じたことがあって。見る側のがんばる必要がないアイドルがいてもいいんじゃないかっていう思いがあったんです。必ず同じフリをしたりコールをしなければならないものではないと思うし、がんばって応援することに疲れてしまう人もいると思います。周りを気にせずねおちにゆだねて癒されてほしい。女性も学生も、身体が不自由な方だって、それぞれの楽しみを感じられるようにしたい。だから、主催ライブのときはあえて着席というスタイルにこだわりました」
開催されたデビューライブは、一定のコンセプトが貫かれた楽曲と、それに合わせた統一感あるパフォーマンス、さらにはモニターでの映像も駆使した、室井ゆう流の「癒し」に包まれていた。無事デビューライブを終えた室井を直撃すると、
「メンバーみんなががんばったことが伝わってきましたし、終わったあとにファンの方にも『着席ということに意味があったんだね』と言っていただき、ねらいはちゃんと伝えられたのかなと、ほっとしました。椅子の位置にもこだわりました。いい形でお披露目できたのではないかと思っています」
手応えを感じながら、少しリラックスしたように笑っていた。
「楽曲も、もう少し分かりやすかったりポップなものにしたほうがいいのかとも思ったのですが、自分が今のベストだと信じるものを届けました。これまで考えてきたこと、今やってみたいことが、ねおちだということですね。ライブで流した映像も私が作りました。パフォーマンス以外の運営チームでできることは全部やるという感じです」
ねおちのライブ会場で、室井は場内設備の整理や終演後の物販でのチェキ撮影など、スタッフ業務に徹していた。
「レコーディングに立ち会ったときなんかに、この曲歌ってみたいなと思ったりもしましたが、(ステージには)出ないです。断言しておきます(笑)」
この先、ねおちが大活躍し、バナナマンとの共演を先に叶えてしまうことだってあるかもしれない。
「ついていきますが、見守っています(笑)。私の夢を叶えてくれたということに満足します」
室井ゆう、ますます忙しい2023年がやってきそうだ。
「エレクトリックリボンでの活動が終わることでグデイの活動が増える予定です。いろいろなものに縛られず、飛び越して、スピード重視というこれまでのグデイとは違う見せ方も、いろいろたくらんでいます。ねおちは、まずは名前や存在を知ってもらうこと。たくさんの方に愛されるグループにしていきます」
やりたいこと、好きなことは増えるばかりだと笑う。
「どんどん増えていく(笑)。頭の中の妄想、想像がありすぎて。時間だけが足りないです。……分身したい!(笑)」
2億円もためないといけない。
「年末ジャンボ、買ってあります!」
突如グリーン・デイの来日が発表され、しかもそれがグデイとのツーマンライブだったりしたら……
「室井、1等当てたんだ! と思ってください(笑)」
(執筆:太田サトル/撮影:我妻慶一 ※グデイ アーティスト写真、ねおち 写真をのぞく)
【INFORMATION】
GOODDAY!!!!!!
日時:2022年12月30(金)
会場:高円寺HIGH
開場:18:30 / 開演:19:00
出演:RAY/CONFVSE/グデイ
ADV ¥3000 / DOOR ¥3500
【詳細はこちら】https://tiget.net/events/216757